殺意の斬撃
初めての異世界での夏休みも終盤に差し掛かった頃、風斗は討伐依頼をこなしていた。
風斗の冒険者ランクは変わらずGランク。今まで採取依頼で小銭を稼いでいたが、夏休みも終盤に差し掛かったということで本腰を入れてランクを上げようということだった。
今回はコボルトの討伐依頼である。背が低い犬の頭をした魔物で、数匹の群れが村近辺に現れたそうだ。
いつものようにリシュと共に行動しているが、今回はカリストも一緒である。
「そろそろ目撃された所だね」
カリストが風斗に周囲の探索を行うように言うと、風斗もマナ感知を展開させる。
「ここから一キロ先に六体のコボルトが居ますね。何やら怯えているようですが」
観察眼をズームのように活用しながら、魔物の特徴を捕える。
「行きましょう。」
リシュの掛け声と共に一同はコボルトがいる場所へと駆ける。
ものの数秒でコボルトの眼前へと到達する三人。怯えた様子のコボルトも確実に命を狙わんとする敵を認知すると、持っていた小剣を構える。
リシュとカリストは一歩後ろに、逆に風斗は前に出る。あの日と同じように銅の剣に手を添えると、戦闘を開始した。
コボルトの後ろにいる一体が、弓を引き矢を放つ。その矢を軽く避けると、一気に距離を詰め前に出ていたコボルトの一体の首を跳ねた。
殺された仲間に驚く間もなく二体目のコボルトのコアを的確に貫くと、後ろに展開させていた魔法陣から魔法が流星のごとく飛び出す。
「風魔法『迅速の風槍』」
暴れるような軌跡を描きながら三体のコボルトの胴体を貫くと同時に残りの一体を剣で仕留める。
剣についた血を払うように薙ぎ払う頃には、その場に立っているコボルトは一体もいなかった。
「風纏を使っていたマナ反応も無いし、よくここまで成長したね」
カリストの素直な賞賛を風斗はくすぐったいような笑顔で受ける。
「改善点はまだまだ多いですけど、とりあえずここまではなんとかできました。」
風斗はチラッとリシュの方を見るとニコリと笑う。ここまで成長できたのは何よりリシュの協力があってからこそだ。リシュも同様に笑顔を風斗に向ける。
カリストはその様子に満足気な顔で頷き、コアを拾いあげようとしたその時。
「きゃあああああああああああああああ」
突如風斗達先方の森の中から、悲鳴が上がる。その声にカリストは厳しい顔で言葉を吐く。
「この先の村からだね。行ってみよう。」
急いでその場を後にし、村があるという所に向かうとその場は血で染め上げられていた。
何人もの村人だった者が転がり、血溜まりが多く生成され、逃げ惑う村人がそいつに新しい肉塊へとされていた。
荒れ狂う者が風斗達と目が合うとニヤリと顔を歪める。新しく来た獲物をどうやって殺すか考えるような下卑た笑みだ。
眼下に広がる光景に滲む嫌な汗を拭いながら風斗が言葉を紡ぐ。
「ライカン...スロープ...!」
この惨状を作り出した魔獣の名前であった。ライカンスロープと言われているそれは、大きさ2mをゆうに超えた狼男。
筋肉に守られたコアを貫くのは容易くなく、刀のような爪や牙には、撫でられるだけで即死するであろう。
現に何人もの村人が犠牲になっている。リシュとカリストは戦闘態勢を整えていたが、そこで待ったがかかる。
「すみません、ここは僕に任せてくれないでしょうか」
滲む嫌な汗を拭いながら風斗が二人に話す。その言葉に反応しそうになるのを抑え、リシュが静かに問う。
「ライカンスロープはCランク相当の複数パーティー推奨の魔獣ですよ?さすがに一人では...」
腰に手を添え、様々な可能性を考えながらリシュに返答をする。
「もちろん分かってるよ。でも僕自身がどれだけやれるかを見極めたい。それにやばくなったら全力でリシュに頼るよ」
一瞬だけリシュに微笑んでから風斗は、カリストの方をむく。
「カリスト先生一つ課題を破ってもいいですか?」
「今の風斗君なら大丈夫だね。思いっきり行きなさい」
その言葉に反応するように風斗は言葉をぽつりぽつりと、自分に言い聞かせるように話す。
「久々だからお前の使い方忘れてそうだよ」
ふふっと自傷気味に笑う。この世界に来てから初めて自分自身で作った魔法。
その魔法に会えることが楽しみなように風斗は名前を呼ぶ。
「武装魔法『風纏』」
その言葉に答えるように、彼の全身に優しい風が纏った。
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「ガアアアアアアアアアアアアア!!!」
ライカンスロープが雄叫びをあげながら、その爪で風斗を狙う。何度も地面に爪痕を残すが一向にその攻撃は当たらない。
青筋が立ち並び、ビキビキと金肉が引き締まる音がライカンスロープから鳴り出す。
「(風力場も普通に破壊してくるか。結構マナを込めて硬いはずなんだけど)」
風力場と風纏を使い、何度も攻撃を避けるが風斗は初級風魔法を使ってばかり。
ライカンスロープの屈強な筋肉の鎧にはかすり傷程度の傷しか残らず、それも急速な代謝でみるみるうちに治ってしまう。
小手調べを風斗が行っている裏で、カリストとリシュは住民の避難を誘導させていく。ある程度の距離に全てに住民の避難が終わった頃、風斗が動きを見せた。
「そろそろいいかな。風魔法『移し風』。」
そう言い風斗は冒険者用のコートに仕込んである三本のナイフを、ライカンスロープの右脚、左腕、顔に投げる。
観察眼でマナと筋肉が薄い所を見極め、マナが張られているナイフが足と腕に突き刺さる。
顔に投げたナイフは頬に切り傷を残し、地面に突き刺さった。
先程の攻撃より格段に強い痛みにライカンスロープの顔が歪む。
雄叫びをあげながらナイフを抜くと、すぐさま風斗に襲いかかろうと走り出した。そう走り出してしまった。
「ガウウウ?」
素っ頓狂な声をあげながら地面に尻もちを着く。先程の怒りを忘れ、素っ頓狂な顔を見せるライカンスロープ。
風斗はつかつかと歩み寄る。
「風纏を一時的にだけど他人に付与できるようになったんだ。体の高速化に慣れていない相手には効果的な魔法なんだよ。」
右足に風纏が付与され、そのことに気づかなかったライカンスロープが、足の操作に躓いた結果だった。
いまいち状況が呑み込めない相手に風斗は一瞥だけすると、斬撃の乱舞を始める。
周りに風力場を複数枚展開し、飛び回るようにライカンスロープの体に傷を増やしていく。
「ガアアア!アアア!ガウウウ!!!」
雄叫びと共に自慢の筋肉の鎧が傷つけられ、体にダメージが蓄積していった。
反撃に出ようにも片方の足が上手く扱えず尻もちを付き、風斗を目で追おうにも顔面にかけられた風纏で追うことすらままならない。
座ったまま反撃しようとするが、右腕にかけられた風纏のせいで体のコントロールがつかず、空振りの連続。
その間にもマナが鋭く張られた剣が、ライカンスロープを捕食し続ける。
風纏が切れ、体の感覚を取り戻す頃には自慢の牙や爪は折れ、耳は削ぎ落とされ、体からの出血で床に血溜まりを作っていた。
先程の獲物を見るようななぶるような視線はなく、今は完全に戦意をなくした犬がそこにはいる。
そして風斗は冷めた目線を犬にくれると、殺意を込めながら呟く。
「お前が誰を殺してどう生きようが、興味が無いし僕には関係ない。だけどここの村人とぼくの邪魔をするなら潰す」
その言葉が届いているのか届いていないのか分からないが、ライカンスロープは立ち上がり雄叫びをあげる。
身が震えるような迫力と殺意に、後ろで見ていたリシュとカリストは自然と腰にかけている武器に手を添えていた。
だが対面している風斗は依然とした態度でどっしりと腰を落とし、体に流れるマナに集中していた。
「ガアアアアアアアオオオオオオオ!!!」
体が吹き出る血を止めようともせず、いつの間にか再生している爪で風斗を八つ裂きにしようと突進してくる。
蹴り出した地面は抉れ、純粋な殺意を持ちながらその理不尽は風斗を殺そうと足を動かし続けた。
リシュとカリストが風斗を守るように動こうとした時、風斗が構え言葉を吐く。
「剣技」
マナが全身に迸り、剣先にマナが多く集まり、台風の様な渦を巻き起こしている。
小さくつぶやき、眼前に迫るこの世の理不尽に殺意を定め、質量を伴ったような残りの言葉を吐き出した。
「『神威豪風斬』」
数メートルあるライカンスロープとの距離を一気に詰め、マナが込められた銅剣とともに斬撃を放つ。
「アアア、ギャ?」
思考する間もなくライカンスロープの身体が、遥か後ろに配置されていた家屋と共に真っ二つに断裁される。
勢いよく走っていたせいもあり、身体が風斗の目の前でパックリと割れて肉塊となり、地面に突っ伏した。
勢いよく吹き出た血を風斗が全身に浴びながら、銅剣に視線を落とす。
今日買ったはずの銅剣が、砂のようにボロボロと崩れ原型を失い、手から離れるように消えるのをゆっくりと見る風斗。
その様子にリシュとカリストは言葉を失った。




