風斗の成長、可能性
風斗達の朝は早い。早朝日の出とともに体を起こして、日課の身だしなみを整える。もちろん風斗の髪の毛はリシュに整えてもらっている。
身だしなみを終えてからは、庭先で体を少し動かし、剣にマナを貼る練習。その剣での軽い打ち合いを行い、組手をする。
組み手で汗をかき始める頃には朝食ができており、それを食べてからはこの世界の勉強。
昼頃からは昼食を食べてからギルドでの任務を数個ほどこなす。夕方には剣と魔法の組み手、及び勉強を挟み、夕食後には自由時間という過密スケジュールをこなしていた。
一つ一つの密度が濃すぎるが故の過密スケジュールだが、それも一週間頃には慣れ、今は二週間目の終わり。夏休みも4分の1が過ぎていた。
そして同じような朝を迎える風斗だったが、今朝は違った。
「風斗君、今日俺の工房を手伝ってくれるか?」
朝食の時にネモが風斗に尋ねる。なんでも工房で働いている人の奥さんが今日出産らしく一日付きっきりで、居たいらしい。
「はい、いいですよ。時間はいつ頃が良いでしょうか?」
「昼頃に工房に来て欲しいんだ。場所はリシュちゃんから聞いてといて」
そう言い朝食を口に放り込むと、ネモは急いで家を出て行った。
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「へぇ〜ここがネモさんの工房!」
住民区を超え商業区の中にひっそりとある煉瓦造りの工房。
中は様々な用途で使われているであろう道具が壁にかけられており、所々には商品にでもするのか、武器もぶら下がっていた。
その中でも目を引く真ん中に設置されている竈。あの日の龍の口のような大きさの円の中には、マグマと大差ない炎が揺らめいていた。
数人の従業員の中、汗を滝のように流しているネモを風斗は見つける。
「ネモさん、こんにちは。」
「ああ、風斗君来たか。ちょいとばかし待ってくれ」
そう言い金槌を大きく振り下ろすネモ。その瞳はいつもの碧眼ではなく、緑色の光を灯していた。
「(観察眼特有の変色?でも、鍛冶仕事に必要なのか?)」
湧き出た疑問を解き明かそうとしているとネモの仕事が一段落したようで、風斗のところに歩いてくる。
初めてあった時と同じような作業服身を包まれている彼は、家で見るような柔和な雰囲気はなく厳格な職人と言った方が差異がない。
「ありがとう来てくれて、それでもって今日風斗くんに来てもらったのは観察眼を使ってうちで使う材料の仕分けを手伝って欲しいんだ」
「仕分け、ですか?」
「ああ、うちでは...」
まとめるとこの世界では銅や鉄、ミスリルなど様々な鉱石や魔物から得られる骨や牙で武器を作成している。
それを時には溶かし、時には加工しを繰り返すことでより強い武器や防具が生まれる。それがこの世界の武器と防具の一般的な知識だ。
今回はそのための材料の選定を風斗に行って貰いたいということだった。
だがしかしここでひとつ懸念が生まれる。
「僕にできるでしょうか?」
「観察眼持ちなら余裕だよ。」
即答でネモは答え、それにね、と付け加えるようにネモは続ける。
「観察眼は確かにありふれた固定技能だけど使い方次第では様々なことが出来るんだよ。」
「観察眼だけで色んなことができるんですか!?」
「努力次第だけどね」
その言葉に反応する風斗、即座に返答をする。
「やらせてください」
断固とした決意を宿した言葉に、ネモは確かな思いで頷く。やはり彼を選んでよかったと。
「じゃー早速始めるか!風斗君、君の観察眼では何が出来る?」
「観察眼を発動すると世界がスローモーションのように遅くなります。」
「こりゃまた難しいのを使ってるね」
「?」
「観察眼はなんていうかな、いろんな派生があると考えてもらったら楽かもしれない。風斗君みたいに自分の感覚に影響を及ぼす効果もあるし、俺みたいに対象物にだけ作用するような効果もあるんだ」
先程のネモのマナ反応を思い出す風斗。
「俺のは加工する物のマナや強度が分かる効果。これで金槌で打つ時、最も効果を高めて品質を上げれるってわけ」
ついでに、とこの場にいる観察眼持ちの効果を教えてもらう風斗。全員分終わると風斗は面妖な面持ちで考え込んでしまう。
「(観察眼にこれ程の可能性があったなんて、というか説明全部カメラのようなものが多かったな...)」
対象物にズームする、スローモーションにする、赤外線のようなもので脆い部分を把握など、カメラ機能に当てはまるものが多かった。
「とりあえず簡単な効果なら直ぐに教えられるから、やってみようか」
「はい!」
そして風斗の工房でのバイトが始まった。
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目頭を抑えながら商業区を歩く風斗とリシュ。工房前でリシュが風斗を待っていたそうで、今は二人で一緒に帰っている。
「どうでした?お父さんの工房は」
「学ばせてもらえることが多かったね。何個か使えるようにはなったと思うけど、まだ実用段階ではないかも」
ズームと赤外線のように物体を少し透かす能力を手にしたが、思った以上にマナ消費が多く、何度もマナ枯渇気味になった風斗。
だが、確かな手応えも感じていた。
「すごいね。努力次第で、ある程度できることが増えるなんて」
嬉しそうに話す風斗の横を歩くリシュの顔もとても綻んでいる。
「私が教えたのは技能の一つだったんですね」
「まぁ技能に派生があるなんて普通は思わないよ。最初の通行手立ての時のお姉さんも知らなかったみたいだし」
そしてゆっくりと商業区を歩いていたが、やがて家に着く。すると先程までのホンワカした雰囲気はどこへ行ったか、鋭い狩人のような雰囲気に包まれる二人。
庭に行き、お互いに距離をとりいつの間にか用意した武器に手を添える。
その様子を家から眺めていたリシュの母シランは、持っていた木の枝を放り投げた。
木の枝が夕焼けを浴びながらその体を幾重にも回転させ、地面に着くと同時に二箇所の地面が抉れる。
ガキィン!!!
剣とレイピアがぶつかる音がその場を支配する。お互い火花が出そうなほど剣を交差し、何度も撃ち合う。
そしてお互いにバックステップで、距離をとるのと同時に魔法が相手を狙いをさだめる。
「氷魔法『氷弾の軌跡!』」
「風魔法『迅速の風槍!』」
お互いの背後に立ち並んだ幾重もの魔法陣から凄まじい一撃達が、空中に軌跡を残しながら飛び出していく。
だが、
「!?」
リシュの氷のつぶて達がほとんど発射と同時に相打ちで消えていく。さらに物量が多い風斗の風魔法が相手を自動追尾で追う。マナの軌跡が一つ一つの一撃から流れ出て、それは地上の流星を彷彿とさせる。
「(異様に魔法の弾速が早いですね。なにかしましたね風斗さん!)」
考えを張り巡らしている中でも、風斗の悪魔のような連携は続いていく。次第にリシュ自身も余裕がなくなって来ていた。
「くっ!」
マナを貼らせたレイピアで複数をいなし、起動を変えながら、空いた左手で魔法を放ち迎撃していく。
だがその隙を風斗が見逃すはずもない。地面を蹴りあげ一気に風斗が近づく。
「はぁああああああ!!!」
マナを纏った一撃がリシュを襲う。
がしかし
「なっ!」
風斗の目が捉えたのはリシュが空中を蹴りあげながら風斗の一撃を避けている姿だった。
さらに空中を蹴るように宙返りをし、風斗の背後を取る。そこから迅速のレイピアの動きが風斗を背後から狙った。
ガキィィン!!
背後からの一撃を見ずに剣で防ぐと、振り払うように斬る。リシュは軽く宙を舞うようにその一撃を受け止め後方に飛ぶ。
風斗はリシュとの戦闘中、観察眼とマナ感知を同時に行っていた。左右の目で色が違うためさながらオッドアイのように煌めく。
そのマナ感知が捉えたのはリシュの足元にほんの僅かだけのマナ反応。風力場のような魔法の一種とは異なるものだった。
一瞬のその呆気に取られている瞬間をリシュが逃すことなく、左手を上向きにあげながら握りつぶすような動作をとり魔法を放つ。
「氷魔法『大地の氷牙』」
風斗の地面が急速に凍り、左右から地面を抉りあげながら大地が牙を剥く。
ぱくりと風斗のいた場所を飲み込むが、風斗は空中に避難。風力場の上に立っていた。眼前に広がる光景に思わず喉がなる。
あの場にいれば確実に致命傷は避けられなかっただろうと。
降り立ち、息を整え、敵を定める。彼女も同じように剣を構え、確実に射抜こうと目を離さない。
葉っぱが落ちる数秒も永遠と思うほどの緊張感が途切れそうになる一瞬。お互いの口が開く。
『迅速の...』
「剣技『三連咲き』」
リシュの体がマナで包まれ、動きが早まる。瞬時に風斗の目の前に移動したそれは、風纏などの高速化とは差別化された物。身のこなし、剣の扱い、視線の位置など全てが完璧な攻撃であった。
目にも止まらぬ速度で繰り出されたレイピアによる三連撃が風斗の寸前で止まる。
汗が剣先に触れる頃には風斗は持っていた剣を地面に落とし、降伏のように両手を挙げていた。
「参りました。」
その言葉に満面のドヤ顔をこぼすリシュに風斗が不満げに言葉を紡ぐ。
「あと少しだったのに、というか僕が知らない技術今回多くない?」
「先輩としての威厳は守らねばならぬのだよ。風斗君」
相も変わらずドヤ顔で胸を貼るリシュにやれやれと言ったふうな顔を浮かべる風斗。夕食ができた声を聞き、二人は食卓へと急いだ。
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「魔物にもいろんな派生があるんだね。」
夕食を食べ終え、一通りの庭の修繕を終えた風斗はリシュから講義を受けていた。講義と言っても庭先で星空を明かりとしながらの会話だ。
気になったことやリシュ自身が教えたい事などを会話するのはもう日課になっていた。
ノートのような紙の束に羽根ペンで文字を綴る。
この世界の魔物と呼ばれる者は世界の三分の一を占める大陸から攻めているとされている。が、実際身近にも魔物は存在している。ゴブリンやオークがそうだ。
リシュが風斗の疑問に答える。
「魔物と呼ばれる者は大きく三種類に分かれます。魔物と魔獣と魔人。一応風斗さんは全て目にしたことがありますよね?」
グラン祭で対峙した使役魔獣、最後に襲った魔人、最近出会った魔物など記憶を探る風斗。
「大陸から攻めているという認識は間違っていませんが、魔物達は繁殖と発生を繰り返している。という事が大前提です。」
魔物は基本的にはマナが色濃くある場所などに発生する。魔物が攻めている大陸は有り余るほどのマナがあり、そのため魔物が多いのだ。
また魔物は発生と繁殖が多いのに対し、魔獣はほとんどが発生である。魔人は完全に発生でしか生まれず、災害のように認知されていた。
「だから身近にも居るし討伐依頼で減らさないといけないんだね」
「稀に知能の高い魔物や魔獣が生まれて会話などができるんですが、やはり基本的には敵対関係になってしまいますね」
苦笑いを浮かべるリシュに風斗も同じように形容できない顔を浮かべる。この世界でも相容れない者同士は存在するんだと再認識させられる。
「それで、風斗さん!あの時の魔法の攻撃、すごく早かった気がするんですが!」
突然今まで我慢していたように、顔の近くで目をキラキラさせながらリシュが質問を繰り出す。
慣れた様子でリシュを離すと風斗がカラクリを話し始める。
「あれは魔法自体を風纏で纏ったんだよ」
「風纏で、ですか?」
「うん、自分にかけないと言われたけど自分の魔法とは言われてないからね」
ぺろっと舌を出して悪戯な顔で笑う風斗。風纏は対象の速度をあげるいわば装備魔法である。理論的には可能だが、それはリシュには到底出来ないと言える代物だった。
「異なる魔術式を混合させるなんて、普通ではできませんよ...」
コーヒーと牛乳を混ぜないで、どちらかを包むようなことを風斗はしていた。
「もちろん何度も試行していたよ。夏前から考えていたんだけどね、この間やっとの事でできたんだ。」
「風斗さん、今の睡眠時間ってどれぐらいですか?」
その質問に一日の行動や行動時間を逆算し始める風斗。そして口を開く。
「ざっと三時間ぐらいかな?」
「寝てください!バカ!」
「ところでさっきの剣技って...」
「睡眠時間増やすまで絶対に教えません!」
満点に星空の下で繰り広げられるしばらくの押し問答を、にこやかな顔で見守るアンベリール夫婦であった。




