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久々の特訓です!

 リシュ宅に歓迎され、部屋へ通される。内装や場所的に客間だろうか。リシュは用事があると母親シランと共に台所に行ってしまい、目の前には先程のリシュの父親ネモ。


 だが、初対面の時に見せた笑顔はそこにはなく厳格な父親と言った方が差異無い姿がそこにはある。


 時計の音を刻む音が嫌に響くほど、客間は静かさに充ち鈍重な雰囲気であった。


「(やはり、僕は怒られるのか。)」


 様々な洞察を行い考察する風斗。グラン祭には様々な人の中に生徒の親も当然来る。色々なことをやらかした挙句、リシュの家にご迷惑になったのだ。


 さらにリシュが父親の前でとった行動により溝は深まる一方であろう。あのニヤニヤ顔もおそらく自制心のこらえた結果であろうと、風斗はコンマ数秒で計算する。


「(土下座か、最悪誠意を見せなくていけない)」


 風斗も眉間のシワがよるほど、考え込んでいるとネモが重々しく口を開いた。


「風斗君、リシュの友達になってくれてありがとう!」


「へ?」


 思いもよらぬ反応に素っ頓狂な声が出てしまう。


「リシュちゃんはこう言うのもなんだが、本当にできた娘なんだ。学校でも成績が良くて、家の仕事も率先して手伝ってくれる。」


 普段のリシュの行動を思い浮かべる風斗。確かに面倒みの良さが滲み出ている場面が多い。


「でも、学校の友達のことを話したりしないし、グラン祭もあんな感じだったから...」


 そこで言葉を詰まらせるネモ。グラン祭で見るあの氷のようなリシュを思い出しているのだろう。風斗も最初驚いたのを思い出している。


 あの快活なリシュとは対照的なあの姿を。


「だからリシュちゃんが君を抱えて家に帰ってきた時は、本当に驚いた。開口一番に『友達を助けてください!』ってね」


 いつしか鈍重な空気はとうに消え、ネモの顔にはあの時見せた笑顔が咲かれていた。


「風斗君には申し訳ないが、あの時は嬉しかった。リシュちゃんが私たちを頼ってくれて、あまつさえ友達を連れてきた事実に。」


 爽やかな笑顔と共に、そこには確かに親の姿があった。


「こんな駄目な私たちから生まれた出来が良すぎる娘ですが、これからもよろしくお願いします。」


 突然頭を下げられ、あたふたする風斗。動揺が隠せない。


「い、いやこちらの方こそ娘さんには良くして頂いて...とりあえず頭を上げてください!」


 そう対応すると頭を上げ、深く椅子に座り直すネモ。若干目には涙が浮かんでいる。


「ああー緊張したー!もう引かれたらどうしようかと」


「これをわざわざ言うために?」


「そうだね、グラン祭以前に風斗君の話はリシュから聞いていたからいつもお礼を言いたいと思っていたんだよ。」


 そう言いパタパタと顔を仰ぐ仕草をする。余程緊張したのだろう汗が滲み出ている。それは風斗も同じだが。


「それとね風斗君。」


 座り直し、真っ直ぐに風斗を見つめるとネモが切り出す。


「君の現状は私たち夫婦もある程度は知っている。遠方にある家に現在帰れなくて、野宿をしいられていると」


 少し真剣な眼差しに風斗も、姿勢を直す。さすがにリシュも親に異世界の話はしていないらしい。


「はい。宿に泊まろうにも何処も空いていなくて...」


「だからこその提案だ。」


 こほんとひとつ咳払いをするネモ。


「ここを宿として使ってくれて構わない。」


「え、でもそれは...」


「話は最後まで。私たち夫婦は無償でも構わないんだけど、リシュから風斗君は恐らくそれで了承しないであろう趣旨は聞いている。」


 風斗は極力人に貸し、もしくは迷惑をかけないで今まで生きてきた。その考えは異世界でも変わらずある。それを見越しての提案をしてくる。


「一日銀貨一枚。それを宿代として、たまに私の仕事を手伝って欲しい。俺はここら一帯の鍛冶職人をしててね。今人手が少し足りないからたまに手伝いに来て欲しいんだ。」


「この条件で君をうちに迎え入れたいんだけどどう?」


 宿で食事付きで一泊するのに必要な銀貨は、平均で10~11枚がこの街の相場である。必要な時に労働しなければいけないことを加味しても完全な好条件。


 風斗に断る理由などなかった。


「はい。こちらこそこれから短い間ですがよろしくお願いします!」


 勢いよく立ちぺこりと頭を下げる。その姿に納得したような顔をするネモ。風斗に近づき、肩に手を置く。


「大丈夫。夏休みの間は第二の家だと思っていいんだ」


 その言葉に風斗は目頭が熱くなるのを感じる。彼にとっての今までの夏休みは地獄でしかなかったから。


『お前はこれから勉強と嗜みを毎日行う』

『宿題?お前はまだそんなことも終わっていないのか』

『お前は春野家を継ぐ意識があるのか!この凡才が!』


 いくつかの言葉が脳裏にフラッシュバックする。だが自然と今は心が軽い、そんな気がした風斗であった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 夕食後、リシュ宅の庭でゆっくりと星空を眺める風斗。元いた世界にも数える程しかなかったこの光景が今は日常だ。


 隣にはリシュ。同じように星空を眺めながら、今日のことを話していた。


「良かったんですか?ランクを上げれたのに」


 ギルドでのやり取りの後、リシュはその事が気がかりであったらしい。


「ほとんどリシュの力だったし、何より自分の置かれている状況以上のことは望みたくないからね」


 背伸びをすればある程度はこなせる。それは元いた世界でも異世界でも変わらないが、それが続けばいずれ綻びが生じる。


 最初は小さなものでも、気づけば取り返しのつかない大きな溝となり身を滅ぼすものだ。


「ところでリシュ」


「はい、何でしょう」


「夕食がオーク料理なんて知らなかったんだけど...」


 風斗に振る舞われた今日の夕食は、オークの顔の肉をふんだんに使った料理だった。初めは美味しいお肉だなぁと食べ進めていた風斗だったが、オークの顔の姿焼きが出てきて全てを察した。


 味はとてつもなく美味かったのだが。


「魔物を使った料理は抵抗がありましたか?」


 その問いに少しの間、考え込む。だが直ぐに返答をする。


「いや、驚いただけだよ。あんなに美味しいんだ、これからも食べたいと思ったよ。」


「はい!」


 そして傍らに置いていた剣を持ち庭に行くリシュ。


「久々に特訓ですね!やりましょう。」


「うん。」


 風斗も同じように剣を持ち、リシュの隣に並び立つ。夕食時にリシュにオークの依頼の時のことを教えてもらうことを約束した風斗。


 まずは剣のカラクリからだ。


「マナを体に薄く張ることはもうやっていますね。」


「身体強化だね。もう意識しないでほとんど出来るかな」


「マナを内面に満遍なく流れさせることで、身体の能力の向上を図る。なら外側になら?」


「!?」


 何故こんな初歩的なことを忘れていたんだろうと風斗は思う。


「剣を自分の一部のように考えて、マナを薄く張るように...」


 そう言うとリシュは銅製の剣にバターを塗るかの如く薄く這わせる。


 マナ感知をしながら見る風斗の目には、銅製の剣に薄くマナが張られていることがわかるが、それは剣の形に即した鋭いものに見えた。


「剣に限らずほとんどの物であればマナを這わせることが出来ます。ですが能力の向上をすればいいなんて安易に思わないでくださいね。」


 その言葉の真意を知る風斗。例えば包丁の切れ味をあげようとマナを這わせたとしたら、能力が上がりすぎてまな板所か、家そのものを裁断しかけない。


 適材適所、その言葉が脳裏に浮かぶ。


「では、風斗さんもやってみて下さい。」


 言われる通りにやってみる。剣の上に手を置いて、体の一部だとイメージをする風斗。


「(体の一部、体の一部...)」


 目を閉じ意識を集中させる。マナが手先に伝わり、剣の上に貼られていく感覚が脳に伝わる。


 そして剣先まで手を振り終わり、目を開け自分の剣を確認する。だが、それはリシュと見比べると、マナが肥大化した棍棒のような姿があった。


「すごい不格好だね」


「ま、まぁ最初はみんなそんなもんですよ!」


 風斗とリシュはお互いの剣を軽く打ち合ってみる。すると直ぐに風斗の剣が半ばから折れ、空中を舞った。


「マナを多く纏わせる事がそのまま強いんじゃないんだね。」


「はい。使うものに沿った形で鋭利に、時には鈍重に這わせるイメージが大事ですね。」


 ドカッと地面に腰を下ろし、星空を見る。空には変わらず数多の星が煌めいており、自分をちっぽけな存在だと思わせる迫力があった。

 

 隣にリシュが腰を下ろす。同じように星空を眺めながら。


「カリスト先生からの夏休みの課題について考えてますか?」


「うん」


 夏休みの課題と称された修行内容。それはいきなり第三等級に上がることになってしまった風斗を守る救済措置でもあるのだが、それを理解していたとしても内容が内容だった。


 確か、と思い出すようにリシュが話す。


「体術と学術の強化。さっきやった剣にマナを張る練習と魔法の根本的な操作の獲得及び強化ー」


 それと、と風斗が付け加える。


「風纏を自分にかけることへの制限...。」


 風纏での戦闘に頼っていることと、純粋に知識量がないことの懸念でこのような内容になった。


「厳しい...ですね...」


 真顔で空を見つめ続ける風斗の横で、厳しい面持ちで話すリシュ。だが、その言葉に風斗はあっけらかんとした声で返事をする。


「別に難しいわけじゃないよ?今まで通りのことに変化があっただけだし」


 それに、と付け加えるように言葉を添える。


「今は独りじゃないから」


 その言葉の真意をリシュが理解したかどうかは定かではないが、横に座り夜空を見上げる彼女の顔はどこか嬉しそうな表情だった。

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