二人の救世主
「どちらかといえば空が僕のことを好きだったみたいです...」
そう震える唇を噛みしみながら風斗は軽くおどけて見せた。
直前まで宇宙と空との間に位置するような所から突然投げ出され、何度も生と死の実感を味わったとは思えないほどの貫禄。
おそらくちゃんとした意味での生の実感と今まで死を放っていた地面への着地で、思考に余裕が出たのだろう。ただし体は未だその恐怖を放しておらずガクガクと小刻みに震え、汗は滝のように流れている。
その様子に気がついたのか金髪の少女が、持っていた筒の上部を捻り中の液体を注いだ物を手渡してきた。日本でいうところの水筒のようなものである。
「どうぞ、お体と心が休まりますよ」
朗らかな笑顔と共に軽く会釈をし受け取った風斗は早速その中の液体を飲み干した。鼻を通り抜けるハーブの匂いと口の中に広がる柑橘系の爽やかな味わい。
もといた世界にはないような味に舌鼓を打ちながらも体を清流のごとく流れる感覚に程よい安堵感を持つ。
徐々に流れていた汗が止まり、呼吸と体の震えも穏やかなものへと戻っていった。風斗が一息ついたところで二人組の中年男性のほうが自己紹介をしてきた。
「だいぶ落ち着いたようだね。私はこの先の都市で教師をやっているカリスト・エドウィン。よろしく空から落ちてきた少年」
そう柔らかい笑みをしながら手をさし伸ばしてきた中年男性。背は180前後と高めで髪の毛は薄い緑色短髪、白髪を少し生やしながら顔にも皺が少し浮き出ている。聡明そうな佇まい言葉遣いに教師という職業がしっくりくるという様子だ。
風斗も同じように手を差し出し握手をしながら自らも自己紹介をする。
「春野風斗と申します。助けていただきありがとうございました」
カリストと、うって変わりその笑顔は使い古された笑顔だ。よほどの観察眼がなければわからないが、目の奥は笑っておらず確実に表面上の笑顔である。
日本にいた時の癖だろうかそれとも生涯を通して刷り込まされたものだろうかどちらにしろカリストの自然な笑とは対称的であった。
「礼なら彼女に言った方がよいかもしれないね。何しろ君に気づいたのは彼女なのだから。」
カリストにそう言われふと彼女の方を向く。当の本人は褒められた事や、急に話を振られたことに関して少しおどおどしている。その様子が本人の美貌と多少のギャップを起こして尚更彼女の魅力を高めているようだった。
彼女の背は風斗よりも少し高く170前後、伸ばされた金髪の髪の毛は黄金にきらめき上質な絹のような印象を受ける。
目はきらめく海も霞んでしまいそうな青い色を宿しており、目元は柔らかく、鼻筋はスっと通っており絵画の名から出てきたんだ、と言われても疑う者が居ないというような美貌だった。
かくゆう風斗もいつの間にか心に被せた人と距離をとる仮面が剥がれそうになってしまう。気を抜いてはならないと気持ちを立て直しお礼を言うためにその少女へ少し歩み寄る。
「ありがとうございました。あなたのおかげで今の自分がいます。本当にありがとう」
とびきりの笑顔を作り、そう彼女に笑いかけた。
「当然のことをしたまでです。何より助かってよかった。私はリシュ・アンベリールと申します。カリスト先生の生徒兼助手を務めています。」
ある程度のお互いの自己紹介を終えるとカリストが柔らかな笑みを浮かべながら風斗に提案を始めた。
「私たちはルーゲンという都市に向かう途中なんだけれども、もし良ければ風斗くん君も来ないかい?私は個人的に人が多い方が好きでね、そのなんだ君のことも少し聞きたいし。どうかな?」
異世界転移という恐ろしく意味のわからない状況に放り出された風斗にとって自分に対して友好的な人がおり、なおかつ都市まで案内してくれるという条件は断る要素がなかった。
仮に断り一人で旅をするにしても先程のような竜などの異形にたちまち殺されるのが関の山だろう。風斗は快くその承諾を呑んだ。
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「そんなことが...」
驚きを隠せず眉間に皺を寄せたカリストが放った言葉だ。横にいるリシュも困惑の表情を浮かべながら話を聞いていた。
無理もない。自分は違う世界の住人で普段通り授業を受けていたら突然黒い物体が出現し、自らを飲み込んだ、と思えば気がついたら空中に放り出されていました、なんて話。信じろという方が無理な話だ。
会話の最中自分の世界の道具を見せようとした風斗だったが貴重品の類は全てカバンに閉まっていた。スマホも教師の視線があるうちに充電を切る仕草をしカバンにしまう徹底ぶり。
持っていたシャーペンもいつの間にか落としていたようで自分が異世界からの転移者だということは自らが着ている制服だけが証明をしてくれた。カリストとリシュはフードを被っており、衣服の差異は分からないが風斗のいう制服をジロジロと見ていた。
「たしかにこの世界の制服とは微妙に違う気がします。うちの学院でもこのような制服はありませんし、カリスト先生はなにかご存じですか?」
そうリシュが言う。話を聞くにはリシュはこの先の学院での生徒であり、年齢も風斗と同じ16歳。なので風斗とリシュとが話す時はもうすでに、若干砕けた感じの会話になるほどには打ち解けていた。
「私も見たことがないねぇ。都市に行けば調べることはできるが、、、でも風斗くんが嘘をつくような子には見えないし、一旦この話は打ち止めにしようか。もうそろそろルーゲンが見えてきたからね。」
そう軽く微笑みかけ前を向くカリスト。彼の前方には華やかな都市国家が腰を据えていた。
頭ん中で出てきた流れを書いているので文章や繋がりが拙いです。あんがい登場人物の口調設定や話し方が1番の難題だったりします。