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第一等級、主席の力

「お嬢ちゃんの言う通りだね。」


 そう言うが早いかサッと手元にある依頼書を集めると赤色のカウンターに促す女性。


 疑問符を浮かべながら隣にある赤で彩られたカウンターに足を運ぶ。ここは先程とは違い、討伐依頼が受注できるカウンターだ。


 風斗は先ほどと同じように手順を踏み、差し出された依頼書を見比べる。同じGランクの任務だが、討伐対象が異なっており中々に決められない。


 魔物としての情報は頭に入っているが実践や戦闘能力は、その時そのときで変わってくる。


 うーんと首を捻りながら悩んでいると、不意に後ろから来訪者が現れる。


「風斗君にはこの依頼が良いかな」


「カリストせんせ...学院長!」


 声の主は王都グラン学院の学院長、カリストだった。


「今まで通りの呼び方でいいよ」


 柔和な笑顔で応じるカリスト。突然の登場に風斗同様リシュも驚きを隠せないでいるが、カウンターの女性は慣れた手つきで依頼書を風斗に渡した。


「期日までに討伐対象のコアをお願い致します」


 状況把握ができていない風斗とリシュであった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今回の依頼は森の中にある廃墟に巣食ったオークの討伐である。


 主要都市ルーゲンから少し離れてはいるが、周りにマナポーションを作る原料や回復ポーションの原料などが多くあり、周辺住民が近くに寄れないということだった。


 未だ実害がないことがせめてもの救いか。


 その廃墟の前に立ち止まり、様子を伺う風斗、リシュそしてカリストの姿。


 風斗は腰にかけたブロードソードに手を添える。


 これは街で手に入れた一番安く粗悪な剣である。風斗の所持金ではもう少し質の高い物を買えたが、カリストの指示で現在の物を持っている。


 リシュも同じように銅製のレイピアを腰に下げている。


「屋外に二体、屋内に七体居ますね。」


 リシュが廃墟周辺のマナ反応から情報を共有する。その情報に頷き、カリストは突然軽く石を投げた。


 すると外で待機していたオークが二匹、こちらに気づき殺意を迸らせながら走ってくる。


 二本の拙い槍のようなものが左右に揺れ、豚の頭に似合わない筋肉質な体が一定のリズムで確実に近づく。


「リシュは左を、右は僕が殺る」


 カリストの突然の行動にも動揺を見せず、冷静にこの先の分析を始める風斗。隣のリシュは完全にリラックスした状態でレイピアを構えている。


「お前達に恨みも興味も無いが、村人の邪魔をするなら全力で潰す」


 そして風纏をかけ、急接近する。そしてその勢いのままブロードソードを振るが、勢いがありすぎてオークの左頬を掠めた。


 瞬間的にも思える移動に驚きこそすれど、オークは体勢を建て直し、持っていた槍で反撃を試みる。


 カランと乾いた音がその場に弾けた。空ぶった風斗だったがすぐさまオークに遅れず体勢を立て直し、突き出された槍を受け流すとブロードソードで首を切り落とそうとする。


「ガ、ハ、ギャギャギャ」


 切れ味が悪く喉元の骨に引っかかりうまく切ることができない。だが、そのことも想定済みと言わんばかりにすぐさま剣を引き離し、オークの腹に懇親の一撃をフルスイングする。


 たまらずオークの体が吹き飛び廃墟の壁に激突した。


「......」


 口元から黒みがかかった血を吐き出し、ピクリと体を引き攣らせ動かなくなる。


 手元にあったブロードソードはその姿をかえ、今は半ばから折れた憐れな姿を晒していた。


 マナ反応の消失を確認し、風斗はリシュの方に目を向ける。


 リシュの元に向かったオークは攻撃範囲まで移動すると槍攻撃を行う。決して遅くはないその攻撃をリシュはなんともなく避け、風斗がこちらを見ていることを確認する。


 そして体を低く屈め、素早い動きで間合いに入り込み、レイピアの一撃をオークの心臓部分に突き刺す。


「!?」


 その光景に風斗が驚きを隠せないでいた。リシュの身の動きもそうだが、オークを屠ったその一撃。


 風斗と同じ粗悪なレイピアだったが、確実にオークの筋肉質の体を突き抜け確実にコアを貫いていた。


 余程の威力だったのか突き刺したコアが皮膚から剣先とともに、その姿をあらわにしている。


 オークは数秒抵抗を見せたが、直ぐに電池の亡くなった玩具のようにその動きを止めた。


 完全に死んだことを確認するとレイピアを掘り下げる。ドサッと肉の塊が地面にひれ伏すのと同時に廃墟の方から、多数のマナ反応と言葉にもならないおぞましい叫び声が走ってくる。


「「「ゴアアアアアアアアアア!!!」」」


屋内の中にいたオークが外の異変と惨状に気づき、青筋を顔面に迸らせていた。


 同時に七体をどう処理するかを考えながら風斗がいると、いつの間にか隣に居るリシュが魔法を穿つ。


「氷魔法『氷弾ノ軌跡』」


 リシュの差し出した左手に魔法陣が現れ、唸る蛇のごとく空中を這いオークに殺意の一撃を加え始める。


 先方を走っていたオークのコアを貫くとそのまま軌道を変え、横のオークのコアも貫く。


そのままの勢いの中で七体のコアを適切に貫く。


 透き通る氷の塊が血で染まる頃にはオークは全て肉塊に変わり、地面に氷の墓石を作っていた。


 風斗が声を上げれずにいる間に全てが終わり、初めての討伐依頼は成功に終わった。


 カリストがゆっくりと風斗に近づき、話しかける。


「風斗君、どうだった?今のリシュ君の動きは」


「とてつもないです。身の子なし、技術、判断そして...」


「決定力、かい?」


 その言葉に風斗がビクリと反応する。考えていたことが読まれていたというより、その考えを見越してこの場を作ったカリストに気づいたからだ。


「風斗君、君の成長は本当に目を見張るものばかりで尊敬をするよ。でも君は今その事で悩んでいるね」


「......はい。」


 ぽつりと言葉をこぼす。叱られている訳では無いが、何故か体が強ばる。こんな経験今までなかったからであろうか。


「今の君には絶対的な決定力が足りてない。それに身体強化に頼りすぎている節もある。」


 授業と実践ではその間に雲亭の差がある。状況や場所などで全ての計算や経験が裏切ることもある。先程の空振りのように。


「幸い、今は夏休み期間で時間はいくらでも有る。だからこれは君への夏休みの宿題という事で...」


 続く言葉に風斗は動揺や驚きもせず、深くうなづくと遠くのリシュを見据える。彼女は今オークの近くで何やら行動をしている。


 目元の真剣さは取り払わず、そっと静かにだが決意のこもった声色でカリストに尋ねる。


「僕も、リシュのように成れますか」


「ああ、きっと君は強くなるよ。だからここに私が来た。」


 カリストも風斗同様、静かに威厳がこもった声色で返答をした。その答えを聞き、新たに決意を決める。


「(まだ僕は成長出来る。やれることならなんだって取り入れて、リシュの隣に堂々と...)」


 そんな二人の決意を知ってか知らずか、リシュが風斗と目が合うとブンブンと手を振る。


 オークの頭をその手につかみながら、血の汚れも関係なしに満面の笑顔で。


「すみません、あの境地にはもうちょっとかかりそうです...」


「リシュ君、こうゆう所がなければなぁ」


 溜息が重なる二人だった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 コアとその他の部位を回収し、帰路に着く二人。途中でカリストはやることがある、とのことで帰り道は二人であった。


 軽く血の汚れを拭い、街に足を運ぶ。日が傾き始めた街並みは、連日と変わらぬ活気と人の多さに溢れている。半ばそのお祭り状態も風斗が慣れてきた所、二人はギルドカウンターに着く。


「おかえりなさい。二人とも」


 カウンターの女性が言葉をかける。依頼書を発行した女性とは違う女性であった。


「討伐依頼の証を持ってきました」


 風斗がそう言うと持っていた鞄の中からコアを取り出し、依頼書と共にカウンターの女性に渡す。


「今確認しますね」


 そう答え裏に行き、ものの数秒で帰ってくる女性。どうやって確認したんだろうと風斗が考えるより早く、今回の報酬の説明をする女性。


「今回はオーク五体の討伐でしたが、コアが多くあったので報酬は本来のものより上乗せされています。ご確認ください。」


 そう言われ袋を差し出される。袋の中には銀貨70枚が入っていた。


「(一体辺り銀貨10枚か。一回の討伐依頼で複数こなせば、それだけで数日は過ごせるな)」


 そう考え、風斗は袋の中から銀貨を10枚抜き取り、残りはリシュに渡す。


「はい、今回はほとんどリシュがやってくれたからね。」


「い、いや私は別に...」


 受け取ってくれない雰囲気を察し、風斗は言葉を続ける。


「宿代だって思って受け取ってよ!僕もその方が心持ちがいいんだ」


「そ、そう言われるのでしたら...」


 渋々受け取るとカウンターの女性が話しかける。


「では、風斗様。今回のオーク複数討伐の功績を称え、GランクからFランクへ昇格可能ですがどうなされますか?」


 その問いにすぐさま風斗は答える。


「いや、今回は無しにして頂けますか?」


「?」


「いや、今回はほとんどやってもらったようなものなので」


 理由を聞き納得したような顔を見せ、すぐさま柔和な笑顔に戻るカウンターの女性。


「では、風斗様リシュ様。またのお越しをお待ちしております。」


 にこやかに手を振るカウンターの女性を後にし、ギルドの扉を開く。


 月明かりに対抗するように、煌めく街が二人を迎える。以前変わりなく賑やかなこの街をリシュは愛おしそうに眺める。


「リシュはこの街が好き?」


「はい!大好きですよ!」


 その言葉にどこか言いたいことがあるような素振りを見せるが、風斗は首を振り同じように街並みを眺める。


「これからどうしようかなぁ」


 ぽつりと風斗がこぼす。


「え、うちに泊まるんじゃないんですか?」


「んなわけないでしょ!?」


 怒涛のツッコミが発動するが、変わらずリシュはぽかんとした表情で飲み込めずにいる。風斗は頭をかきながら、苦言を呈す。


「あのね、リシュ。挨拶も未だ出来ていない家の人の迷惑になる訳にはいかないし、付き合ってもいない男女がひとつ屋根の下に泊まること自体...」


「おーい!リシュちゃーん!」


 突然リシュが呼び止められ風斗は口を紡ぐ。短髪の男性がこちらにやってくる。細身な体に似合わない大きな小手を装備した男性は風斗の方に気がつくと柔和な笑顔を見せた。


「お、もう体は大丈夫かい?」


「はい、お陰様でありがとうございます」


 風斗の記憶ではこの男性と会ったことは無いが、話裏を合わせる。


「お父さん、風斗さんに挨拶!」


「ああ、ごめんごめん。俺はリシュの父親でネモ・アンベリール。妻のシランには会った?」


「はい、朝に一度お会いしました。(この人が僕に服を貸してくれた方かな)」


 そう考えているとリシュが風斗の手を引く。その行動にネモはニヤニヤしているがリシュは、スルーし言葉を紡ぐ。


「じゃあ、帰りましょうか。私たちの家に」


 微弱な抵抗も虚しく風斗は両サイドを囲まれ、リシュの家に連行される。


「いいのかなぁ」


 そんな言葉を残して。








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