異世界転移者、やっと冒険者になるようですよ?
目が覚めると見慣れぬ天井がそこにはあった。木製の天井には見覚えがないが、外から聞こえる人々の声から察するに、ここは住民区であろうかと考察をする。
いつの間にか着せられている見覚えのないシャツに疑問を浮かべる風斗だったが、体に異常や痛みがないことを確認するとひとまずベットから体を起こす。
恐る恐るドアを開け、周囲を確認する。何個かのドアがあり、階段のようなものが見える。かなり大きな家なんだなぁと風斗は考えながら階段を降りる。
木造建築の心地の良い匂いにまじり、どうやら料理の匂いも漂ってくる。食欲のそそる匂いがする部屋にたどり着くと、そこにはヘラを片手に料理している女性がいた。
「あ、あのー」
「ふんふんふーん」
「あ、あの!すみません!」
その言葉にようやく振り返る女性。女性は驚いたような顔を見せるが、直ぐに柔和な笑顔に切り替えると風斗に近づく。
ブロンドヘアの髪の毛がふわりと巻い、閉じ目の女性が口を開く。
「あらあら、よく起きたわねぇ。体は大丈夫?痛いとこない?無理してない?」
はやし立てる女性に慌てて返答を返していると見知った声が聞こえる。
「お母さ〜ん、どうしました〜?」
部屋に入ってくるその女性は、
「リシュ!?」
「風斗さん!?目が覚めたんですか!?」
言うが早いか、すぐさま風斗にリシュは抱きつく。咄嗟の行動に呆気に取られていると、先程の女性から茶々が飛ぶ。
「あらあら、若いっていいわねぇ」
その言葉にはっとし、体制を立て直すが恥ずかしさからかお互い目を逸らしてしまう。その様子をニマニマと眺める女性であったが、ポンと手を叩いた。
「まぁ、まずは朝ごはんにしましょうか」
その言葉でとりあえずは皆席に着いたのであった。
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「また迷惑をかけてしまったみたいだね」
一週間ぶりのちゃんとした食事をたらふく平らげ、リシュに申し訳なさそうな顔を向ける。
話を聞くに、どうやら依頼で森の中に入っていたリシュが戦闘音とマナ反応を調べるためにあそこに足を運んだようだ。
その場に着くと、数体のゴブリンの死体と倒れている風斗が目に付いたらしく、すぐさま自宅に運び現在に至る。
現在に至ると言ってはいるが、なれない野宿による睡眠不足やストレスの所為でぶっ倒れ、丸一日は寝ていたそうだ。
「あらまぁこんな時間、お母さんお仕事いってくるからリシュちゃん。あとはお願いね?」
「はい、お母さん。行ってらっしゃい」
軽く挨拶を交わすとリシュの母親はその場をあとにした。会話から察するにリシュの母親だということは直ぐに理解出来る。
「倒れる事や傷つく事がお好きなんですか?」
やけに怒気を孕んだ言葉が風斗に届く。ここ数ヶ月間は特にボロボロになることが多いので、リシュの対応は間違ってない。
心配する気持ちが多いからこその対応である。
「何も言えないかな...」
苦笑気味の風斗に呆れた顔をむけるが、その顔はどことなくほっとしている様子であった。
「それで、何があったんですか?」
朝食の時間は無我夢中で料理を胃に入れる風斗に、自己紹介と現在の状況を兼ねて説明してはいたが、詳細な内容は一切知らない。
風斗も包み隠さずこの一週間の自分の行動を話した。
風斗が話している間は、基本的にはリシュは黙って聞いていた。だが、ゴブリンとの戦闘になると重く閉ざした口が開く。
「魔物との戦闘は初めてでしたよね?」
「そうだね。実践は初めてだよ。」
「恐怖や罪悪感などはありましたか?」
言葉を慎重に選ぶように彼女は疑問をぶつける。それに対して風斗は少しの沈黙の後に述べる。
「何も感じない、は嘘になるけど記憶に残る程でもなかった、というのが本音かな。」
元いた世界でも死にかける経験は何度かあり、こちらに来てからもその経験は体験している。
だが、トラウマで悪夢になるなどはほとんどないように感じた。
殺す殺されの関係での戦闘であり、そこは風斗なりにも一線を引いている。しかし、目の前のゴブリンを殺したという事実に、あまり心が動じなかったのは風斗が麻痺していたのかは分からない。
「この先人間や、他種族を相手してどう感じるのかは分からないけど」
そう前置きをしフッと風斗の目のハイライトが消える。そこにはリシュの知っている風斗は居なかった。
「僕の邪魔をするなら全力で潰す。」
それがこの世界での風斗の誓いであり、一種の呪いのようにこびりつく。
元いた世界では政治家という父や母の道具でしかなかった彼が、初めて生まれたと感じた世界で彼らしく生きるための指標である。
未だ不安定な精神をつなぎ止める苦しい言い分。そんな風斗にリシュはどこか悲しそうな笑みを浮かべ、目の前に置かれた手に自分の手を重ねる。
「では風斗さんが本当の意味で修羅に、独りにならないようにそばに居ますね。」
決意の篭った目を向けられ、風斗の目に陽が灯る。そう、元いた世界には居ない心の支えが居るのだ。
彼女のために、本当の意味で心を殺さないように誓う風斗。
添えていた手を離し、さてと言うとリシュは話を始める。
「風斗さん今後のご予定は?」
「いや、特になんにもないけど?」
「では、ギルドの方に向かいましょうか。風斗さんは第三等級でしたよね?それでしたら依頼を受けることが出来るはずです。」
「な!?」
その発言に風斗は一瞬固まる。そう風斗は第三等級であり、実戦授業は受けてはいないがギルドの冒険者としては生徒であっても依頼を受けれる。
依頼をこなせるということは、お金が手に入り泊まることは出来ないがご飯を食べることは容易にできる。
その事実を完全に忘れていた挙句野宿生活をしていたのだ。
膝から崩れ落ち、
「灯台もと暗しとはこの事か...」
元いた世界のことわざを体で理解するのであった。
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燦々と照らしつける太陽を受けながら、リシュと人をかき分け荘厳なギルド本部にたどり着く。通行手立てと称した身分証明書を作ったのが遥か昔のように感じられた。
以前と変わりないギルドカウンターに、今度はどこに並ぼうかと頭を捻る風斗。
赤色は討伐依頼、青色は採取系依頼、緑色はその他の雑務など以前リシュにされた説明を思い出す。
「うーん報酬を考えるなら、赤色だけどどの程度のレベルか分からないからなぁ...」
「一日生活することを考えるのであれば青色の採取依頼でも数個ほどやれば問題ないですよ?まずは流れを掴むために青色からやりましょう。」
促されるまま、青色のカウンターまで歩く風斗。十人規模の職員の中で、一番近くに座っている恰幅のいい女性に話しかける。
「すみません、ここで依頼を受けたいんですが」
「あいよ、通行手立てを見せてごらん」
そう言われ鞄から殆ど使っていない六角形のプレートを差し出す。
「依頼は初めてのようね。順を追って説明するわ」
そう言い恰幅の良い女性は一つ一つ説明を始めた。
説明された内容を要約するとギルドでは階級があり、上からSランク.A.B.C.D.E.F.Gランクまで存在する。
最初は一番下であるGランクからスタートし、何個かの依頼の達成や貢献度で次のランクへ進める。基本は自分のランクより上は依頼を受注することが出来ない。
これは低ランク冒険者の死亡のリスクを減らすことだ。
そして重要な事は他に存在している大きなギルド管轄エリアで依頼を行う場合は、現在の最高ランクの一個下の依頼を一個受けなければ規定のランクに達していないとみなされることだ。
ここルーゲンでDランクまで上げたとしても違う場所ではEのランクの任務を一個達成しなければDランクの任務を受けれないのである。
ほかの地域で定められている依頼の難しさは統一ではない。ここルーゲンは比較的強い魔物は居ないが、寒冷地帯や火山の周辺は魔物の強さのケタが違う。
死亡者を増やさないための措置であり、事細かな決め事がさらにあるが大凡はこのような内容であった。
「で、あんたは最下位のGランクからだから今紹介できるのは、これぐらいね」
そう言われ数枚の紙切れを渡される。
「これは?」
「依頼書っていって書いてある内容の物をこの紙と一緒に持ってくれば依頼の完了よ。」
数枚の紙切れを見る風斗だったが、何かを思い出したように差し出された数枚の依頼書の中の一つを選ぶ。
そして持っていた鞄の中から薬草を取り出すとカウンターの女性に差し出す。
「これで依頼完了ですか?」
薬草を受け取ると驚くような顔を見せる女性。これはサバイバルブックに載っていた治癒能力のある食べれる薬草で、ホームレス生活中に風斗が口にしていたものだった。
食べれるが美味しくないし、腹の足しにもならないため無視しようとしたが、何かあったようにとりあえず拾っていたものだった。
確認作業が終わり、女性が口を開く。
「品質にも問題は無いみたいだし、依頼完了だよ。指定料より少し多く納品になるから報酬も多くしとくわね」
そう言い奥の方に向かう女性。数十秒後には布袋を手に、カウンターまでやって来た。
「依頼達成証と銀貨12枚ね、一応確認お願い」
促されるまま達成書に目をやり、袋の中を確認する風斗。内容にも問題は無いようなので報酬を受け取る。
「(意外と簡単だった感じがする。これぐらいならあと数個受けても大丈夫かな)」
そう思いながら新しい依頼書を探す風斗だったが、リシュに袖をひかれる。
「次は討伐依頼の方を見てみましょう」
これが冒険者としての風斗の、新しい生活の幕開けだった。




