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ホームレス転移者

今日から深夜ごろに一週間連続投稿と、全体の手直しを行います。

よろしくお願いします。

 様々な激闘やドラマが生まれた進級試験から早一週間。二ヶ月あまりに及ぶ夏休みという休暇を各々が全力で楽しんでいた。


 異世界からの来訪者であり、この半年間の中で最も人間的成長を遂げた風斗はというと、主要都市国家ルーゲンから少し離れた森の中、セミのような鳴き声が谺響する洞穴の中で一人ひっそりと過ごしていた。


 壁に四箇所の人為的に付けられた斜め傷の目立つ洞穴の奥で、天井から滴り落ちる水滴で目を覚ます。


『ゴブリンでも分かるサバイバルブック!』と表紙にでかでかと書かれた本を、枕代わりにしておりボリボリと頭を掻きながら欠伸をこぼす。


「今、何時だ」


 洞穴からズルズルと這い出て空を確認する。太陽は遥か高く登っており、その眩しさに目を顰めた。


「どうしてこんな目に...」


 ホームレス生活四日目の彼がこうなるまでには少し時間は遡る。


 --------------------


 凄まじい活気と共に開催されたグラン祭。閉幕の後に行われた計四日間にも及ぶ後夜祭が終わり、生徒達はしばしの間学園生活に戻ることになった。


 まず、ならず者等級の面々は全員が第四等級への進級が認められた。クラス単位での進級ポイントを貯めていたこともあり、そこはスムーズに事が運んだ。


 だが、ここからがならず者等級と言われる所以である。


 第四等級に上がるには筆記試験は必要無かったが、第三等級に上がるためには筆記試験が必要であった。後出しのその情報にリッケルほか数名の生徒は抗議をかましたが、第三等級からは実際の実地授業。


 要は依頼をこなすことが出来る等級にあるため、筆記試験が必要だと判断された場合のみ行われる例外処置であった。


 もちろんならず者等級の大半は筆記試験で落ち、風斗と数名の生徒のみが第三等級の制服を着ることを許されたのであった。


 風斗は現時点で配られた教科書は勿論のこと、図書館と呼ばれる場所の本などもほとんど読破していたということも合格した理由であるだろう。


 そして筆記試験を無事に合格出来た日の出来事である。


「風斗兄ちゃん!すぐ追いつくからな!」


 筆記試験で落ちた後だというのに、リッケルは元気よく風斗について回る。風斗も、うかうかしてられないと感じつつ返答する。


「先に待ってるね。」


 なんとも微笑ましい会話を交わす二人だったが、その直後悲運が風斗を襲う。


 二人して暖かな日差しが差し込むグラン学院正面玄関を歩いている中、でかでかと張り出された掲示板に目が奪われた。


「なんだ、なんかの知らせか?」


 リッケルが背伸びをしながら掲示板に張り出された紙を確認しようとする。前には数人の人だかりができており、見るだけでも苦労が伴う。


「人が少なくなるのを待とうか」


 そんな会話を交わしながらゆっくりと前の列にそって歩みを進め、目的の場所にたどり着く。


「王都グラン祭お疲れ様でした...△△から○○まで夏季休暇とします。だってよ」


 リッケルが掲示板の内容を読上げる。どうやら夏休みの内容を張り出しているようである。内容は風斗の元いた世界と同じで、禁止事項や機関などの諸連絡が多い。


 だが風斗は、二枚目の大きな赤字で書かれた文章に目が止まる。


「なになに、校舎の老朽化により夏季休暇中の本学院及び、学生寮の使用を禁止、しま、、す?ってはあああああああああああ!?」


 風斗、今日一の絶叫である。


「うそ!なんで!普通にしんどいんだけど!」


 明らかな動揺に横にたっていたリッケルは対処が分からず困惑していた。どんな事でも冷静に分析し、勝ち筋を見定めていた風斗のここまでの動揺を見たことがないからだ。


 Nooooooooと空を仰ぎながら天に祈っている風斗に若干引きながらも、軽く慰めを試みる。


「ま、まぁたったの二ヶ月だけだし?風斗兄ちゃんも久々の休暇だと思って羽根伸ばせばいいじゃん!」


 しかしその言葉にすかさず風斗は返答をする。


「僕の家は遠方にあるから家には帰れないし、お金もない。住む宿の宛もない。終わった」


 チーンという効果音とともに薄くなっている風斗にどうしたものかと、リッケルが頭を捻っていると後方がざわつき出す。


 そしてざわつきが大きくなり、その主が現れた。長い金髪の長髪に綺麗な青い目。さらに整った顔と抜群のプロポーションを兼ね備えた存在、リシュ。


 幾度となく注目を浴びるようになっている彼女が風斗の傍に近づき、周囲の状況を観察する。そしてぽんと手を合わせると、風斗にそっと耳打ちを交わす。


「泊まる宛がないのでしたら、私の家にいらっしゃいますか?」


 その言葉に放心状態の風斗もようやく、魂を戻す。流石の不意打ちに耳を真っ赤にし、リシュを見返すが、依然として微笑みを携える彼女しかいない。


 グラン祭以降、以前より感情を風斗以外の前でも出すようにしているからか、動揺はあれど現在のリシュも生徒達に受け入れられている。


「い、いやリシュの手を煩わせる事はしないよ!」


 そう言いピューという昔ながらの逃げ方でその場をあとにする風斗。


 それから数日間は荷物を纏めるなどして学校生活を過ごす。纏めるといっても彼の私物は殆ど無に等しいので、荷造りはすぐさま終わり、夏休みまでの期間をゆったりと過ごしていた。


 そして夏休み前日。全校朝礼と謳われた集会に生徒全員が集められ、諸連絡が語られてから開放される。


 風斗は解散後、どこへ行こうか考えていた。周りの生徒は、家族とどこへ行くや、久々に家で休むことなどを口々に話している。


「(とりあえず宿を確保するか)」


 風斗は片手に掛けている魔道具の鞄を持ち直すと商業区に足を運んだ。


「(良い値段したけど、すごい便利だなこれ)」


 風斗は魔道具の鞄を見つめる。これは夏休み前に購買で買ったものであった。中に収納魔法やら何やらが組み込まれており、物を質量関係なしに収納出来る代物だ。


 中には数日の下着だけしか入っていないが、便利な事には変わらない。


 商業区に足を運び、適当な宿屋を探す風斗。グラン祭が終わってから少し経つが、未だに活気と人口は減るよしもない。


 木製の宿屋の戸を開けながら、窓口らしき場所に座っている強面の禿頭に話しかける。


「すいません、こちらで空いている部屋はありませんか?」


 違う客と話していたその禿頭はこちらに気づくと直ぐに笑顔を咲かせる。


「お、グラン祭で頑張ってた坊主じゃねぇか!」


 苦笑いを零しながら先ほどと同じ質問を投げかけると、少し渋い顔をしながら申し訳なさそうに話し始めた。


「悪ぃな坊主。全部の部屋が今埋まってんだ。」


 ある程度予想していた結果に、気持ちが少し沈むが笑顔を取り繕い返答をする。


「そうでしたか。では、ほかの宿を探しますね、ありがとうございます。」


 軽く会釈しその場をあとにしようとする風斗に禿頭は言葉を投げる。


「ああ、坊主悪いことは言わねぇ。宿は諦めな。」


「?」


 疑問を浮かべる風斗にそのまま言葉を続ける。


「グラン祭の余波ってとこだな。だいたい数ヶ月間は観光客でどこの宿もいっぱいよ。住むとこねぇならどっかの馬小屋か野宿しかねぇな」


 その忠告を受け止めると風斗はその場をあとにする。


 太陽が沈みかけ、チラホラと店じまいをする場所が多くなる頃、滑り込みで本屋でサバイバルブックを買い現在に至る。


 近くの川辺に顔を洗いにきた風斗。水面に写った自分の顔を見ながら愚痴が零れる。


「まさか本当に全ての宿が、いっぱいだったなんて、サバイバルブックに野宿おすすめポイントが書かれてて良かった」


 ココ最近の日課が終わり、サバイバルブック片手に内容を読み進める。


「(おすすめポイントで生活に不自由無い場所は手に入れられたけど...)」


 ぐううと音が場に谺響する。正真正銘風斗の音色だ。ここ数日はろくなご飯を食べていない。


 その場で寝転び、カバンの名から皮で包まれた物を取り出す。この世界の財布だ。重さは悲しいほどなく、ため息が増すばかりだ。


「(ご飯食べるのに必要なのは最低銀貨一枚。今あるのは銅貨二枚...か)」


 暮らす上ではお金が必要になってくる。この世界では銅貨、銀貨、金貨とあり、基本は銀貨でのやり取りになる。


 一日節約すれば銀貨十枚で生活できるが、現在の風斗では街に行っても何も得るものがない。


 カリストからの金銭的な支援は極力使わないと決めている風斗なので、本当にやばい時にしか使わないと決めていた。


 そしてさらに数日が過ぎ、壁の傷が七つに増えた頃、風斗は森の中腹に来ていた。


「(野宿生活一週間はやばい、なにか口に入れないと)」


 食べれる野草などは食べているが所詮は自生している草。旨みも何も無い。ただ食べれるという事だけ。


 街の近くとあってか果物なども鳥類などに食べられており何も無いので仕方なく、中腹まで来ているという訳だ。


 迷わないようにマナを木に撫でるように付けながら周りを探索する。


 空腹や野宿の緊張感からくる寝不足で身体は疲弊しているが、マナだけは絶えず体を駆け巡っていることだけが幸いか。


 目的の少し開けた盆地までたどり着くと、地面にドカッと座る。


 一週間川の水しか浴びていないせいか、体臭が少し気になる。オマケに服はひとつしか持っていない性で、ずっと着ていた制服も所々ボロボロになってきた。


 疲れた体を少し癒し、周りの散策を始めようとした時、おかしなマナを感じる。


 マナ感知というよりは盆地を覆うマナに乱れが起きたような、さらに直感でマナの塊が歩いているようなイメージが頭に流れ込む。


 咄嗟に少し身を屈め、周囲を確認するとその正体が判明した。


「(ゴブリン...!)」


 低級に位置づけられている魔物。濁った緑色の低身長の体。鋭い目に、尖った鼻と鋭い牙。知能は低く、個体としての戦闘能力も低いが、特筆すべきはその集団性。


 成体としてなるのも早く、母体となるゴブリンから生まれる数も多いため、油断ならない敵だ。


 現在盆地に居るゴブリンも六体ほどおり、風斗の顔に汗が滲む。


「(有効打が浮かばない...)」


 使役魔獣ならともかく実戦は初めての風斗。自分の技がどこまで効くか、どこまでやれば相手が死ぬのかが分からない。


「(とりあえず一旦ここから離れて...)」


 そう思い後ろに足を運ばせる風斗だが、フラグの神ここで仕事をしてしまう。


 ポキリ


 少し太い枝を折ってしまったのだ。その音に反応し、ゴブリンが風斗を見つける。


「「ギャギャギャギャギャ!!!」」


 言葉にならない音を発しながら、一心不乱に風斗のいる位置めがけ足を動かす。足元の草をかき分けるように、でたらめに走る姿が気持ち悪い。


 だが風斗は焦る事もなく、ゆっくりと風纏を全身にかけた。ゴブリンの集団と風斗の間にはもうそれほど距離がない。数十秒もすれば戦闘に入るだろう。


 すぅと息を吸い込むと風斗の瞳のハイライトが暗くなる。これは自分の命を奪う、邪魔者だと心に念じる。


「お前達がどう生きおうとそのことに関して微塵の興味もないが、僕の夏休みを邪魔するなら全力で潰す」


 先頭の一匹が武器を振りかぶった瞬間、顔面に衝撃が走る。そうまるで壁に当たったのような。


 ぽかんと首を傾げた瞬間


「『風刃』」


 ゴブリンの首が弾け飛ぶ。鮮血を地面の草に振らせながら、体が力なく倒れた。今のはグラン祭にも見せた風力場の応用である。


 あとに続いていた数名のゴブリンは一瞬その光景に体が強ばる。だが風斗がその事を見逃す訳もなく先頭に近いゴブリンの目の前に移動し、蹴りで顔面を吹き飛ばす。


「軽く気絶させようと思ったのに、これぐらいで頭が飛ぶんだ」


 冷めた口調で考察をすると、近場に落ちていた棍棒を拾い上げる。先ほど殺したゴブリンが持っていた物だろう。


 残り四匹はもう既に逃げる体制になっているが、風斗が逃がす訳もない。風纏で高速移動し、横に並走、持っている棍棒を殴りつける。


 パーンと弾ける音ともに棍棒とゴブリンの頭が弾け飛んだ。地面の草に木片と肉片が散らばる光景は確実に子どもには見せられない。


 風纏での高速化に肉体強化での一撃。棍棒自体も衝撃に耐えられなかったらしい。


 そのまま横にいるゴブリンに向かい魔法を放つ。


「『雷撃』」


 雷の一撃がゴブリンを直撃し、凄まじい断末魔と共に体が焦げる。ゴブリンの体臭とやき焦げる匂いが辺りに漂うが、風斗は気にしない。


 残り二匹。既に戦意はなく、さらに二匹とも運悪く転んだらしい。ガクガクと震えながら、粗相していた。


 だが一切の慈悲もなくつかつかと歩み寄り、頭を抱えている方のゴブリンに魔法を放つ。


「風魔法『風刃の木枯らし』」


 これは風斗が考え出したオリジナル魔法だ。荒れ狂う竜巻の中に、風魔法である風刃が何個も無造作に対象を襲う。


 時間が有り余っていた洞穴時代に考え、試行錯誤していた魔法の一つである。


 そして残りの、体制を直し逃げようとしている一匹に、助走を付け風纏で近づき心臓部分を貫く。


 マナ感知ではない何かで風斗の目にゴブリンの体に流れるマナが掴めており、強く塊のようにあるマナ、心臓のようなそれを風斗は狙った。


「ア、ギャ、、、!」


 風斗はするりとその腕を抜き去る。ドサッと力なく地面に倒れるゴブリン。風斗の手には心臓のようなものが蠢いていた。


「紫色の心臓か、所々結晶のような物が付いてるね。これが魔物の心臓、コアか」


 そうマジマジと観察したあと興味を無くしたように握りつぶすと、風刃の木枯らしを受けたゴブリンの元に近づく。


 体のほとんどが傷つけられており、出血が酷い状態であった。地面に血の水たまりができており、ヒューヒューという音色をゴブリンが奏でる。


 そして風斗がその場に到着すると同時にゴブリンのマナが消えた。


「頭を切り落としても、破壊しても死ぬ。雷による感電や出血、コアを抉りとっても死ぬ、、、と」


 素早く状況把握と欲しい情報の整理を付けると体の異常に気づく。


「ん、あれ?マナ使ったのに全然疲れが来ない」


 腕を回したりしてみるが、マナを消費したというよりかは、消費し回復したという感覚に近い。魔法を特訓した時に使ったマナポーションに近い感覚だ。


「ま、いっか。さて、収穫を、、、あれ?」


 突然視界がぐるぐると回る。その気持ちの悪さにその場に立てず、ドカッとその場に立膝を立ててしまう。


 風斗の視界が意識が闇に飲み込まれる前に、遠くの方で自分の名前を呼ぶような声が、したようなそんな気がしたのであった。






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