閉幕
これにて体育祭編終わります。
等級ごとに正しく整列され、歓声と混沌に満ちていた会場は水が張り詰めたように静かさが支配していた。
現在最後の種目で走ったステージの一部が変わっている。
白い地面に左右には等間隔で、十字架が建てられており、その先は王とカリスト先生、もとい学院長が立っている。
そして生徒は横並びに各等級ごとに整列をしており、そこには第一等級の姿も見せていた。
リシュは依然とした態度でしっかりと前を見据えているが、ほかの面々、リシュを除く八名は各々が個性を発揮していた。
眼鏡をクイクイと上げながら周囲を観察する者、ニコニコと笑いながら女子生徒にちょっかいを出す者、それを軽く受け流す者など。
他の等級とは逸脱して異様な光景が繰り広げられているにも関わらず、誰も咎めようとしておらず、慣れた様子でその光景を流していた。
それがおそらくこの学院で頂点に座している生徒の実力である。
しばらくすると王が口を開く。開幕時に見せた筋骨隆々の姿ではなく、白髪で髭を携えた一人の老人として。
「この三日間は天候にも恵まれ、些細な災難はありましたが、大きな怪我や事故もなく無事にこのグラン祭を終えることができました。これもひとえに先生方はじめ観客のの皆様のご尽力とご協力のおかげと心よりお礼申し上げます。
生徒のみなさんも日頃の練習の成果を存分に発揮し、活き活きと活躍してくれました。本当によく頑張りましたね。皆で準備をし、力を合わせて何かをやりとげた経験は必ず皆さんの糧となると思います。
明日からは後夜祭が控えています。王都グラン学院の生徒として生徒として元気に過ごして頂きたいと思います。皆さん、本当にお疲れ様でした。
以上をもちまして王都グラン学院、グラン祭の閉会の言葉とさせていただきます。そしてここからは一人の男としての言葉です。」
申し分のない例文のような閉会の言葉を言い終わり、開会の様に言葉を紡ぐ。
そして折れてしまいそうな体が急に巨大化し、筋骨隆々のあの姿にすぐさま変わった。
どうせ変わるなら初めからそうしておけばいいのにと、生徒の誰しもが思うが口にはしない。
「ガハハハハハハハ!今宵の祭りごとも大層良いものであった!戦士達よ!結果に怯えずこれからも己を鼓舞し続けよ!」
そう言い終わるとどこに閉まっていたのか身の丈ほどある巨大な剣を、これまたどこにあったのかいつの間にか置いてある酒樽をカチ割った。
そして樽にあった酒を飲み干すとカリストの方を向き、言葉をかける。
「余の仕事は終わった。あとは任せるぞ、学院長」
「はっ」
傅く姿勢を見届けるとエクスゼキナー国王はマントを翻しながら会場をあとにした。
それをカリストが見届けると姿勢を正すように立ち、生徒を見据える。
「皆、私からもこの言葉を送ろうと思う。本当に頑張ったね、お疲れ様。」
そう言い一息つく。
「難しい話や形式ばったことはあまり好きではないんだ。では皆が待ち望んでいるように結果を発表しよう。」
ゴクリとなる喉が抑えきれない生徒達。その興奮をうちに秘めている姿は、さながら腹を空かせた獅子のようである。
「第二等級、149点」
どうやら等級順に発表するらしく、第二等級の面々は動揺を出してはいないがその顔は酷く歪んでいる。
第五等級に挑みその都度完全に返り討ちにあっていたので妥当な点数であろう。
「第三等級、178点」
第三等級の生徒達が少しどよめく。自分達よりも上の等級を点数で超えている事実が、嬉しいのだろう。
数人の生徒は小さくガッツポーズを取っていた。
「第四等級、153点」
今回はなんの反応もない。第四等級の面々も変わらず動かない。
「そして第五等級。」
続く言葉をならず者等級、いや会場全体がまち望んでいるようだった。
空は青々しく広がっている。太陽はなりを潜め始め、反対側に月が少しづつ流れ出ている重々しい開く口が結果を告げた。
「第五等級、2013点」
ぴんと張った水のように、しんと静まり返っていた会場だったが徐々に波紋が広がりそして、
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
会場全体が地響きに似た鼓動を脈打つ。先程までの静けさが嘘のように、全てが弾け飛ぶ。
ならず者等級もそうだが、風斗自身もこの上ない感情に身を任せていた。
「静粛に」
その声で場は一切の音を消す。カリスト学院長が周りの様子を少し見ながら話し出す。
「このグラン祭は進級試験も兼ねていることは皆、知っているね。さらにクラス単位での進級も点数を稼げば可能だ。その事を踏まえると第五等級は一気に第三等級に上がることが出来る。」
その言葉にゴクリと喉を鳴らすのはならず者等級の面々だ。いつの間にか立ったまま気絶していたマッシー教授も、意識を取り戻し聞き入っている。
「だが、いきなり等級を上げすぎても危険が付きまとってしまう。追ってこの件に関しては伝えるとするよ。」
一息つくと先程までの厳格な雰囲気を脱ぎさり、人当たりの良さそうな初めて風斗と会った時のような優しさを出す。
「水をさして済まないね?第五等級の皆は前回とは比べ物にならないほどに成長したね。これは私からのプレゼントだ、受け取って貰えると嬉しいよ」
そう言い終わると、第五等級の生徒全員の左胸に光が集まる。ざわざわと騒ぎ出す生徒達だったが光が徐々になくなり、そこになかったものが姿を現す。
金属で彩られた花のブローチが左胸に備えられていた。リッケルが大きな声で叫び出す。
「こ、これって、王都グラン祭で最も優秀な奴に送られるやつじゃん!すげー!!!」
その言葉にどよめき出す。第五等級の全員にそのブローチが輝いていた。風斗も自分の左胸には触れてみる。きめ細やかな花がそこに咲いており、マナを密かに感じる。
「これで、閉会式を終えようと思う。皆これから待ちに待った後夜祭だ。存分に体の疲れを癒して来るといい」
そして光が包み込み、カリスト学院長の姿が消えた。興奮冷めやらぬ会場を残して。
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様々な感情を飲み込んでいた会場は沈黙をし、代わりに周りでは活気に満ち溢れていた。夜を照らすようにあちらこちらでは屋台が溢れ、商業区や住民区、はては貴族区までもがお祭り騒ぎである。
食欲を誘う匂いがあちらこちらから流れ出し、様々な場所では曲芸のような事が行われている。どんちゃん騒ぎのこれぞ祭りという規模が、ルーゲンでは起こっていた。
「人がなんとやらってやつか」
一人ボソッと呟くのは異世界の転移者風斗。彼は何をすることも無く広場のレンガ造りの噴水近くで腰を下ろしていた。
途中の屋台で買った串を片手に煌めく街並みを眺める。
「ひとりぼっちは慣れていたはずなんだけどなぁ」
誰に聞かせるわけでもなくぽつりとこぼす。彼を取り巻く人達、ならず者等級の生徒達は閉会式後、各々が各自の家族の元へ向かっていった。
嬉しそうにブローチを触る彼らの顔を見てしまっては、止めることなどできず唇を少しだけ強くかみ締め、送ってあげることしかできなかった。
キラキラと輝く街並みと対照的に少しだけ心が沈む風斗。今まで誰かと居ることがこの世界では普通だった。
その普通が今は少し名残惜しい。
「(視線が増えてきたな。場所でも変えようか、あるいは)」
このまま寮に帰ってしまおうかという気持ちに苦笑いをこぼし、その場をあとにしようとした時、不意にフードを被った者達に呼び止められる。
「そこのお方、宜しければお祭りを回りませんか?」
その誘い言葉につられそうになってしまうが、直ぐに嘲笑気味に返す。
「煌びやかなこのお祭りに、僕と歩くのはおすすめしませんよ。何も面白みのない人間ですから」
冷たく言い放つ風斗の顔は、少し寂しそうな雰囲気を携えている。嘲笑気味の台詞の中にも、本音が隠されているのだろう。
伏せ目がちな彼がその場をそろうとした時、声が響く。
「じゃあ、貴方のせいで大笑いしてしまった私はどうなるんですか?」
その言葉に反応して風斗がフードの人物を見る。フードの中に綺麗な金髪の髪が見え隠れし、綺麗な整った顔が現れる。
「リ、リシュ?」
「はい!」
「リシュ、どうして?あのとんでもない人混みからどうやって抜けたの?」
風斗は閉会式後、リシュのところに向かおうとした。
だが、人の波がリシュを襲い一瞬で見えなくなったのだ。
さらに近づこうにもリシュ親衛隊と名乗る多数の女子生徒が、壁を作っており完全に近付けなかった。
「普通に風斗さんと一緒に後夜祭を回ろうと思って」
最後の競技の時に誘おうと思ったんですけど、と付け加え彼女ははにかむ。
「そっか...ありがとう」
ただ言葉が漏れる。心からその言葉が風斗の口から溢れた。
「それじゃ、行きましょう!」
手を引かれ再び煌びやかな祭りへと足を踏み入れる。手のひらから温かさを感じ、リシュにバレないように笑みをこぼす風斗であった。




