王都グラン祭後編 2-3
踏ん張っていた地面が抉れ、風圧で走者たちが悲鳴を挙げていても、もう風斗には聞こえないし、関係なかった。
思わぬスタートダッシュに度肝を抜かれ、魔法の発射が遅れる妨害組、最前列。気づいた時には風斗は最前列の妨害組を超え、かなり距離のあった橋の入口に駆けつける。。
さらに速度をあげながら風斗は橋を走る。妨害組の魔法をも置き去りにし、突き進む。しかし妨害組もバカではなく、直線でしか走れない風斗に適した魔法群を放ってくる。
「直線でしか走れないことはもうわかっているんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
叫びながら雷魔法を放つのは借り物競争時にボコボコにされたうちの一人だった。その目にはしっかりと逃がさないように、風斗を見ている。そして捉えた。だが、妨害組は気付く。
「!?」
この絶望的な状況に、目の前の標的が笑みを携えていることに。
風斗は観察眼で迫り来る魔法をスローモーションに捉えながら、右腕を橋の持ち手の部分に雷魔法で己とつなぎ、無理やり走行ルートを変える。
風斗に当たるはずだった魔法群が橋にもろにぶつかり、突風と爆風を発生させるが風斗は気にもとめず走り続けていく。
さらに前方、橋の中腹に位置する場所で通さんとする騎士型の特大ゴーレム三体を、宙返りで後方に展開していた風力場を踏み場にして加速し、ゴーレムの中核を的確に蹴りで貫いて破壊していた。
その場に膝を着いたゴーレムが爆発する頃には、しっかり着地している。この惨状にはるか後方を走っていた走者や妨害組、はたや会場の客までもドン引きしていた。
そのことを露知らず、襲いかかる魔法の軸をずらし避け、雷魔法の応用でルートを変えながらゴールを目指す。ゴール付近に差し掛かると使役魔獣が数体待ち構えていた。速度を落とし、止まる風斗。
ゴリラの体にライオンの頭をつけ翼を生やした魔物や、ユニコーンのような外見の魔物、スライムのような肉体を持った魔物などが居る。
「使役魔獣はゴーレムと違って自分で考えて動く。しかも実際に生きている魔物を使役しているし、契約者の所有物扱いだからなぁ。対処に困る。」
魔物と戦った経験は無い風斗に使役魔獣との戦いは興味をひかれるものであったが、ゴーレムと違い、殺してしまったら終わりの物だ。
他人の持ち物を壊してしまってはあとの問題が面倒くさい事態に陥る。そのようなことが無いように今回の祭りでも、あまり見なかった。
「(実際何か武器でも持っていたらいんだけど、それも無いし何より慣れないマナ操作とかであまり余裕もない。うーん少し面倒なことになったな)」
数体の使役魔獣が吠えながら威嚇を続けている。後ろからは妨害組、そしてさらに奥からは走者が追ってきている。
「(少し痛い思いをさせて無理やり通るか)」
キリッと少しの殺意を観察眼に乗せて、風斗が動き出す。その眼光に一瞬たじろいだ魔物達だが、すぐさま咆哮しながら風斗に襲いかかってきた。
風を嬲るような音ともにゴリラ型の右ストレートが風斗に飛んでくるが、滑るように状態を曲げる。
空中からは鳴りえない鈍い音ともに、右腕に激痛の痺れが走る。魔獣が何が起きたか理解する前に、上体を反らせた姿勢からの痛烈なアッパーがゴリラ型の頭部を捉えた。
構造上は脳がある魔物型。脳が直接揺れ、脳震盪が起き、白目と白い泡を出しながら倒れる。
「まずは一匹!」
そしてすかさず斜めから進行してきていたスライム型の脚足目がけて魔法を放つ。
「氷魔法『凍氷』」
足に氷が纏わりつき一瞬身動きの出来なくなったスライム型に風纏の速度で近づく。そして瞬時に心臓位置にあるコアを抜き出した。
すると人型を保っていた水が形を維持できなくなり、水が重力に従い流れ地面に吸い込まれていく。
「スライム型の弱点のコアをそのまま出しているのは悪手だと思うよ。2匹目」
ぽんとコアを投げるとユニコーン型の魔物を見据える。
先程まで吠えていたのが嘘のように、怯えたように後ろに後ずさっている。
戦意がないと判断し、進もうとした瞬間前方から水魔法が風斗を襲う。とっさの判断により水魔法を避けるが、前方に数匹魚のような魔物が空を飛びながら口から水魔法を発射している。
観察眼により、周囲がスローモーションになり全ての攻撃を回避しながら魔法を放つ。
「雷魔法『雷撃』!」
雷が風斗の左腕から直線上に伸びる。が、単純な軌道なので容易に詠まれ軽く避けられてしまう。
だが、小気味よい音ともに、避けようとした方向に魚が当たる。マナを浴びたそれが姿を現すと、半透明な壁が魚の横に現れた。
「雷魔法『雷撃』」
予想外の意識外からの衝撃と突破力のある雷魔法で何匹かが感電し、地面にぶつかる。
「さっきもしたけどマナ感知を効果的に行えない魔物には風力場による壁形成が役立つね。一気に三匹。」
先程のゴリラ型の魔物の攻撃を防いだのもこれのおかげだ。マナを込めることにより強度は増し、さらにマナを決めることにより任意のタイミングで発動ができる。
慣れない魔法にマナ操作で若干マナ枯渇の症状がではじめている風斗は、魔物がいないスペースを一気にかけ走る。
後ろからは追いついた妨害組や感電していない魚の魔物による攻撃が続くが、風力場をフルに活用しその攻撃を全て避けていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、くっ!。(上手くマナが練れなくなってきた、まずい)」
ゴールまで寸前といったところで、風斗の足に魔法が直撃する。
「くっ!」
ダメージは少ないが衝撃が風斗を襲い、軽く前方に吹き飛ばされた。その瞬間何かを思いついた風斗。
「(これだ!)」
体全体を使い地面に着地、さらに後方を向き魔法を定める。容赦のなく飛んでくる魔法に対し風力場を盾のように展開、衝撃を利用し前方に吹き飛ぶ。
吹き飛ばされ、受け身を取ろうとするが体が思うように動かず地面にゴロゴロと転がっていく。
体が動くのをやめたことを確認すると即座に立ち、後方を見る。だが目に飛び込んでくるのは風斗を狙う魔法ではなく、切られたゴールテープと、嫌に静かな会場が出来上がっているだけであった。
一瞬何が起きたのかわからないが次第に膨れ上がる歓声と、後方の走者が走るのを辞め始めていることに気づく。妨害組は大きく肩を落とし、それに反して第五等級の面々は大きな喜びに体を震わしている。
いつに間にか流れている頭部からの出血で左目が見えなくなっているが、自分が一番最初にゴールテープを切ったことを自覚するのにそう時間はかからなかった。
「は、ははは」
乾いた笑いを零し、ドサッと座ると一気に疲労感が体を蝕む。慣れない魔法の連発に構築、操作。マナ枯渇からの衝撃での無理矢理のゴール。
酷使した体が悲鳴を上げているが、今一度ふらっと立ち、会場に手を振ろうとした瞬間。風斗の背筋に冷や汗が流れる。
何かの直感、しかも殺意が込められている嫌な直感。自分が走ってきた道を見つめると、その殺意と目が合った。
ほかの使役魔獣は契約者の元に帰っているのにそいつだけはこちらを見つめている。
「(まずっ...)」
そう思った瞬間、乾いた発砲音が会場に響いた。残りのマナを観察眼に使うが、体が思ったように動かず回避が遅れる。
完全に避けることが出来ないことを悟ると咄嗟に顔を腕で防ごうとするが、それすらできないほどに体は悲鳴をあげていた。
「(くそ!油断していた!)」
マナが切れ観察眼が切れる。衝撃と痛みに備える風斗だったが―。
風を切る音と共に、フードの人間が目の前に降り立つ。風に揺れるフードをはためかせ、降り立つ瞬間に弧をなぞるように魔法を発動させる。
そして自分を射殺そうとしている角を氷の壁で寸前のところで止めていた。
その魔法は見覚えがあった。そのフードも見覚えがあった。背丈も姿勢も見覚えがある。
「ああ、こんなタイミングで来るなんて」
その少女はゆっくりとフードを外す。綺麗な金髪が夕日に照らされ、神々しく輝き、凛とした顔立ちが女神のように輝いている。その表情は凛とすましてはいるが、真剣さと少し怒気を帯びた眼差しを敵に向けている。
「今度は私が守る番です。」
風斗の方を見ずに優しい声色でそう告げる。そしてゆっくりと前方に歩みを進め、圧を込めた言霊を吐き出す。
「その使役魔獣を鎮め、投降しなさい。そうすれば命まではとりません」
ユニコーンを出している敵に向かって話しているが、周囲の人間まで背筋が凍るような声色。会場の客は何が起こっているのか分からない様子であり、声が届いていないようだった。
そして言葉を向けられている敵は、恐怖におののきながらもその殺意を今度はリシュに向けてきている。その様子に気づくとリシュは腕をあげ詠唱を唱える。
「我の、我達の姿を隠し、惑わし、幻覚せよ。結界魔法『認識阻害』」
そう言い終わるとゴールテープ付近に、薄い膜のような結界が展開される。これで外の客は何が起きているのか分からない。敵がそのことに気づき、戦闘の姿勢を保つと同時にリシュの魔法が弾ける。
「食い尽くせ、水魔法『水龍』」
リシュの背後から一匹の大きな水で模した龍が飛び出し、うねうねとその大きな胴体をうねらせながら敵におそいかかった。
突然の出来事に対処が出来なかったのか、リシュの眼光に晒され身動きが取れなかったのか、なすすべなくユニコーンの魔物とともに飲まれ、地面に叩きつけられる。
地面に叩きつけたあとも水龍はドリルのようにうねり地面を抉り取りながら、破壊を体現し続けていく。
徐々に勢いが衰え、しばらくすると龍は水となり、抉れた地面と瀕死で横たわる翼の生えた人間、そしてユニコーンの死骸だけがそこに残っていた。




