王都グラン祭後編 2-2
「いやーあれは風斗兄ちゃんが悪いぜ」
軽いストレッチをしながら、リッケルが風斗に伝える。
「そうだよねぇ、でも大変だったよ。とりあえず」
未だ凍える腕を時たま擦りながら、風斗もリッケルと共にストレッチをし、次の競技に備える。三日間続いた国を挙げての大きな祭り、王都グラン祭も次の競技で、一幕終わりを迎えようとしていた。
最後の競技には第一等級を抜いた、全ての生徒が出場する予定である。会場を最大限まで使った巨大な六角形のステージはそれぞれの特色を備え、参加者を飲み込むようなそんな荘厳な雰囲気が佇んでいた。
六角形の真ん中に位置する場所では、空中に文字が浮いている。
『大闘走』
会場に人間が見えるように、それは回転をしながら空に居座り続ける。大闘走、第一等級以外の各等級、全ての生徒がリレー形式で他等級と争う大規模なかけっこだ。
各等級の最初の走者は同じ位置からスタートし、第六角形の六つのチェックポイントを通過する。チェックポイントで同じ等級の生徒にタスキを渡すことを繰り返し、そして真ん中の『大闘走』という文字の下のゴールを目指す。
最後の競技ということで百点が追加されることもあり、各等級の面々はやる気に充ちていた。
「(うし、こんなものでいいかな)」
凍傷にならずに済んだものの、体を十分に動かしていないと違和感が残ってしまう。風斗は体に違和感がないことを確認すると周りに目を向ける。
リッケルはストレッチをとうに終え、緊張でガタガタと震えているマッシー教授のことをからかいに行っている。
リー三姉妹は未だ準備が終わらず、その事で口論になり、ますます進んでいない。ほかの面々も緊張やドキドキなど様々な要因で落ち着きのない様子であった。
「(最後の競技だし妥当な反応かな。そういう僕も少し緊張してき...)」
考えに耽ける風斗の肩が突然叩かれ、後ろを振り向くとフードを深く被った人が居た。誰だ、と疑問に風斗が思うと同時にその人物が口を開く。
「風斗さん、私です」
「リ、リシュ!?」
「し、しー!認識阻害魔法かけているんで静かに! 」
しーと人差し指でジェスチャーをするリシュに伴い、声のトーンを落とす。認識阻害魔法により、リシュという個人はかき消され、等級にいる誰かというカテゴリーにハマる。
もちろん顔を直接見る、触る、などで簡単に破れてしまう魔法だが人と内密に話す分にはさほど影響はない魔法だ。現に今風斗は第五等級の誰かと喋っている風に周りから見えている。
「ど、どうしたの?」
声を幾ばくか気にしながら風斗が疑問を投げつける。第一等級であるリシュはここに参加する必要、ないしは居る必要が無いのだ。
「先程のお詫びと激励に、、、と思いまして。」
お詫びとは氷の彫像にしたことだろう。風斗はその時のことを思い出し背筋に悪寒が走った。
「あの時は本当にすみませんでした!」
大声で軍隊のように、体をおりまげる謝罪を投げつける風斗。
年頃の女の子を『強い人』というお題で選び、大衆にその内容を見せるのはさすがに無かったなと、氷の中で反省をしていたからである。
「ま、まぁ、それはそうなんですが...。さすがに凍らせるのは次に響くかなぁと少し反省を」
もじもじと謝るリシュにしどろもどろになる風斗。この攻防が数分続いた後、開始を告げるアナウンスが会場に響き渡る。ならず者等級の面々は自分が走るチェックポイントまで移動を開始し始めた。
風斗はリッケルやほかの生徒達と共にアンカーを務めるため、待機室より一番遠い場所に位置するチェックポイントに行く必要がある。
「それじゃ、リシュ僕もう行くね」
そう言い軽く手を振り行こうとする風斗の手をリシュは掴んだ。少しだけ汗ばんでいるような気をするのは風斗かそれともリシュが緊張しているからか。
「そ、その最後の競技頑張ってください!それと終わった後の、あの」
握られた手に汗が浮かぶ風斗。今にもフードから出てきてしまいそうな雰囲気の少女に笑いかけ頭にぽんと手を置く。その咄嗟の行動に疑問符をあげるリシュに
「この競技が終わったらまた聞くよ。ありがとう、行ってくるね」
その言葉と風を残し、風斗は待機室をあとにした。
「(風斗さんの手、大きかったなぁ...)」
「(リシュの手、すごく柔らかかったなぁ...)」
お互いがお互いに悶えたのは言うまでもない。
風纏でチェックポイントまで急ぐ風斗。基本的に開始位置からは白い道がゴールまで伸びており、迷うということは無い。
しかし今回は道中にある建物や森、湖のようなものなど迂回しなければ行けない所や、魔法を駆使して通る必要がある場所などランダムに生成されている。
さらに借り物競争のような妨害も存在する。走者を増やすか、妨害を増やすか、はたまたバランスよく配置するか、など戦略性にも富んでいる競技であった。
そして一方のならず者学級はというと、、、
「お、おいならず者等級のやつらほとんどを妨害に回しているぞ」
「走者が他と比べて3分の1もいねー」
ざわざわと何度目かの会場のざわつき、さらにその対象は第五等級というこれまた何度もあった場面であった。
妨害を多く回すことで他等級は上手く走ることが出来ないというメリットはあるが、逆に少ないために自分の等級の走者が狙われるというデメリットも出てくる。
最後のチェックポイントに風斗が訪れ、リッケルの隣に並び立つ。
「やっぱりこう見ると僕達の等級は他よりバランスが悪いね」
その言葉に賛同するように頷くならず者等級に面々と、訝しげに様子を伺う他等級のアンカー達。何やら不穏な空気が流れているような、淀んだ雰囲気になっていた。どうやら風斗が最後に到着したらしく、アナウンスが響く。
「では王都グラン祭の最後の種目。大闘走を始めます。これまでの結果に恥じぬような素晴らしい走りを見せてください。」
そう言い終わると、スタートラインに立ち並ぶ教師陣が声を合わせて叫ぶ。
「位置について」
ゆっくりと腕を青い空に掲げながら―。
「よーい」
異世界でも同じような掛け声を用いて―。
「ドン!!!」
王都グラン祭、最後の決戦の火蓋は落とされた。
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「現在レースは中盤をさしかかり、脱落している等級の生徒も多く見られています!現在一位は第五等級、それを追う様にして他の等級が続いています!」
レースの内容を話すアナウンスの声が、会場に響き渡る。現在、湖のような水のステージを魔法を駆使しながら走り、妨害する生徒の姿がそこにはあった。
その様子をチェックポイントで待ちながら鑑賞する風斗。
「(だいたいルールは把握出来たかな。掛けているタスキを魔法で燃やされたし、消されたりしたらその場で即失格、、、か。)」
失格になると当然ゴールをする確率も下がってくる。そのため妨害と走者はバランスを保つか走者を多くし、保険をかけておくことをほかの等級はしていた。
にも関わらず第五等級の走者で今のところ失格者は居らず、途方もない妨害の嵐にも負けず皆懸命に走っている。一人モニターを見ていた風斗の横にちょこんと金髪の短髪が揺れる。リッケルである。
リシュ以外の人物となると、基本的にはリッケルと共に居るなぁと考えながら風斗はリッケルの表情を横目に見る。
何を言うわけでもなくモニターを見つめ、真剣な表情でレースを追って見ている。
「最後の種目だから少し緊張している?」
おどけた様子で話しかけてくる風斗に、真剣な眼差しは変えないままに同じようにおどけたように返すリッケル。
「そんなことないぜ!ただ、みんなが頑張ってんだ。そのタスキを受け取るんだから、覚悟を決めないとなって」
その言葉に少し驚く風斗。勝ち負けにこだわりを見せずに、タスキに込められた想いを考えていたリッケル。
ふっと笑いかけ頭をぽんと撫でる。下ではギャーギャー言ってるリッケルだが、風斗は一人遠くを見つめた。
「そうだね、覚悟を決めて走らないと。」
彼一人が走るのではない。彼一人に託された様々な想いを胸に走るのだ。
前いた世界ではイベントにしか感じていなかった競技にも、本気で挑む。目には見えない物の価値に気付いたからこその本気だ。
後方と前方に目を向ける。前方の風斗の進路には、鉄で作られた大きな橋が特徴的なステージとなっている。シンプルな外見だが、それ以外に目立ったものはなく直線上にはゴールテープと『大闘走』と書かれたものが浮いている。
さらに、妨害をする為に集まった生徒の数が段違いに多い。途中で落とすより、最後に落とした方が効率がいい為であろう。風斗に借り物競争時にボコボコにされた面々も怒りを携えて今か今かとその時を待っていた。
後方の彼方ではチラホラと走者が見えてくる。妨害を受けながらも走る速度は落とさず、真っ直ぐにこちらを向かって来ていた。
「ねぇ、リッケル?一番初めにタスキを貰ってもいいかな?」
「別にいいぜ、直ぐに兄ちゃんに追いついてやるよ!」
この[大闘走]ではタスキは同じ等級であれば誰でも授与可能である。なので順番を決めて置くことや、失格者が出た場合の走らない走者も決めておくことも重要となっている。
ちなみにならず者等級の作戦は、臨機応変に良い感じでというものだ。
一番早い第五等級の生徒が魔法防御結界の中に入ってくる。その名の通り外からの一切の魔法を通さない、チェックポイントに貼っているものだ。
肩で息をし、マナ枯渇の症状が出ている少女に風斗が近づく。とめどなく流れる汗が地面に跡を残している。
「頑張ったね、あとは僕に任せて」
ニッコリと笑う風斗に少女も同じくらいに笑いながらタスキを託す。そうこうしている間にも続々と他等級やならず者等級の面々が魔法防御結界に入ってくる。
タスキをしっかりと体に付け、風斗は体中にマナを張りめぐらせる。さらに風纏と観察眼を展開し、体を低くかがめる。
クラウチングスタートの姿勢になり、他等級の走者が訝しげに思い始めるのと同時に小さく呟いた。
「位置について」
ビキビキと鳴る筋肉に風纏を、フルに展開させながら―。
「よーい」
ニタリとした笑みを零し―。
「ドン」
その声を聞き、風斗は走り始めた。




