王都グラン祭後編 2-1
点数が配偶されるその声を聞き流しながら、ゴール地点の近くに座り、話していると二人組の男女に風斗達は話しかけられた。
第二位でゴールしたフレデリックと言われる第二等級の生徒とその生徒が守っていた少女だ。
二人も同じように近くに座ると、突然フレデリックが頭を下げる。青髪の短髪が小さく揺れ、そばにいた少女も同じように頭を下げる。同じ青髪の綺麗な長髪だ。空の色を落としたような、そんな印象を受ける。
「この度は庇ってくれてありがとう!君たちがいなければ今の僕達は...」
まくし立てるように話し始める少年に風斗は一瞬、面をくらいながらも言葉を紡ぐ。
「あ、頭をあげてください!あの状況は僕のせいでもありますし」
「僕達の、ですよ」
「あ、はい」
リシュに鋭いツッコミを言われ、はいとしか言えない風斗。あの魔法群を防いだとは思えない今の風斗に、フレデリックも少し調子を取り戻したのか気難しい顔を解いていた。
「紹介が遅れた。第二等級フレデリック・ローラント。こっちはぼくの妹のハンナ・ローラント」
よろしくねーと、にこやかに手を振るハンナと呼ばれた少女。先程まで恐怖で支配されていたとは思えない明るさがあり、普段の彼女は今のような快活な少女なのだろう。
今も、いまだ緊張のぬぐえない兄にもっとシャキッと!と背を叩いている。
お互いの紹介を終え、少しの間談笑を交わす。最初のうちはリシュの変貌に慣れていなかった二人だが、会話を重ねる毎に徐々に遠慮のようなものが無くなっていた。
「本当に感謝してもしきれない。あの場僕はなんにも出来なかった」
悔しげに苦虫を噛み潰したような顔をするフレデリック。第二等級でありながら何も出来なかった不甲斐なさを感じているのだろう。手のひらはプルプルと震えている。
「大丈夫ですよ。実際僕も右腕がこんなんになっちゃった訳ですし」
あははと笑う風斗に、フレデリックとハンナはいたたまれずに口を噤んでしまった。この世界に来て空気が読めない自体は初めてだったので風斗がおろおろとしだす。彼なりのフォローも追い打ちだったに違いない。
「風斗さん、どうやってあの魔法の束を防いだんですか?」
乾いた笑いが場に木霊する状況に助け舟を出すリシュ。実際間近で見ていたこともあり、原理はだいたい理解できるがローラント兄妹もそれが気になっていたようでチラチラと現場の残骸を見ていた。
白い道にいくつもの壁のような残骸と、半円の中心が半ばから崩れた壁のようなものが二つ縦に並んでいる。今は修復されかけているが下の白い道には、それを防いだ爆風の跡がしばらくは残っていた。
「私もそれすんごい気になってたの!お兄ちゃんもそれ聞きに来たのもあるでしょ?」
「あ、ああそうだったな。風斗、良ければどうやったか教えてくれないか?」
良いですよと快く引き受けると何をしたかを簡単に説明した。まとめるとこういうことだ。
土魔法で白い道から門のような壁を作る。さらに衝撃を外に流しやすいようにしなった半円のものも作り、間には白い道で使われている土に水魔法で泥を作り間に敷きつめる。
外は風魔法で纏い、気休め程度であるが衝撃や魔法を外に流す構造にする。
これにより魔法が到達した瞬間、門のような壁で威力を下げ、風魔法で弱い魔法は外へ、強い突破力のある魔法でも影響を受け減速。さらに土の壁に泥で威力を消していたという事だ。
壊れた箇所はマナを使いその場で修復し直すということをしていた。そのせいで制御や生成するために前に出していた右腕はもろにダメージをくらったが、あの量の魔法を受け右腕だけで済んだのは幸運なのかもしれない。
台風のように強い風魔法を纏わせたのが幸をそうしたのだろう。説明を聞いていた兄妹はしばしの間驚いていたが、ふむふむと頷き話をそのまま聞いていた。
そして数分の間様々なたわいもない話をしていたが、他の生徒がぞろぞろと移動し始めたので二人も腰をあげる。
「もう少し話を聞いていたいけど僕らは行くよ。お題があっているかの合否を聞かなきゃならないしね」
そういうと手をさし伸ばしてくる。その手を掴み立ち上がった風斗にフレデリックは柔和な笑顔をうかべる。
「今回は本当にありがとう。なにか困ったことがあったら助けになろう。風斗、君と勉強出来る日々が来ることを祈っているよ」
「僕も早く進級して追いつきたいと思います。」
がっしりと握手を交わし、男の友情といったふうなオーラを纏った二人。当初あった後ろめたい空気は、もうそこにはなかった。そしてその少し離れたところでは、リシュとハンナもお互いに話していた。
「リシュさんってそんな風に笑うんだね!もっと冷たい人かと思ってた。」
「私も表情が溶けるとは思ってもいませんでした。きっと彼の影響ですね。」
その言葉を聞くとニヤァと口角を上げ笑うハンナ。その笑顔に抗議を当てると ピューと音を立てながら兄の元に行ってしまった。
もうなんなんですか!プンスカ怒るようなポーズをとるが口元は柔らかな笑みが浮かんでいる。別れが済んだのか風斗がリシュの元に歩み寄ってきた。
右腕は応急処置程度の回復魔法をかけたが、もう少し集中しなければ跡が残ってしまうだろう。リシュ自体回復魔法は使えるが、使い手の方や教師陣の方が上手く回復してくれるだろう。
細かな回復ができない自分自身の不甲斐なさに嫌気がさす。
「(私自身ももっと精進しないといけないですね......)」
「リシュどうかした?」
「いえ、なんでもないです。それよりなんのお題で私を選んだのか少し気になって、行きましょう?」
少し話をそらされた気がする風斗だが、言葉に従いお題を発表する場所まで移動することにした。ゴール地点の横にあるそこには数人の生徒や物により少しばかり渋滞のような光景が並んでいた。
そうはいっても片手で数える程しかゴールしていないのでそこまで混雑とは言えないが。
「はい、お題に記された『金属物質』ですね。大丈夫です。次の方〜」
道中にすれ違った第四等級の男子のお題は金属物質だったらしい。道理であんな重いものをと風斗は納得した。会場にまずあんなものがあったという愚問は無しだ。
数人の生徒の合否が行われ、次第に風斗達の番が近くなってくる。
「点数が分配されてから確認って普通逆じゃない?」
風斗の疑問は最もなものだった。持ってきたものを確認し、合っていれば点数を、間違っていたら何かの措置を行う方が合理的であり、元いた世界でもそのような流れだった。
「これは様々な依頼を想定した競技になっているんです。討伐依頼や採取依頼など、依頼を受注した人が正しく目標物を達成してこれるか。そのためにこのような段取りになっているんです」
もちろん間違っていたら配点は無しになりますとリシュが付け加えてきた。
この世界では国や村、協会などから様々な依頼が飛び交う。それを消化し、利益や収益を確約しているものも多く、冒険者と言われる者がこれに該当する。
リシュの説明が終わると同時に風斗達の番がやってくる。紙を差し出してくださいという案内に何故か風斗はしどろもどろになってしまう。
「い、いやなんていうか。深い意味は無いんだけど、パッと見た時にリシュが浮かんだって言うか!い、いやほんと深い意味は無いんだけど...!」
急にあわてふためき、紙を出そうとしない風斗にリシュと係員はニヤニヤと顔を緩める。今大会でもその光景が何度かあった。
その都度会場内が黄色い声援と茶化しの声援などで盛り上がったものだ。借り物競争系でよくありがちな、そうお約束のあれが。
「出してもらわなくても結構です、、、よっと」
係員が指をタクトのように振るうと、風斗の左ポケットの中にあった魔法の紙が竿にかかった魚のように抜き取られる。白い糸のようなものが魔法の紙から伸びていた。
「不正防止のために事前に全ての紙に同系統のマナを施しているんです。後でこうして取れるように」
そうしてにっこりと笑う係員に風斗はなんとも言えない顔で未だ言い訳を垂れ流している。そしてリシュはなぜだが凛とした顔と恥ずかしげな顔を何度も繰り返しながら、今か今かと紙の内容について見たいと言った風であった。
氷のような彼女を連れ出し、様々な死闘を繰り広げた風斗達に、今や観客もその内容に興味津々といった風になっていた。あそこまで溢れた歓声や、賑やかな会場はしんと静まり返っている。
「こほん。では内容も掲示を行います。今回の内容は、、、、はい!!!ってえええええええええええええええええ!?!?!?」
そこに書かれていたのは「好きな人」、、、ではなく―。
「強い人」であった。
これには会場たまらずため息。息ぴったしの為、息に風斗は驚くばかりであった。
「え?」
「は?」
ゴゴゴゴゴという地鳴りが起きそうなほどリシュの背景に炎が揺らめく。果たしてマナの放出によるものなのか、はたまた本当の炎なのか、誰も知るよしもない。
知りたくもない。
「風斗さん、これは?」
ゆっくりと静かにだが冷たい声で風斗に詰め寄る。詰め寄られた本人は、というとそっぽを向きながら恥ずかしげにぽつりぽつりと話し始める。
「やっぱり、その、強い人というとリシュかなぁって。一度も勝てたことないし、知識や経験もリシュが上だし、それに精神面も...!?」
音を消し去り、リシュが風斗の目前に移動し、その唇を人差し指で抑えた。なんとも羨ましいシーンではあるが当のリシュの目は最高に冷え切っている。
「風斗さん、私のいちばん得意な魔法はなんだか知っていますか?」
「えっと、、、回復魔法とか?」
そういう風斗ににっこりと微笑みかける。
「いいえ、氷魔法...です! 」
風斗の体に冬が訪れた。厳密には風斗が氷漬けになってしまったのだが。リシュは怒ったように、プンスカという効果音と共に会場をあとにした。
氷漬けの彫刻と会場を残して。




