王都グラン祭後編 1-3
そこから数分。速度をゆるめることも無く走っている風斗とリシュ。変わらずリシュはお姫様抱っこ状態でのほほんと周りの景色を見ているが、風斗には一筋の汗が流れていた。
「(長い、あとどれぐらいでゴールなんだ)」
実際の長さではそこまでの距離はないこの街路樹のコース。だが高低差のある坂や先の見えない曲がり道、更には絶え間なく続く魔法による妨害で消耗が激しかった。
いくら観察眼によるスローモーションで軌道が分かっても体全体で避けないといけない場合もあり、体に来る負担は決して少なくはない。
リシュが軽い事と負担に対して、あまり気にしないでいいことが救いか。
そんなわけで何度目かの街路樹の曲がり角を曲がった時に前方に人影、そして大きく垂れ下がったゴールと書かれた垂れ幕が目に入る。
ゴールと人影には未だ距離があるが、このままでは先に着くのは先方の生徒だろう。風斗は疲れを伝え始めた体に鞭を入れ、足を動かし続ける。
先頭の第二等級の生徒は誰かをおぶっているようで速度はないが、走っていると言うよりかは競歩のような動きだ。そのおかげか、上下運動がほとんどせず、運ばれている人物は快適そうだ。
自分との差に風斗は内心リシュに対して申し訳ないと思い顔をむけるが、当の本人は気にしていない様子である。目が会い、微笑がえすほどには。
「最終コーナーを風斗選手も曲がり、現在フレデリック選手の後を追う形です!このままフレデリック選手が逃げ切るか、はたまた風斗選手が追い抜くか!圧巻のレースです!」
そのアナウンスが言い終わる前にゴール付近の垂れ幕の上に何人も生徒が現れた。街路樹の入口でいきなり襲ってきた生徒やその前に襲った騎士達も居る。その数ざっと20人。
電柱にいる鳥のように並び立っており、その数人は詠唱を始めている。最後の最後で邪魔をしようという魂胆だろう。流石の予想もしないこの数に足は止めずとも思考は停止する。
いつの間にか横に並んだフレデリックも同様のようでギシリと 歯を鳴らしている。おぶさっている青髪の少女も突然の事態に目を伏せていた。
自然とリシュに添えている手に力が入り、前方を睨むように立ち止まってしまった。溢れ出る汗が嫌に現実だと教えてくることも、返って風斗を焦らせる。そんな様子の風斗にリシュは少し微笑みながら、しっかりと響く声で問う。
「私も手伝いますか?」
その声に我に返る。前方は詠唱が終わり、いつでも自分を殺そうとしてくる軍団。対して自分は度重なるマナ消費で消耗した身。横にいる今回のライバルは萎縮してしてしまい、怯えて足が震えている。
だがそんなことは関係ない。守らせてくれと伝え、彼女は はいと答えた。
そんな彼女が今腕の中にいる。
怯えることはすれど、諦めることなどしていいはずがない。
絶えず微笑みかける彼女に対し自分だけ怖がっては示しがつかない。
「大丈夫。リシュ、君を守るよ!」
「はい!」
いつしか止まっていた思考は血のごとく流れ出し、口元は自然と笑みを連れていた。風斗が高速詠唱をし終わると同時に、その場が魔法によって蹂躙し尽くされた。
単純な球状の魔法や蛇のように擬態した魔法や硝子のような波状攻撃を孕んだ攻撃。剣のような魔法なども存在しその数人数を超えた40程。
様々な魔法が風斗とフレデリックのいた場所を襲い、いつしか黒い煙で四人の姿は見えなくなっていた。
散々避けられてだいぶイライラしていたのであろう。
いつの間にかリタイアし、混ざっていた騎士達も勝利の余韻に浸り、その美しい顔を歪めて笑っていた。
あの時自分たちに従っていれば、ということを口々に呟きながら。
黒い煙が次第に視界を開き、痛々しいまでの惨劇を晒し出す。白い地面は幾重にも抉られ、自然修復が遅れているほどであった。
下卑た笑いを浮かべていた生徒はその惨状を目に焼き付けるかの如く凝視をする。そして黒い煙が全て消える前に突き抜ける一つの風にその視界全てを奪われた。
その風は弱々しく以前のような速度はないが、確実にこちらに向かってきている。口々に疑問や驚きを吐き出す生徒達。その様子を知ってか知らずか、風斗は進み続ける。
いつしか左腕だけでリシュを抱き抱え、右手はだらんと仕事を放棄している。火に焦がされた衣類と血を滴り落としている様子が実に痛々しい。
だが苦悶の表情を浮かべながらも足は動かし、着実にゴールを目指すその姿にいつしか会場には拍手が溢れていた。
その光景と会場の雰囲気に飲まれ、いつしか攻撃した生徒達も既に戦意はなくしていた。そして小さく拍手をしている。気だるそうに騎士達も小さくだが、拍手をしている。
ゆっくりと歩みを進めていた風斗だったが、ついに倒れるようにゴールした。その途端会場は先程とは違う歓声に包まれ、興奮気味のアナウンスがまくし立てた。
「激戦の末、一位をもぎとったのは第五等級の風斗さんです!皆さん今一度この騎士に最大級の拍手を!!!」
いつしか仰向けで倒れ、息を吸い込むことに集中していた風斗にふと手がさし伸ばされる。心配したような怒っているような、はたまたほっとしているような顔をしたリシュ。風斗はその手に優しく自分の手を重ねる。
その瞬間、驚くほどの力で体が引かれ、ふわっとした浮遊感の後すぐさま抱きしめられた。他の誰でもないリシュに。
「リ、リシュ?ど、どうし―。」
「こんなに無茶して!こんな怪我するなら私だって......! 」
抱きしめる形から少し身を離し、風斗の目を見て言うリシュ。その瞳からは暖かい涙が流れていた。風斗よりも少し背の高いリシュに、困り顔で笑いながらとめどなく流れる涙を拭う。
「ごめんね、心配かけて。少し無茶しすぎたかもね。」
重ねてごめんと謝る風斗。
「本当ですよ!もう、でも、、かっこ...よかったです。」
恥ずかしげにも、咲き誇る笑顔を見せるのであった。
リシュが泣きやみ、風斗の右腕の止血が済んだ頃、全ての走者が走り終わり、アナウンスが響き点数が配偶され始めた。




