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王都グラン祭後編 1-2

基本的にこの競技中は、全部お姫様抱っこしている状態です。

「す、すごいです!景色がまるで流れるように!」


 風斗にお姫様抱っこされているリシュが感嘆の声を漏らす。今現在彼らは直線の長いルートを風纏で全速で走っている。


 リシュを抱えながら走っているが、つかれる様子はなく、リシュも自分に身体強化をかけ現在は風景を楽しんでいる真っ最中だ。


「舌を噛まないようにしてね?」

「はーい騎士様〜」


 そんなあどけない口調で返すリシュに若干苦笑いを浮かべながら全速力で街路図のコースまでひた走る。騎士様と言われたのは比喩表現ではなく、実際風斗の纏っている服そのものが騎士のような格好だからだ。


 鎧のようなごつい物ではなく布をベースに置いた白の羽衣。さらにマントまで着いている。これはリシュのかけた幻術魔法の一種で、毎日風斗にかけている頭髪の色を変えるものに近い。


 リシュから、自分が恥ずかしい思いをしたのだから風斗さんも恥ずかしい思いをしてください、というなんともまぁな理由でかけられたものだった。


 二人を見れば姫を救い出した勇敢な騎士のような印象を受けるだろう。見えれば、の話だが。


「そういえばリシュ、酔ったりはしてない?一応気を使いながら走っているんだけど」


 整備はされているが、現在景色が流れるほどのスピードで走っているのだ。さすがに揺れるし、慣れていないリシュがいつ酔ってもおかしくはない状況であった。


「大丈夫ですよ、身体強化にプラスして視界補助と三半規管系への精神魔法も少しかけているので。」


 車酔いなどを克服する便利な魔法があるんだなぁと、一人感心する風斗。これであれば魔法を避けながらでも、無事ゴールまでたどり着きそうだ。


 少しの間たわいもない会話をしながら道を突き進む。途中数人の生徒を追い抜く形になったが、彼らには追い風が通ったと思うだけであろう。


 眼前に控える巨大な街路樹に差しかかる。数百メートルもない所で突然待ったがかかった。前方で確実に目標を待っている数人の騎士のような格好の生徒が、仁王立ちで待っている。


 風斗も風纏を緩めながら緩やかに止まる。急な速度では止まることはできないが、微弱な雷魔法の応用で足や体に負荷をかけながらも急に止まることが出来る。


 もちろんリシュは何も言わずに微弱なマナ放出で身にかかる雷を相殺する。巨大な街路樹の元へと続く白い道に五人の人だかりと二人の塊。


 喋るわけでもなく互いに睨み合うような形で数秒の時が経つ。まるで極寒のような肌寒さが感じられるが、その空間を作り出している両者は気にもかけていない。


 その後ろや端から自分も巻き込まれないようにと、気配を消しながらお題のものを運ぶ生徒も一人、二人ほどいた。その二人を素通りさせると、仁王立ちしていた中央の一人が口をおもむろに開く。


 先程リシュに傅く形で誘っていた、長髪の金髪美形だ。


「先程は驚きのあまり一歩出遅れたが、二度もそうはいかない。リシュ嬢のような高貴な方は我らと居るのが自然なのだ。等級差別はしないが、君のような人間に殿が務まるとは思わない。さぁ、私達に......」

「そんなくだらないことを伝えるだけに僕達の時間を浪費させたのですか?」


 怒気の孕んだ言葉を投げつける長髪金髪に向け、蔑むような冷たい目を向ける風斗。


 もちろん僕達、には第五等級の面々も含まれているのだが、二人の時間を邪魔しやがって、という意味に捉えた眼前の生徒が怒りをあらわにしている。


 あれだけ誘っても靡かなかった可憐な美少女を半ば強引(生徒にはそう見える)に引き抜き、あまつさえ時間を邪魔するなと言われれば、頭にくるものがあるだろう。


 その証拠に立ちでるマナにより彼らの髪の毛がはわはわ と浮くように漂いだした。


 何やら話し合いでは蹴りがつかなそうな状況になってしまったことに内心、半分ため息を吐く一方で何やら違う感情がざわつき始めていた。


「ごめんねリシュ、少しイラッとしてしちゃった、反省だね」


 腕の中にいるリシュに苦笑い気味に話しかける風斗。


「ふふ、大丈夫ですよ。それに少し楽しそうですしね?」


 本当に楽しそうに口に手を添えて微笑みを向けるリシュ。その姿に前方の生徒達は怒りを忘れて見惚れる。


「うーんリシュには隠し事できなさそうだね…」

「ふふふ、私のことは気にせずお願いします」


 その言葉を聞いてニヤリと笑う風斗。そして全力の風纏を体中に走らせた。風が体を走り、髪の毛などもゆらゆらと揺れている。笑顔を携えた風斗に対して流石に眼前の騎士達はたじろぐ。


 彼らはこの数で攻めれば否応にも萎縮すると考えていたからだ。だが、目の前の敵はそのことなど考えておらず敵意をビシビシと迸っている。


 だが彼らも引けに引けない。ゴールなどはとうに捨て、眼前の敵を倒しリシュを我がものにするために、だ。隊列を直し、息を整え戦いの準備をする。目と手の動きだけで整列できる辺り、腐っても優秀な生徒と言うことが分かる。


「マナ感知は最大に!そうすれば彼の魔法も位置をつかめる!魔法発射!」


 長髪の生徒がそういうと色とりどりの魔法が空を駆け走る。ほぼ詠唱もなく強力な魔法が風斗に降り注ぐ。


 風斗に到着すると思った矢先、風斗の姿が消えた。


 その場から瞬間移動にも似た移動で魔法の網を掻い潜り、一番前に陣取っていた長髪の腹に一発キツイ蹴りを入れる。


 身体強化と風纏による加速にのせた一撃を受け、後方に音を立てながら立ったまま滑るが、両手を腹の前に出しており防御されたようである。


 間髪入れずに左右から真剣での攻撃が降り注ぐ。恐らく騎士としての格好による飾り程度の役割だが、本来の役目を果たそうと寸分の狂いもなく風斗の胴体を狙って来ている。


 想定内というように軽く宙返りのようにその剣先を避け、一瞬の戸惑いで生まれた隙に左の騎士の顔に蹴りが飛びそのまま後方へ飛ぶ。


 さらに落とした剣が地面と出会う前にリシュを抱き抱えている逆の手で拾い、右にいた騎士の足の甲冑の合間に突き刺す。この間コンマ数秒。


 普通の蹴りなら弾き返されたり、そこまで深く刺さることは無いが、様々な効果が重なった一撃だ。深く深く刺さり、足からは血が流れ、当の騎士は嗚咽にも似た悲鳴をあげ地面に転がっている。


 数秒で出来上がった惨状に声も出せないでいる騎士に向かい声をかける。


「君たちがどんな思いで僕達を追いかけてきたのかは知らないし興味もないけど、これ以上邪魔するなら全力で潰す」


 その言葉を合図とし、騎士達は言葉にならない叫びを上げながら、風斗に魔法を放つのであった。


 数分。いや実際にはもっと短かったかもしれない。風斗とお姫様抱っこのリシュ以外に立っている者はもうそこにはいなかった。


 突然アナウンスが響く。


「現在一位は第二等級のフレデリック!次いで第四等級のセーリーです!二人とも残り半分頑張って下さい!他の等級の生徒も最後まで頑張って下さい!」


 現在の順位と残りの経路を軽くアナウンスする声に風斗は若干の焦りを覚え、一度リシュを抱き直す。移動と戦闘で流石に少しズレてしまったのと、長時間同じ姿勢でいたことへの配慮だ。


 抱きかかえられたリシュは少し擽ったそうにするが、すぐに真面目な顔になり眼下の光景に目を見張る。

 近場でしかも抱き抱えられながら見ていたにも限らず、この結果が未だ信じられないのだ。


 騎士達に組み伏せられる事は考えていなかったが、必要ならば自分も加勢しようと考えていた。


 それが結果はどうだ。助けるどころか、自分を抱えたまま、ものの数分で五名いた生徒を打ち破っている。


 はっきり言えば異常な強さだ。まだこの世界に来て一年もしていないとは思えない。流石に自分たちの等級の面々には勝てないとは思うが、それを加味しても異常であると考えた。


 突然体中に風がまとわりつくような感覚が体を走る。その瞬間リシュは身体強化、視野の補助と三半規管補助の魔法をかける。


 魔法の同時発動、さらに無詠唱ということをサラッとやってのけているのだが、当の本人はケロッとしている。


「だいぶ時間食っちゃったし、急いでいくよ」


 その言葉にリシュはこくりと頷き見せる。眼下の生徒は未だ苦痛に顔を歪めているか、もしくは気絶しているかのどちらだ。


 白い道を一瞬で駆けていくと巨大な街路樹へと足を運んだ。



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 街路樹と言うには些か巨大すぎるので、森と言った方が差し支えないであろう。


 一本道ではあるが、なんども蛇のようにうねっていたり、高低差があったりと普通に進むだけでも一苦労するコースになっている。


 さらにそこには数十人規模で待っている生徒や教師による妨害が待っていた。各々木の上や、木の上で生成した足場から魔法を放っている。


 完全な安全圏からの攻撃、しかも奏者は白い道を走ることを義務づけられているのでショートカットをすることもできない。


 完全な罠の中をひたむきに走るしか無いのである。さらに同じ等級の生徒が補助魔法で援助することも禁じられており、孤独とも戦わねければならない。


 そして現在猛攻撃を受けながらも一切そのスピードを緩めることも無く魔法の流星群を掻い潜っている者達がいる。風斗とリシュだ。


 達とつけたが実際にはリシュがお姫様抱っこされているので、風斗一人が回避を行っている。


 左右から伸びる魔法をジャンプで掻い潜り、その隙にと出された魔法をも空中を蹴るようにして地面へと戻りように避ける。前方からの目くらましのための魔法を抜け、その瞬間届く魔法を体を捻りながら避け、後ろ向きで前方へ軽くステップ。


 風斗の元いた場所が数秒後には魔法の槍で突き刺さったようなことになっていた。そのことを露にもかけず、また前方に振り返り風纏でその場をあとにする風斗。


 負けじと追うように歩みを進めようとする攻撃陣だったが、急激なマナ消費のためその場から動けずにいた。


 かれこれ五分ほどずっとこの攻防である。実際にはリンチだが風斗には一切の魔法が当たらず、その様子に焦った者達がマナ消費の激しい魔法を放っている現状だ。


 そうでなくとも風斗の風纏のせいで、必要以上にマナ感知をしなければならないために、慣れない作業が多い。そのため異常な浪費で体が動かないのだ。


 入口で待ち伏せしていた半数以上の生徒を掻い潜り、現在中腹あたり。依然森のような街路樹は続くが一本道で迷うようなことは無い。


 その道中、余裕が出たのかリシュが風斗に話しかける。


「さっきの乱闘も凄いですけど、よくあの魔法群を避けれますね。ちょっとドン引きです」

「え、ええ。そんな難しいことでもないと思うけど...」


 ドン引きと言われ若干凹むような雰囲気を醸し出す風斗。その様子に悪戯っぽく笑うリシュに本気で言っていないことを感じ取り、ふっと安心したような顔を見せる。


「この世界の人はさ、自身の体に対しての理解が少ない気がするんだよね。」


 半年ほどこの世界に居て気づいた感想を走りながら簡潔に話す風斗。この世界はマナによって彩られており、マナを行使する魔法が跋扈していた。


 体術や必要最低限の武術は存在しているが、近づかれる前に対処というのがこの世界の常識のような認識がある。


「魔法は確かに強力だし強いけども、マナが切れたら何も出来なくなる。本当に危ない状態、例えば魔物との戦闘中に切れてしまったらそれこそ終わり。マナが切れる前に倒すのが常識だろうけど、切れたあとのことも考えないといけないと思うんだよね。」


 実際魔法に関しては風纏や卓越した観察眼のスローモーションによる先読み行動などがなければ、風斗は足も手も出ない。だが嗜みと称された数多くの習い事による効果で、体が武術や身体の動きを覚えていたから今までやってのけた結果だ。


 この学院の生徒は近接になった瞬間の動きの悪さも出てきているが、第二等級からは中途半端な動きでは抵抗されることが多い。


 未だフェイントなどには引っかかることが多く、魔法などはそれで避けやすい状況が続いている。さらに体がどのようにして動くか、どうすれば動くかなど物理法則による動きを、感覚で覚えているからこそできる動きもある。



「確かにそうですね。私も基本的な動きしか履修していません。」

「まぁ今は通用しているからあれだけど、僕も頑張らないっと!」


 話している間に魔物に乗ってきた教師陣の魔法を避ける。生徒とは違い、ある程度は手加減されてはいるが確実に急所を狙ういやらしい魔法弾だ。


 さらに魔物と言っても使役できる魔獣であり、高い等級であればできる使役魔法の一種である。数々の魔法を足技で避け、空中を蹴り無理やり方向転換などをして避ける。


「風斗さんいつの間に風力場を習得したんですか?」


 風力場とは風魔法で作った即席の足場である。基本的に習得必須とされる魔法で汎用性が高く消費マナも少ないが、中難易度のマナ操作が必要になってくる。


 第三等級からの実技科目であり、第五等級の面々では使っている生徒は居なかった。


「前に本で読んだんだ。命令式とかは頭に入っていたんだけど、イメージが固まらなくて」


 体に流れる、または空気のように漂っている周りのマナに命令式を組み込みイメージを具現化する。それがこの世界で魔法と呼ばれているものの基本的な知識である。


 命令式の他にも頭で浮かんだ具体的なイメージがなければ魔法は発現しない。そのための補助として詠唱がある。


 してもしなくてもいいが、慣れないうちは己が関係するであろう意味のある言葉を羅列することで、イメージをより強固にし、また威力も安定させる効果がある。


 風斗は大体の初歩的魔法や必須魔法の命令式を覚えているか、感覚的に頭には入っているが未知のものには変わらない。なので使える魔法も少ないのだ。


「風力場は習得したかったんだけどね。イメージが湧かなくて使えなくて...」

「このグラン祭の間で見て、覚えたんですか?」

「うん、雲に浮かぶイメージで作れたよ。あとカリスト教授に教えて貰えたしね。でも意外としっかりしてるんだね、普通に壁みたい」


 そうこうしているうちに前方の第二走者らしき人影が現れた。


 今も尚、白い大きな鷹のような飛行魔獣に乗った教員からの魔法は放たれてはいるが当たる気配は一向にしない。


 前方全てを包み込むような無慈悲な魔法の雨ならまだ分からないが、手加減を加えた一撃だ。観察眼だけで、スローモーションになった軌道を避けるのは容易い。


 白い蛇のような道に森のような左右の街路樹は未だ、走行者を見待っているようにただ揺れることも無く、鎮座している。前方との差が縮まり、流れ出る汗を拭おうとしない生徒の姿がはっきりとわかる。


 アナウンスで紹介された第四等級も生徒だろう。どんなお題を出されたのかわからないが、黒い鉄球を引きずりながら運んでいる。


 引きづられたあとの道が抉られるように削れているが、即座に治っていく。そんな彼を簡単に横から抜き、とんでもないスピードで走っていく人影。


 第四等級の生徒はぽかんとした口でその背を見るしかなかった。

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