親方、空から転移者が!
人生は時として残酷である。生まれた家庭や境遇により最悪その後の人生を決定づけてしまう可能性がある場合や横からふっと湧いた理不尽にも対応していかなければならないからだ。
唐突に回避できない理不尽に直面した場合人は更なる進化か、はたまた退路を帰してしまうのか、偉人たちのこれまでの名言の中にもそのようなことに対して深く追求されていることが教科書や名言集から見て取れる。
現在、ス〇イツリー自身も冗談は高さだけにしてくれと苦笑してしまうような高さから、理不尽を真っ向に受けて落下している春野風斗はただ思う。進化も退路もなく、待つのはただ純粋な死であると。
現在風斗はとんでもない高さから絶賛落下中である。
「たぶんあの黒い物体のせいだよな〜」
自らが今置かれている状況を授業中に落下してきた黒い物体の原因だと考えを巡らす。風斗自身何故こんなにも冷静出いられるのかと、半ばもう死んでいるのではないかと思うがどうやら自分の周りについている薄く黒い膜のようなもので守られているからだと推察した。
自分の意識を取り戻した時には既に空中にいた。
「!!!!!??????」
驚きにまた意識を失いそうになるが空気を感じていないことに気づき、次に自らを覆っている膜に気づき現在に至る。
「う~ん、これは巷で流行りの異世界転生というのかなぁ?」
空中で胡座をかき、余裕な表情で考察を推し進める風斗。彼をここまで冷静にさせるには一重に政治家の一人息子という肩書きに溺れず勉学に勤しんだ結果だろう。常に冷静に周りに合わせ最適解を求めた彼なりの成果だ。
多少異世界転生と異世界転移とを履き違えているあたりは天然なのか、はたまた興味がなくクラスメイトの話を流していた罰であろうか、その両方なのか。
眼科に飛ぶ込む美しい海や森林、遠方に見える迫力ある火山や身も凍るような霧に包まれた氷山を見ながら、こんな美しい世界で第二の人生を歩むのも良いなと頬を緩める風斗であった。
地面との差もある程度は縮まり風斗自身の落下スピードも限界を達したのか上がらなくなった頃に異変は起こった。
突然風斗の靴が外れ、上空に飛んだのだ。ただ靴が外れただけであったが、風斗を焦らせるには十分すぎるぐらいの出来事であった。
今まで十分に余裕を持っていたのには理由があった。
それは黒い膜がおそらく自分を守ってくれるだろうということを考えていたからだ。クラスメイトから異世界転生物の話を聞く時(実際には異世界転移)必ず召喚もしくは生まれ変わった人間が生きているという事。
自分をこんな上空に召喚した挙句、黒い膜だけというのは些か疑問が残る。だがすぐに自分が死んでしまっては物語が始まらず、転移した意味が無いからだ。
よって黒い膜は落下の衝撃を向こうもしくは和らげ自分を守ってくれるだろうと信じていたのだ。ただしクラスメイトが話していたのは創作物の話であり、実際の話ではないのだが。
流石に思考はしてもその前提条件が抜け落ちるほどにはやはり混乱をしていたということなのだろう。そんなこんなで余裕だった風斗に、理不尽が黙っている訳でもない。
黒い膜が徐々に溶けかけもろに風圧くらった靴が上空に飛ばされたというわけだ。
「やばいやばいやばいやばい!」
風斗は焦る表情のまま足先を見た。ゆっくりではあるが確実に黒い膜が薄くなり消えてゆく。
今はまだ膝下をゆっくり消えていくだけだがこのままのスピードでゆくと地面と、こんにちわする前に膜が全部消えてしまう。ただでさえ最高スピードで地面に落ちているのだ、確実に死は免れない。
青ざめ、白くなり始めた風斗。現実逃避に靴は今どこら辺かなと探しに上空を見た時だった。さらなる理不尽が挨拶をしてくる。
上空から猛スピードで自らを食おうとしてくる竜の出現である。
煌びやかに太陽の日差しを反射するどす黒い鱗。速度を速めるためか折りたたまれている翼は広げるだけで太陽の光を奪ってしまうかのようだ。太く強靭な尻尾は大地を割れさかんとする槍のようで、何本も凶悪な牙は今見つけた獲物を早く砕かせろと言うように覗いている。
刹那の思考も意味を持たなく、感じるのはただ純粋な死である。
「いっそしっかりと食べてもらいたい...」
そんなことを口走り、数秒後の自分の死を確認するため目を見張る風斗。不思議と涙は出てこなかった。様々な希望絶望のミルフィーユで感覚が麻痺を起こしたのだろう。
だがそれでいい。最後の死に様が泣き顔では男として、決まらない。そう思いしっかりと大の字で今か今かと死を待つ風斗。
そんな思いを露も知らずか黒竜は音をも追い抜くスピードでどんどん風斗に近づいていく。あとすこしでその牙が風斗を貫こうと口を開けた刹那、銀色の光が闇を振り払った。
「え?」
そんな素っ頓狂な声を上げ黒竜の吹き飛んだ方を見ると、そこには白く銀色に輝く竜が雄叫びをあげながら黒竜を食い殺そうと空中で噛み付いていた。
黒竜もただ殺されてたまるかとお互いに食い合いながら血しぶきをあげている。
お互いの体が血で染めていくのを見守る風斗。いつの間にか疲弊した黒竜が遠方に見える火山へと逃げてゆく。それを逃がさんとばかりに至る所に噛み傷の残る銀の竜が追いかけていった。
安堵と恐怖とともに感覚が涙を運んできた。声にならない声でとめどなく涙を流す風斗。こんなに生きている実感を体で感じるなんて生涯あるだろうか。
小刻みに震える体を両手で抑えながらただ縮こまり、助かった実感を噛み締める。ただ風の勢いはもう両手を蝕み始めていた。
黒い膜はもう時期切れる。地面の距離もあとわずかに残しながら未だ死を放っている。
今度こそとケジメをつけ、大の字で腹を下に据える風斗。今度こそ死を受け入れよう。そう思ったが目が自然とギュッと閉まり前が見えない。走馬灯がよぎり今までの様々なことが映像として流れていく。ああ次はちゃんと生きたかったな、そう思い意識を底のほうに閉じ込め始めた瞬間。
体が堅牢に叩きつけられる痛みはなく、何故か柔らかい感触が全身を包み込むような感覚があった。その感触が増えてゆくたびに自分のスピードが落ち行くように感じられた。そして体が完全に止まったことを感じ、目を開けるとそこには
「君はそんなに大地を愛しているのかね?」
そんなことを風斗に笑いかける腰柔らかな男性と金髪の美少女が佇んでいた。
スマホで書いてpcで直すという作業をしているのでラグがあるかもです。すみません。
ついに風斗が異世界デビューしました。