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王都グラン祭前編 1-3

本作に登場する魔法や魔法理論は雰囲気だけで楽しんでいってください。

 晴れ渡る空に響くような掛け声とともに、土煙をあげ唸る女神像。急発進し、猛スピードで先頭のゴーレムを追いかけ始める。


 乗っているならず者学級の子供たちの髪の毛をなぶる風の暴力。全員オールバックにしている様子は些か滑稽であろう。何人かの生徒を追い抜いた際に笑われている。


 およそゴーレムとは思えぬ速さで先頭にいるゴーレムに追いつき、少し先に躍り出る女神像。その様子に嘲笑う第二等級の生徒。


「何もしないでいたと思ったら最後に巨石を奪いに来たか。浅ましい作戦だなぁ。」


 そう言いながらも手で指示し周りのゴーレムは防御体制をとる。巨石を運んできたであろうひときわ大きなゴーレムの周りを、多い囲むように中ぐらいのゴーレムが立ち並んでいる。


 軽口を叩きながらも的確な指示をするあたり、さすが第二等級と言うべきか。ゴーレム同士が睨み合う形になり、広大な草原のようなフィールドには似つかわしくない雰囲気が漂い始めていた。


 沈黙を破ったのは、第二等級リーダー格の少年。


「どうする?君たちにはその変な像と小さなゴーレムしかいな...」


 嘲笑を携えた口元から言葉が言い終わる前に、ならず者学級の面々は動いていた。女神像の腕が動き、腰の周りにしがみついている小さなゴーレムを大きなゴーレムの頭部に投げ飛ばす。風圧で地面の草が撫でられ、力を入れたタイヤの部分の土は少しえぐられている。


 投げ飛ばされた無人のゴーレムは、頭部にしがみつくとプルプルと震え出し始めた。嘲笑していた生徒は慌てながら肩から逃げ出しており、周りのゴーレムの一つに飛び乗る。先ほどとはうって変わり青白い顔になり、汗がたらりと流れている。


 何やら罵詈雑言や汚い言葉を発しているが、ならず者学級の面子は何食わぬ顔でその様子を眺めており、一人の生徒は詠唱を唱え終わっていた。


 するとプルプルと震え出していた小さなゴーレムが突然発光し、ゴーレムの頭部と共に爆発する。その爆発は大きく数倍あるであろうゴーレムの上半身を完全に吹き飛ばしていた。


 その余波に当てられた数人の生徒は爆風とともに投げ出され、所有者のいなくなった近くのゴーレムは次々と土や岩に姿を戻していってしまう。


 余波を免れ残っていたゴーレムも、小さいゴーレム達により蹂躙されていた。頭を破壊されたものや体の節々を壊されたもの、術者が無理やり剥がされ棒立ちになり、砂の城が崩れるように簡単に崩されたものなど。


 その場に巨石と上半身が砕かれた巨大なゴーレムだけが残る光景になるまで数分と掛からなかった。


 その光景に満足気な笑みを携えた三姉妹長女のリリーは、後方にいる他の等級のゴーレムが自分達のいる所に来るまでまだ時間があることを確認する。


 そして残りの生徒や二人の妹に指示を飛ばすと、女神像から飛び出し恐怖に怯えて動けない第二等級の面々の前に降り立った。


 赤髪が青い草原によく映える。まるで悪魔のようなその外見に、第二等級の面々の体は完全に活動を捨て始める。


 怪我とまではいかないが直前で爆発、小さなゴーレム達に自慢のゴーレムを壊され、あまつさえ死なないといえど空中に放り出されたのだ。恐怖、屈辱、畏怖などの負の感情をこれでもかと抱え込んで地面に居る。とても立ってはいられない。


 ただ一人、リーダー格の第二等級の男だけはその瞳に宿した憎悪を、あどけなさが残る齢九歳ほどの女児に向けていた。


「怖いわね〜この光景は」


 思ってもみないことをリリーは零す。その様子に我慢ならなくなった生徒が怒気を孕んだ声で叫ぶ。


「どうして質の悪い抗議しか受けられないお前らに、質の悪い教師しか宛てがわれないお前らに俺達が負けるんだ!」


 いつしか後方から迫るゴーレムの鈍い足跡しか響かなくなったスタジアム全体にこの男の声がやけに鮮明に響いた。


 講義内容はともかく、様々なことを助力してくれたマッシー教授の言われように、憤慨するようにリリーは頬を膨らませた。


 そして呟くように、しかし嫌に聞こえるようにゆっくりと種を明かしていく。


「頭の硬いあんた達に教えてあげる。ゴーレムの生成には大きく二つの方法があるわね。直接稼働型と自律稼動型の二つ。前者は早く作れて細かい支持を出せるけど、術者が直接マナを送らないといけないわ。後者は作りためには時間がかかるけどマナが続く限りは、命令式通りのことを繰り返し、さらにマナ補給を定期的にすればほとんど半永久的に動く。」


 そんなことはとうの昔に知っていると半ば嘲笑的な笑みを浮かべる第二等級のリーダー。放心状態であった面々も少しずつ耳を傾けていた。


「この競技の性質上術者が離れることはまずないから、細かい作業が行える前者の直接稼働型のゴーレムしか居ないわ。現に今後ろから巨石を運んできている別の等級の人たちも、直接稼働型ね。」

「そんなことは知っている!お前達のような粗悪なゴーレムに、私達のゴーレムが負けるはずはない!」


 同じことを馬鹿の一つ覚えのように繰り返す生徒に一瞥冷たい視線を送り会話を再開する。


「そこをついたの。直接稼働型のゴーレムはマナ補給が無ければ殆どはすぐに使い物ならなくなってしまう。ならば術者を排除してしまえばいいんじゃないかって。」


 排除という言葉を一回りも下の、しかもあどけなさが残る少女が放つ言葉には似つかわしくなく、さらにその声色はもうただの少女ではなかった。


「っ...!」


 そのことに気づき言葉にならない言葉を発する第二等級の生徒達。いつしか全ての生徒がその言葉一つに耳を傾けていた。


「最初にみんなで作ってもらったゴーレムは前者と後者の要素を取り入れたゴーレムよ。」


 その言葉に目を点にしていく面々。


「基本は直接マナで操って、そばを離れれば詠唱ひとつで爆発する。そういう風に命令式を組み込んだ特別性よ。そのせいで小さいものしか作れないけれどね。」

「ま、待ってくれ!そんなもの無理だ!同じ体に相反する矛盾する命令式は組み込めない!」

「まぁそう思うわよね?私もそうだったし、まぁ今は混合でも作れる気がするけれどね。簡単な話よ、交わって壊れるなら交わらせないでおけばいいの。」


 言っている意味がわからないというふうに身動きひとつだって取れやしない面々。後方のゴーレムが巨石を運ぶのに難儀していることを確認し、種明かしを再開するリリー。


「まず初めに小さな自律可動式ゴーレムを作る。ある程度のマナを込めた爆弾のようなね。命令式はそうね...直接マナ供給されたら爆発〜とか、爆発に連動する〜とかなんとか。その人形の周りをさらに巨大な今度は直接稼働式のゴーレムで覆い隠すように作る。そうすればほら、交わらずに二つの性質を擬似的に持った物の完成よ。」

「た、確かにその理論で、できるはずだが、爆発したのはなんでだ。外に干渉できても中までは干渉できないはずだ!」


 いつしか口調が乱れるリーダー格。だがその質問を先に予想していたようにあっさりと答えを言うリリー。


「簡単よ、外装のゴーレムに強いマナや設定した属性の魔法を感じたらマナが宿った針を刺し抜くように命令式を組んだり、地雷式の魔法を外装に組み込んでおくの。ほらよくあるでしょ?突進型の魔物を落とし穴に落として、マナを感知したら串ざすような罠。それを流用したに過ぎないわ。」


 バッサリと切り捨てる年齢にそぐわない表現や単語に、いつしか自嘲気味な笑みを浮かべる第二等級の面々やリーダー格の生徒達。

 以前行われた冬の進級試験時にはなかった知恵やその度胸に一体どれほどの時間をかければ到達できるのか、それを彼らが知る由もない。


 そして少女がドヤ顔で話した内容や考えが全部、異世界からの来訪者の入れ知恵だということも知る由もないのだ。巨石を運び終わったであろう女神像が辿り着き、女神像にリリーが戻ろうと歩みを進めた時、またしても声が響く。


「なぜ、全部教えた!俺達がまたお前達に牙をむくかもしれないぞ?勝てなくても妨害をするかもしれ...」

「しないわよ、あんた達は。したとしてもまたねじ伏せるだけだし、もっと言うとできないわよあんた達には」


 そういうと上半身だけ壊れ、膝を軸に今にも倒れそうなゴーレムの傍に近づくリリー。


 こうなる前はしっかりと立派に構築されたゴーレムであり、直接稼働型でマナ補給がない今現在も残骸が残るくらいにはしっかりとしたゴーレムであった。


 その哀れな残骸にふと手を触れながら、静かにだがその場の全員に響く声を紡ぎ出す。


「お手本用のようなゴーレムしか作れないあんた達には、この場で作り出すことも無理だし、何より...」


 場違いにそよぐ風に、ゆらゆらとなびく赤い短髪の毛が印象に残るその少女は、自身のマナを手のひらに集中すると、手の甲に魔法陣がいくつも現れた。


 そして残骸から爆発するゴーレムを何個も作り出し、こう切り出す。


「この学院で私より人形を作る速度が早い奴なんて居ないから」


 第二等級の生徒達は初めて自身が打ちのめされた事をその身をもって実感するのだった。いつしか忙しなく轟いていた歓声や話し声はスタジアムから消え、その異様な光景に飲み込まれていた。

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