王都グラン祭前編 1-1
体育祭スタートです。
全12話にも及ぶ長いお話なので、ゆっくりとご読みください。
お付き合いの方お願い致します。
雲一つない晴れ渡る空、爛々と輝く太陽に照らされる王都グラン学院にほど近く生成された楕円形の巨大なスタジアム。
今日は王都グラン祭が開かれる日であり、近隣住民から近くの村人、更には隣国の国民までもが都市国家ルーゲンに足を運んでいた。
数十万単位の人間が楽々と入ってしまうこの巨大スタジアムは、先週のうちから王都グラン学院の教員全員が組み込んだ生成魔法で建てられており、随所には筋肉隆々の鎧に包まれた男やローブで顔を隠している男の像などの彫刻がその存在感を放っていた。
中央には様々なステージが点在されて、それを覆い囲む形で客席が配置されている。スタジアムの客席は色とりどりの髪の毛の色や多種多様な種族で埋め尽くされており、皆一応に今の時間を楽しんでいた。
さらにその多くの顧客を引き込もうと多数の出店が所狭しと存在している。その多くは移動型のテントや魔法式の組まれた移動型の売店であり、商業区から来ている店も少なくはない。
王都グラン祭が始まるまではまだ時間があり、訪れた人々は売店などの味に舌鼓を打っていた。
「すごいね!こんなに色々な種族初めて見たよ!」
目を爛々と輝かせそう言葉を弾ませる風斗。グラン祭に出場するほぼ全ての生徒などは、様々なところで時間を潰していた。
風斗も時間を潰すために色々と見て回っていたが最終的には校舎の四階、テラスのような付近で活気に充ちたスタジアム周辺を見物していた。
彼がこの異世界に来てはじめての夏を謳歌するまでに約三ヶ月の時間を過ごしていた。長いような短いような濃密な三ヶ月は風斗を全くの別人に変えていた。
元の世界で被っていた仮面はほぼ捨てられており、今は全力で新しいものや新しい知識を貪欲に、我儘に享受していた。魔法の鍛錬はもちろんのこと、武道の訓練を行い続け、鍛え抜かれた肉体は青を基調とした体操服から覗かせている。
「本当に綺麗な光景ですよね、私未だに慣れません」
隣で風斗に笑いかけながら話すリシュ。風斗が異世界に来てからは何かと一緒にいることの多い碧眼の金髪美少女。
風に靡くビロードの髪の毛を手で抑え、笑みを携える彼女と不意に視線が合う。頬が熱くなることを感じながらも二人の話はゆっくりと流れていく。
「リシュはどうしてここに?」
「校舎に入っていく風斗さんを見つけたので、つい」
「そうなんだ。そういえばスタジアムの周りにある売店に寄った?どれもこれも本当に美味しかったよ?」
その風斗の返答に少し間を起き、困ったような表情をするリシュ。
「行きたいのはやまやまなんですけれど、騒ぎになるのが少しあれでして...」
微妙に濁していることに気づいた風斗だが、リシュが昼食や普段の学校生活の見える範囲で、一人でいることが多いことを思い出し、差し障りの無いような返答をする。
元いた世界でも様々なことで迫害に似た経験もある風斗にとって、その経験を人に言うのは厳しいものがあると分かっていた。
それと同じようなことがこの世界にもあるだろうと一人で納得したのだが、その考えが的外れであることを彼が知るのはもう少しあとの話である。
ほどなくして巨大スタジアムから高らかなラッパ音ともに、花火のような魔法が上空に打ち上がった。風斗とリシュは顔を見合わせお互いが、お互いのクラスのいるところに足を運んだ。
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「ううー緊張してきたぜ〜」
「私も〜緊張〜で〜いつものように〜話せないかも〜」
「そういうリナリーはなんだか楽しそうに見えるよ? 」
巨大スタジアムのクラス待合室にて談笑をする風斗、リッケル、リー三姉妹の三女リナリーの三人。
学院に比べると小さいが豪華なシャンデリアの放つ淡い光に抱かれながらソファーなどで他のクラスメイトも各々が談笑をしているが、皆一律に緊張を隠せないでいた。
王都グラン祭は三日間の間に開催、さらに四日間に渡って行われる後夜祭などイベントが目白押しになっている。
その間に学院の生徒の保護者が見に来る。全員が一度は開催されている競技に出るため、第五等級のならず者たち以外にも緊張している生徒は大量にいた。
「王都グラン祭は初めてたけど競技の数が凄いね!112個もあるだなんて!」
三日間に渡り行われる体育祭なので、競技の数も多く設定されていた。
「そ、そうなんですよ。自分の名前を探すだけでも、ひ、一苦労で」
リリー三姉妹の次女のマリーも加わり、話が加速していく。
「実際僕もだいぶ探したよ。出る競技は三つだけだったけどね。」
クラス単位で行われる競技はほぼ無いに等しい。人数が多く、またばらつきもある為というのが理由である。
そのため生徒一人一人を無作為に競技に選んで三日間に渡り消化するという。最低三つ、最高で九つの競技に参加ができる。
参加競技の数も出る競技もランダムなので生徒はグラン祭前に配られる競技一覧を血なまこになって探していた。
「なんだか僕も緊張してきたよ」
そう風斗が言うと同時に昼時の収集の時と同じラッパ音が聞こえた。生徒入場の合図だ。各々が緊張を抱えながら、待合室を出て会場の入口付近で整列をこなす。
目先では会場の盛り上がる声が否応なく耳に響いてくる。その声達にいっそう身を凍らせるが、時間は待ってはくれない。
ほぼ全員、先頭にいるマッシー教授でさえ足を笑わせている始末。第四等級の生徒達が全員の名前を呼ばれスタジアム中央の広場に出場を果たすと、第五等級の面々も一人一人呼ばれ出した。
緊張ながらも歩みを進める生徒達。風斗も生徒なのだが一回り年齢が上なだけに微笑ましい気持ちになってしまう。風斗の名前が最後に呼ばれたが気を抜いていたために足を動かすのが遅れてしまった。
小走りのまま入場口を出るとそこは、紛れもなく異世界であった。
風斗が居た入場口の空気と会場の空気は全く別物であり、息をしようとすると肺が焼け付くような暑さでヒリヒリと痺れ出す。だが自分を取り囲む客席からの視線が身の芯をつくような寒気さを感じさせるが、会場の熱気と相まって不思議な感覚に陥らせる。
太鼓の中に居るような会場のざわめきにとめどなく体は強ばってしまう。やっとの事でみんなの居る広場に整列し直すと、荘厳な声が会場全体に響き出す。
スタジアムの先端、高台のような玉座に座っている初老の男性。白髪の長髪をなびかせ、ゆったりとしたローブに身を包んだ体は細く、今にも折れてしまいそうな雰囲気だ。
「ここにおいでくださった生徒の大切な方々。近隣住民の方々、隣国の国民の皆さん。本日は私の国の祭りごとに足を運んで下さり感謝を致します。」
ゆっくりと話すその言葉一つ一つに感謝の念が込められているようで、会場全体が魅入られている。風斗もそのひとりだ。
「今日この日のために私たちの生徒は肉体や精神を鍛え上げてまいりました。ぜひ今日その成果をこのスタジアムで存分にふるって欲しいと考えております。ではここまでをルーゲンの現国王、私エクスゼキナーの言葉とさせていただきます。」
先程までの爆音な話し声や歓声はどこへ行ったのかと思うほど皆静まり返って聞いている。
「そしてここからは、国王としてではなく一人の男としての言葉となります。」
そう高らかに宣言すると次第にエクスゼキナー国王の体がミシミシとローブを破きながら巨大化していく。
数秒もしないうちに筋骨隆々の初老の強大な男が現れた。二メートルほどの強大な肉体。四肢につけられている銀製のブレスレットがその肉体を押さえ込んでいるような印象を受ける。
いつの間にか赤いマントを羽織っており、先程までのか弱い初老の男性の姿はどこにもいなかった。その男は横に置いてあった身の丈と同じぐらいの大剣を天に向けながらその怒気を飛ばす。
「己の成長を信じ、切磋琢磨してきた我らが戦士達よ!その力を今宵の祭りごとで存分に見せつけろ!大事なものを、大切なものを守る力を今ここに居る観客達に見せつけろ!私は今ここに宣言する!王都グラン祭、開始だ!」
そう覇気を纏った言葉を放ち終わると持っていた大剣で目の前にある酒樽を叩き割った。それと同時に会場全体が震えるほど、大気が割れるほど盛り上がりを見せる。
国王は仁王立ちしながら酒ダルに溜まっていた酒を飲み干すと何やら指示を出し始める。未だ熱を帯びたようなクラスメイトを見ながら風斗は国王の指の動きを観察眼で見ていた。
するとその指の動きのように茶色いローブを来た複数人の人間が会場を蛇のように動き、客席の人間、生徒が皆見えるステージに集まる。ステージ上では椅子に座った楽団の人間が楽器を持って準備をしていた。
何やら綺麗な魔法を帯びた楽器のようである。奏者の一人が綺麗な音を響かせた後、バイオリンの強い音が聞こえ、会場はそのままその音に魅入られ始める。
そして音の動きとともに十五人の茶色いローブの人間が舞うように踊り始めた。
徐々に音が盛り上がるにつれ、その挙動一つ一つも激しいものへと変わっていく。音が最大の盛り上がりを見せたその瞬間茶色いローブが空へ舞う。そして一人を中心として広がっていたVの字型の先頭の人間が現れた。
「リシュ...?」
疑問で放たれた言葉は瞬く間に会場の声でかき消された。
「「「キャーーーーー!!!リシュ様ーーー!!!」」」
そう黄色い声援で。男も女も、子どもも老人も同じく、とんでもなく真っ黄色なその声援
太陽の光を反射する綺麗な黄金色の長髪。神の創造物とさえ思ってしまう綺麗なスタイル。その最高の結果にかけるように効果を上乗せするかのように整った顔。
先頭でゆっくりと舞の形を踊っているのは紛れもなくリシュであった。だが風斗の知っているリシュとはかけ離れているところがあった。
「すごい、、、冷たい、寂しそうな顔」
風斗の第一印象は笑顔の似合う美少女であった。現に彼女が風斗といる時には笑顔を絶やさなかったし、表情も豊かであった。しかし今の彼女にその面影は一切なく、増え続ける彼女に対する賛美の声とは裏腹に冷たい冷めきった目や顔で踊りを披露していた。
彼女が手のひらから出す炎の蝶のような物や、多くの魔法の創造物で会場は盛り上がる一方だった。生徒が自由に見やすいところまで移動しているのを見計らい、リッケルに話に行く風斗。
「ねぇリッケル。これはなんの踊り?」
「何ってグラン祭の催し物のひとつで、毎年第一等級が行っている踊りだぜ。これを見るために隣国から来るやつもいるぐらい人気なんだ!」
解説はするが一切横にいる風斗に顔を向ける気配がないリッケル。目が釘付けとはこのことを言うのだろうと、風斗は一人考えた。その間にも流麗な音楽とともに、流れるような踊り、煌びやかな魔法が会場を華やかに着飾っていく。
その様子に風斗も心を踊らせるが、つい先程までは笑顔で談笑をしていたこともあり、一切表情の変えないリシュばかりに目がいってしまう。黄色い歓声は未だ止む気配はなく、生徒の中では興奮のあまり鼻血を出して、救護班に搬送される生徒も見られた。主に女生徒で。
騒ぎになるってこうゆうことだったんだなぁと、自分の勘違いに気づく風斗であった。
時間が遅れてしまいましたすみません。
次の話で体育祭は終わる予定ですが文字数がめちゃくちゃ長くなりそうです。
しくりました。次回の更新まで頑張ります。よろしくお願いします。




