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獅子王と太陽の姫  作者: 咲良
第1章
9/18

守るべきもの3

 そうして、少しずつ移動し、イル族の仲間たちのもとに降り立つ。


 エストリア兵がこちらに向かってきていたが、シュトラールの兵たちがその前に立ちふさがり、彼らを牽制してくれた。


「姫様!!」

「アンナさん!」


 村人たちが次々に駆け寄ってきた。


「姉さんをお願い。」


 私が抱いていた彼女を受け取り、数人が後ろに下がっていく。それと入れ違いに、杖を突いた老人が前に進み出て、私を囲んでいた人々が道を開けた。


「姫様、他の者たちはどこに?」


 しわがれた声。こちらを見つめる目は白く濁っていたが、不思議と老いを感じさせない強さがあった。


「森の端にいる。持っていった食事に『シルイの戯れ』が混入されていたようで、身動きが取れなくなっていたんだ。エストリアと戦闘をしたが、シュトラール軍が助けに来てくれ、今頃は『ミルハ』を飲んでいる頃だろう。」


 私は、仲間がいるであろう方向の森に目を向け、次いで周りにいるシュトラール軍を見た。


「ヘルゲ。私たちがいなくなった後、何があったのか教えてくれ。」


 名を呼ばれた老人は、軽く頭を垂れながら、ここに至るまでの出来事を報告した。


「姫様たちが村を出発した後、村人の何人かが痺れを訴え出しました。徐々にその数が増え、その原因が『シルイ』であることに気づき、すぐに中和薬を調合しました。その頃、すでに約半数の村人が動けなくなっておりました。被害が拡大する恐れがあったので、中和薬を村人分作り、全員が接種した頃には、すでに日が暮れておりました。無事だった者たちで倒れた者を看病し、姫様たちのお帰りを待っていたのですが・・・。」


 その後、西側の森からやってきたエストリア兵が村に火を放ち、家から出てきた民たちを捕まえていったということだった。途中、先に帰らせた連絡係が村の状況に気づき、私たちのもとへ戻ろうとしたらしいがすぐに捕まり、抵抗しようとした者たちは気絶させられたらしい。

 帰ってくるのがもう少し遅かったら、きっと彼らはここにはいなかっただろう。間に合った幸運を心から噛みしめた。


 そうして、ヘルゲと状況確認をしていると、馬を村人に預け、レリオが近づいてきた。


「お前が長だったのか。」


 彼は、交渉するために長を探していた。まさかこんなに近くにいるとは思わず、色が変化した髪と瞳に驚いているようだった。


「私は長ではない。イル族の長は、あなたが言っていたようにエルが務めている。だから、シュトラールとの交渉ができるのも彼だけ。」


 その言葉に、彼は怪訝そうな顔をした。


「だが、その鮮やかなオレンジの髪と緑の瞳は長の証だろう? その『色』を持って生まれてくるのは、百年に一人生まれるかどうかだと聞いている。」


 そう、百年に一人生まれれば良い方。昔は数十年に一人の割合で生まれていたが、血が薄くなってきたのか、その特徴を持つものが少なくなってきた。

 どうやら彼は、『イル族の長』について一般の民以上の知識があるようだった。その知識があるからこそ、私の言葉に納得できないのだろう。


「確かに、『そう』よ。けれど、『今』は違う。今代のイル族には、その『色』を持つ者が2人生まれた。それが、私とエル。エルは私より1つ上で男だったから、彼が長を務めることになったの。」



 本当に、イル族の歴史を見ても稀なことだった。

 同時期に、『色』を持つものが2人。

 それが一体どんな意味を持つのか。


 私には想像もつかなかったが、『色』を持つ者としてエルの補佐をし、不在の際には任された権限の中で民を導いた。


 長ではなくとも、実質的に、私はイル族のナンバー2の地位にいた。



 ・・・そこまでを彼らに伝えるつもりはないが。



「納得してもらえた?」

「・・・まあ、ひとまずは。」


 『色』持ちが2人ということに驚きつつも、彼は頷いた。


「じゃあ、肝心の長はどこだ?」

「彼は、今ここにいない。・・・昨日、他のイル族の集落を見に、村を出たの。村が襲われたことも、きっとまだ知らない。」


 イル族の村は、ここ以外にもいくつか存在する。最初は固まって暮らしていたが、長い歴史の中で周辺国や環境が変化し、各地に分かれて暮らすようになった。もちろん、集落ごとに代表がいるが、イル族全てを総べるのは長の役割だ。何かあれば長の意見を伺うために各地から代表が集まり、何もなければ年に1度、長が各地を回って様子を見ていく。そうやって、私たちは均衡を保ちながら暮らしていた。


イル族は、どこかの国に属すつもりはありません。

そのため、他の村もシュトラールやエストリアの周辺に位置しています。


この時代、明確な国境線はなく、「だいたいこの辺りまでが~の国」という認識です。

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