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獅子王と太陽の姫  作者: 咲良
第1章
8/18

守るべきもの2

残酷描写ありです。

苦手な方はご注意ください。

 村の中心部に向かって歩く。


 髪を覆っていた頭布は長時間の馬での移動に崩れ、視界の妨げになっていたので剥ぎ取った。


 胸の前を覆っていた革製の防具も、身軽に動くためには邪魔になるので脱ぎ捨てる。袖に近づくにつれて広くなっていく紅色の上衣は目の前で燃え盛る炎の色を受けて、より一層鮮やかに揺れていた。


 先ほどまではブラウンだった髪も今は本来の色を取り戻し、月光を受けてその姿を顕わにしていた。おそらく瞳の色も元に戻っているだろう。川に着いたとき、念のために『フール』の根を口にしていて良かった。でなければ、抑制された状態で敵を打ち据えなければならなかったのだから。


 ある一点を見つめて私は進んだ。


 そして、シュトラール兵とイル族の動向に注意が向いていたエストリア兵の一人が、細身の剣を手に近づいてくる存在にとうとう気付いた。


「いたぞ!! 長だ!!」


 その声を聞きつけて、こう着状態にあった全員が視線をこちらに向ける。

 レリオは唖然としたようにこちらを見ていた。


 それも仕方のないことだろう。


 私が出てきたのは、先ほどまで彼といたところだ。今私が身に着けているものも、『セシーリア』と同じ。頭衣と防具がなくなっただけなのだ。その彼が、私が『誰』なのかということに気付かないはずがなかった。

 そして、その考えを肯定するかのように、村人たちが口々に叫ぶ。


「姫様・・・!」

「セシーねえさま!!」

「姉さま、助けてっ!」


 胸の前で手を握り、皆がこちらを見つめていた。子どもたちは目に涙を浮かべ、私の方に必死に手を伸ばしていた。


 私は彼らに向かって微笑み、上体を前に傾けて駆け出した。



 エストリア兵がこちらに向かって集まってくる。シュトラール兵と剣を交えていた者も、相手の隙をついてそれに加わっていた。彼らにとって、私がもつ『色』はそれだけの価値があるのだろう。


 愚かな姿に、口の端が微かに吊り上った。



 許しはしない。

 私の大切なものに手を出したのだから・・・!!




 シュトラール兵と相対し、右手の剣を閃かせる。正面にいた兵は崩れ落ち、その背後から2人の兵が剣を振り上げた。


 けれど、それが私に当たることはない。


 本来の力を取り戻した私にとって、彼らの動きは遅かった。


 瞬間的に身体を低くし、屈んだ状態で剣を横なぎに払った。即座に対応できなかった2人は、足を切られ、唸りながらその場に跪く。

 私は周りを囲む者たちの動きを的確に把握し、その合間をぬって駆け抜けながら、すれ違う敵に太刀を浴びせていった。



 視界に赤が飛び散ろうとも構いはしない。


 耳触りな悲鳴があがろうとも、手心を加えることはない。



 向かってくる敵を容赦なく打ち据え、とうとう私は目的の場所にたどり着いた。

 目の前には、先ほどの女性を抱いた兵が一人立っている。素早く間合いに入り込み、相手の腹に剣を食い込ませ、腕の力が緩んだことを見計らって女性を奪い返す。そして、剣を引き抜き、数歩下がって、力強く跳躍した。




 私が今いるのは、屋根の上。右手には血にまみれた剣を持ち、左手で女性の身体を支える。女性の頬は腫れていたが、それ以外の外傷は見られなかった。エストリア兵に殴られた時の衝撃で、気を失ってしまったのだろう。風に髪を揺らめかせ、腕の中に納まった存在の無事に心から安堵した。


 彼女を抱え直し、後ろを振り返る。


 眼下にはエストリア兵が集まり、少し離れた所からレリオ達と他の村人たちがこちらを見上げていた。彼らの顔に浮かぶのは、驚愕と期待。イル族の仲間は、女性の身柄が確保されたことを喜び、エストリアとシュトラールの兵たちは尋常でないその動きに圧倒されていた。




「私の民に手を出したな?」


 私の口からこぼれ出た小さな声は、しんと静まり返ったこの空間に響き渡った。


「シュトラールが、これほど卑劣なことを行うとは思わなかった。・・・まさか、私たちを『狩ろう』とするとはな。」


 誰も彼もが動きを止め、視線を逸らせずにいた。私はゆっくりと見渡し、敵の表情を観察した。

 彼らは自らの行いに後悔は抱いていないようだった。「国の為」と思っているのだろう。自国の民ではないイル族に情などかけないということか。



 ならば、こちらとてそれに応えるまで。



「覚悟は・・・良いな?」


 私の言葉を聞き、彼らの顔が強張る。何人かは剣を構え、迎え撃つ姿勢に切り替えた。


 その様を眺め、私は一歩踏み出す。屋根を蹴り、彼らの中心へ飛び降りた。


 予想以上の飛距離に彼らの頬が引きつった。けれど、相手は人を一人抱えている。先ほどのようには動けないだろうとばかりに、一斉に襲いかかってきた。



 その判断のなんと甘いこと。



「くすっ。」


 冷笑が漏れる。


 私は左腕の『彼女』を懐に庇いつつ、近づいてきた敵の腕を切りつけていく。なんということはない。剣を握れなくしてしまえばいいのだ。振り上げた腕の筋と、足の健を狙う。

 近くにいた敵の力を削ぎ、開いた空間を狙って私は再び跳躍した。


 

彼女にとって守るべきものは、イル族の民。

彼らを害そうとするものは全力で排除します。

また、それが可能なだけの『強さ』が彼女にはあり、他のイル族とは一線を画している。

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