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獅子王と太陽の姫  作者: 咲良
第1章
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思わぬ援軍2

 レリオは、彼らがここに来るまでのことを教えてくれた。


 その中で最も嬉しかったのは、エストリア兵と交戦中の仲間を守ってくれたことだ。やはり彼らも『シルイの戯れ』によって、避けるのがやっとという状況だったようで、何人かはすでに奴らに拘束されていた。止めを刺すのではなく、どこかへ連れて行こうとしていたことから、捕虜にするのが目的だったと推測される。

 ちょうどそこへレリオたちが現れたため、みんなはシュトラールとエストリアが手を組んでイル族を陥れたと誤解し、威嚇したらしい。けれど、シュトラール軍がエストリアに向かって剣を振り上げ、仲間を救出してくれたので、援軍であることがわかり、勘違いを謝罪をしたとのことだった。


 毒に犯されて動けなくなったみんなは、今は森の端にいる。エストリア軍はシュトラール軍を見て、戦力不足を悟り、撤退したそうだ。しかし、いつ戻ってくるとも知れず、動けないみんなだけを置いておくわけにもいかなかったので、様子を見るために2小隊を残してきてくれたらしい。

 彼らが来てくれなかったら大切な仲間を失っていたことだろう。私はその話を聞いて心から安堵し、シュトラール軍に感謝の意を述べた。



「では、この後は村へ?」


 レリオは、エストリアの進軍のコースを予想し最短経路を進んでいたので、村の様子は知らないと言う。彼らのおかげで仲間は無事だったのだが、同時に村にも兵を向かわせておいてほしかったと思ってしまった。


「ああ。我々の目的は、『エストリアからイル族を守る』こと。村も守る対象だ。エストリア兵がいれば戦うし、いなければ森の端にいるイル族を村まで運ぼう。その為に、君には村への案内を頼みたい。」


 レリオのそばに控えている副隊長らしき人が頷く。正直、このタイミングでの援軍は本当にありがたい。しかし・・・。


「あなたたちの狙いは何?」


「・・・何のことだ?」


 レリオは訝しそうに問う。私の言いたいことが伝わらなかったようなので、改めて尋ねた。


「エストリアに敵対してまで、イル族を守ることにした理由は何かと聞いている。長らくイル族はシュトラールと友好的な付き合いをしてきたが、私たちは『村』で、向こうは『国』。純粋に考えれば、どちらにつくべきかは明らかだ。それにもかかわらず、私たちに味方しているということは、何らかの要求があるとみるのが当然だろう。」


 当然の考え方だ。規模も影響力も桁違いなのだから。エストリアにつけば、これまで必要最低限しか交易を行わず、あまり友好的とは言い難かった関係も確実に緩和されるだろう。反対に、イル族につけば、エストリアに敵対することとなり、今まで以上に険悪な関係となる。イル族との関係が深まるとしても、それに見合うだけの対価がなければ割に合わない。

 シュトラールの真意を読み取ろうと、私は目の前にいる2人の表情に注目した。すると。


「ははっ。さすがにイル族の娘は賢いな。先ほど出会ったラーシュとかいう男と同じことを言うとは。」


 どうやらラーシュも同じことを思ったようだ。ただで助けに来るわけがないと。

 そして、笑いを収めたレリオはそれまでの穏やかな雰囲気を消し去り、威圧するような目を私に向けていた。


「その通り。これは国益を考えた外交だ。だから、ただの村人であるお前に言うつもりはない。」


 先ほどまでの『君』呼びから『お前』になった。これが彼の素か。ただの村娘だと思ったから、懐柔するために優しく接していたのだろう。


「我々が用があるのは、イル族の長であるエイナル・ブローム・フェーブスだ。シュトラールとの戦いを指揮するために森の端にいるかと思ったが、『長はここにはいない。交渉をするなら村へ行け。』とあの男が言ったので、こちらに向かったというわけだ。」


 「本当なら、交渉してから村を守るかどうかを決めるはずだったんだがな。」とつぶやく彼に、シュトラールの要求がそれなりに大きなものであったことが覗えた。やはり大国。ここぞという時を見誤るような失態はしない。エルがいなかったのは、ある意味好都合だったのかもしれないな。交渉をするために、シュトラールは必然的に村の守りをすることになったのだから。

 エルがそこにいなかったことは、彼らも一目でわかったのだろう。なんといっても、彼の容姿は目立つ。ブラウンの髪にブルーの瞳が当たり前のイル族において、エルはオレンジの髪にグリーンの瞳をしていた。イル族においても特に優れた身体をもつ者の特徴だ。だからこそ、彼は17歳という若さで長を務めている。特徴的な色をもつ者が生まれた場合、その者が長を務めるのがイル族の中での慣習となっていたからだ。


「わかった。では、村までの案内をしよう。」


「そうしてくれ。」


「じゃあ、さっそくで悪いが・・・。」


 話がひと段落したところで、限界がきたようだ。ついに足の感覚がなくなり、膝から地面にくずおれてしまった。腕で受け身を取ることもできない。その様子に驚いたレリオはすぐさま駆け寄り、上体を支えるようにして起こしてくれた。


「『シルイの戯れ』のせいで、体に力が入らないんだ。この先の川に中和薬の草が生えているから、そこまで連れて行ってほしい。」


「その状態で俺たちと話をしてたのか? 確かにさっき助けた男たちも『シルイ』のせいで動けないようだったが、お前はまっすぐに立っているし・・・。具合が悪そうには見えたが、腕の傷のせいかと思っていたよ。」


 呆れたように言う彼に、そばに立っていた男も同意を示した。


「じゃあ、さっそく移動しよう。村のことも気にかかるしな。グイド、俺の馬を連れてきてくれ。」


 前半は私に向けて、後半はそばに立っていた副隊長らしき男に呼びかけた。




 すぐさま出立の用意が調い、私はレリオの馬に乗せられた。普段なら一人で馬を駆ることができるが、今は指を動かすこともできなかったので、レリオは私を横抱きにし、落とさないよう注意を払いながら馬を走らせていた。


 近くで見ると、レリオは意外と整った顔をしていた。夜のせいで瞳や髪の色はわからないが、祖国ではモテていたのかもしてない。初対面の時の柔らかな物腰からは女性に慣れているような印象を受けた。今回の緊急の出兵とイル族との交渉を任されたことと言い、どのような地位にいる人間なのか・・・。



 そんなことを考えているうちに、目的の川に到着した。私を抱えながらレリオは器用に馬から下りる。そして、他の兵たちに松明で川を照らすよう指示し、私の言葉を頼りに『ミルハ』を探してくれた。

 この場所には覚えがあったので、すぐに『ミルハ』は見つかった。それと同時に、もう一つ草を採取する。『シルイの戯れ』とは別に、私にはこちらも摂取する必要があったのだ。


 シュトラールの兵たちは、『シルイの戯れ』の中和薬の材料など知らなかったようで、私がこの2つを求めたことに疑問を抱かなかった。そして、「汁が滲み出すまで葉を揉んでほしい」という私の願いの通りに動き、水と一緒に飲ませてくれた。

 完全な中和薬にするためにはほかの材料も必要だったが、今はそんなことも言ってられなかったので、通常は『ミルハ』の葉を2枚使うところを今回は3枚使い、即効性を優先した。後々表れるであろう副作用は、村に戻ってから対処する。もう一つの草は、きれいに洗った根を細かくちぎり、水と一緒に飲み込んだ。


 森の端で同じ症状を訴えている仲間のために、2種類の草を何本も採取し、レリオの指示によって1小隊が馬を走らせていった。もう1つの草は彼らには必要のないものなのだが、それを説明する気はなかったので、それが届けられるであろう仲間に任せることにする。


 そうこうしているうちに指の感覚が少し戻ってきた。この分なら、村に着く頃には、一人で動けるようになっているだろう。

 


 その後、再び馬に乗り、私たちは馬に向かった。


 暗い森の中、駆け抜ける馬の足音だけが耳に届いた。徐々に木々の間隔が広くなり、月明かりによって周囲が見渡せるようになった。

 身体はだいぶ動くようになり、私は鞍をつかんで暗い森を見つめていた。まだ支えを必要としていたが、だいぶ姿勢を固定できるようになったので、レリオが馬の速度を上げた。



 そうして半刻ほど走った時、はるか向こうの前方に小さな光が見えた。おそらく村の明かりだろう。レリオは徐々に速度を落とし、村に気付かれないように近づいていく。

 向こうに見える明かりも徐々に大きくなっていき・・・。


 安堵すると同時に、疑問を感じた。


 どうして光が赤みを帯びていくのか。


 焦燥に駆られ、ゆっくり歩く馬から飛び下りた。レリオの制止する声に構わず、動けるようになった足で必死に村に駆け寄る。


 そして、村まであと10歩というところで私が目にしたのは・・・。



 燃え盛る炎に包まれた家と、エストリア兵に拘束されていく村人たちの姿だった。

ここにくるまでに思った以上の時間がかかってしまいました。

次からはペースアップしていきたいと思います。


次話は、残酷描写が入ります。

苦手な方は、ご遠慮ください。

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