急襲3
少々、残酷描写ありです。
エストリア兵の一人の刃が、左腕を掠めた。
本来ならば避けきれるはずの攻撃にも対応することができず、私は焦りを感じていた。
このまま戦闘が長引けば、こちらが負けるだろう。今はまだ、動けなくなった者はおらず、相手を牽制することができているが、それも時間の問題。身体は重く、息は上がり、徐々に痺れが増している。動けなくなったとき、私たちが強いられるのは拘束か、死か。
いずれにしろ、私たちに『退く』という選択肢はない。
先に剣を抜いたのは彼らだ。つまり明確な意図をもって私たちに向かってきている。
タイミングから考えても、原因不明の痺れは、彼らの仕業だろう。騎兵隊を囮にし、何らかの方法で私たちに『毒』を盛った。そして、身体の自由が利かなくなってきた段階で仕掛けてきたのだ。例え逃げたとしても、村が狙われるだけである。
それが分かっているので、私たちは必死に反撃した。
剣を受け流しつつ、相手の腕の筋を切る。仲間を狙う者には背後から迫り、振り向く前に刃を振り下ろした。卑怯かどうかなど問題ではない。そうしなければ、こちらが負ける。
そもそも、理由を明らかにせず、仕掛けてきたのはエストリアだ。
礼儀を尽くしてやる必要など無いだろう。
それにしても・・・。
なんだろう、この奇妙な出兵は。
囮を用意し、背後から襲ってきたにしては規模が小さい。
もちろん、私たちの倍以上の数の兵はいるが・・・。
エストリアは大国なのだ。
兵の数も桁外れのはず。
本気なら、もっと規模の大きなものにして決着を早めることができる。
それにもかかわらず、何とか優勢を保てるという人数しか送ってきていない。
この意味は一体・・・。
そこまで考えて、ふと恐ろしい予感がした。
ここにいる兵が全てでないとしたら・・・。
この戦闘すら囮なのだとしたら・・・。
すっと頭が冷えた。
向き合っていた相手の呼吸を読み、左へ一閃。相手が一歩下がるのを見越して踏み込み、防具の繋ぎ目がある肩を貫く。
剣を抜く際、悲鳴と血しぶきが上がったが、それを無視して敵の囲みを抜けた。
「ラーシュ!! 私は村へ行く!」
後ろを振り返りながら叫ぶと、「はい!」という返事が聞こえた。それと同時に、何人かのエストリア兵が追いかけてきた。
木々の死角を利用しながら、1人、また1人と切り捨てる。
痺れは、どんどんひどくなる。
けれど、それを上回る怒りと恐れが私の体を突き動かした。
切られた上腕部をきつく縛って止血し、村を目指して私は全力で森を駆けた。
回想はここで終了。
そして、〈急襲1〉につながります。