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草風~クサカゼ~  作者: 祥雲
ヴァレンティア王国首都レイトにて。
7/11

コロセウムとコロッセオの違いってなんだっけ?

 コロセウムは沸きに沸いていた。





 仕切り直しの一戦。強者であるはずの騎士、その中でも国の王を守る盾である精鋭、近衛騎士の一人が、うら若き小娘に翻弄されているのである。





 厳しい訓練で磨き抜かれた剣技が、最早試合の度合いを越す鋭さで繰り出される。しかし彼女はそれを、ほぼ身のこなしのみで易々と避けていた。




 そしてその剣戟の合間合間に少女の一対のショートソードは抜き放たれ、時にいなし、時に曲芸の如く派手な大技を繰り出す。




 速く、高く。クルリと宙返りを決め、わざわざ相手に背中を向け、笑顔で観客に拍手を求める。すかさず振り下ろされる重撃を怯える仕草でひょいとかわし、業腹の騎士の横でホッと胸をなで下ろしてみせる。








 試合、試験としては最悪の態度だが、祭り好きの民衆には大受けである。





 あからさまに素人丸出しの装備と重装備の鎧の騎士の対比も相まって、試合はさながら喜劇のような様相をみせていて。試合様の(ナマクラ)とは言え、剣を抜きはなった戦いには似つかわしくない笑いがあちこから沸き上がる。





 この舞台の道化師(ピエロ)にされてしまった相手役の騎士の内心は穏やかでない。気高き騎士の誇りを鼻で笑う振る舞いに、彼を見守る仲間も苦い顔である。






 しかしゴルタスを一撃で屠り、これほどの余裕を持って立ち回るシェイに為す術はなく。シェイにトドメをさされるまで「やられ役」に徹するほか、どうすることもできなかったのであった。














「ーーーよくもまぁやってくれたものだな、シェイド・リアリム」




「お褒めの御言葉、誠に有り難き幸せ」




「褒めてなどおらぬわ小娘が!」





 試験終了後。王国騎士団の団長室に怒号が響く。怒鳴ったのは副団長であり、その場に居合わせた団長その他数人の感想を代弁したと言ってよいだろう。




 怒鳴られたシェイは反射的にピクリと体を震わせたが、その表情はにこやかで。




「ならばなんの御用でしょう?その小娘に負けた騎士を“盾”の一つとする、誇り高き王国騎士団副団長サマ?」




 真っ正面からぶつけられた毒は、強烈だった。





「ぶ、無礼な!女がそのような口をきいていいと思っているのか!」



「私が女だと卑下する度に御自身の騎士団の格も下がると理解できないんですか?それ程のガチガチ頭なら石すら叩き壊せそうですね~」



「女など男に大人しく守られておればよいのだ!それをわざわざ刃をむけおって!」



「試験を受けさせるって判断をしたのはアナタ方でしょ?ムチャクチャなこと言ってる自覚あります?それが分からない程耄碌してるとか?随分恥曝しな人がいるものです。驚きました」




「ーーーーーーーー!」







「落ち着けファル。彼女も大概だがお前も暴論が過ぎる」



 にわかに剣に手を掛ける騎士達を目で制し、騎士団長が口を開く。




「さて、シェイド君。君が今日行ったことが我々にとっては甚だ許し難い行為だった、という事は理解できるかな?」




「さぁて、馬鹿でマヌケな小娘ちゃんにはよく分かりませんね」




「君はあれほどの立ち回りを見せ、なおかつ余力を残している。それは驚嘆すべき事実で、現状の我々には望外の幸運だ。



 しかし同時に、我々を侮辱した行為でもある。何故君は全力を出さなかった?見せ物にするように試合を長引かせたのかな?」




 騎士団長は若く、少し着飾れば女性に見えるほどに美男子だった。



 しかしながらその圧力(プレッシャー)、がなりたてていた副団長と比べるべくもなく。





「私は初めにお相手した騎士サマの振る舞いを踏襲しただけですよ?


如何にも実力差がある相手には遊んであげるのがアナタ方流じゃないんですか?」




 それに対し無反応に返事をするこの女、豪胆か愚鈍か。




「それについては謝罪しよう。


しかし勘違いしないで欲しい。あくまであれは祭りの一環で、実力の伴わない者も多くいる。それを一振りで叩き潰すのは面白くないだろうし、交流を深めるという目標に合わない」




「ん、私と同じ理由ですね~。というか、女を卑下するアナタ方には、私が一撃で倒した方が面白くなかったんじゃないですか?」




「試合を見る限り、君は強い。しかし近衛騎士を一撃で倒せるとは思えなかったのも事実。真剣に打ち合えば君の実力も公衆に知れたことだろうし、我々も納得して迎えいれただろう。



もう一度問う。何故君は本気で戦わず、騎士の誇りを踏みにじった?」




 騎士の誇り。シェイはそれを聞いて少し顔をしかめたが、一切の気負いもなく返答した。





「理由はカンタン。私が騎士になるためです」




「ふむ、どういうことかな?」




「男尊女卑のこの国で女が騎士になるのは生半可なことじゃありません。幾ら技量があろうとも、『騎士の誇り』なるよく分からないモノによって阻まれる。



 ちょっと調べましたがあの試験、真剣に騎士を目指す女性にはいつも手を抜いて、観衆にもわかるくらうワザとらしく勝たせてましたよね?


そしてその上で不合格にする。抗議してもどこ吹く風、『次の試験で努力せよ』。この繰り返し。


技量を示させず嘲笑う。随分いい性格してますね?」





 形のいい眉根がピクリと動く。その横で、髭面の副団長は滝のような汗をかいていて。




「…………ファル。試験の相手役の騎士はお前に決めさせていたよな?」



「は、はっ!しかし私は何も!」



「後で監査が入る。心しておけ。




 さて、君の話が本当かはおいおい分かるだろう。しかし、理由は騎士になるためだけではないだろう?」




「あとは意趣返しだけですよ。なかなか腐った組織になり始めてますよ、王国騎士団団長、ニコラス・アンドラ様?」




「忠告と捉えておこう。感謝する、シェイド・リアリム。



そしてその腐った組織に君を招き入れたいのだが……宜しいかな?」





「謹んでお受けさせて頂きます、団長サマ。



ーー我が剣は、民のために」




「我等の盾は、王の為に。




ーーシェイド・リアリム。君をヴァレンティア王国騎士団の騎士に任命する!」

タイトルは割とテキトーです。あしからず。

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