女騎士萌えって要するにギャップ萌えだよね。
「名をなんと言う!」
「はっ!シェイド・リアリムと申します!」
「何故騎士にならんとする!」
「国のため、王のためにっ!この身を捧げるためですっ!」
「……しかし、貴様は女だ!女は男に比べ、力に劣るっ!それでもお前は戦い勝てるのか、リアリム!」
「必要とあらば一昼夜、千の軍勢にも怯まずっ!全身全霊を掛け戦い抜いてみせましょう!」
「よく言った!ならばその覚悟、みせてみよ!」
水の月二の日。
ヴァレンティア王国は、平和であった。
長き戦いはまだ終わらない。しかし数年前、敵対しているフンディス帝国と停戦条約を結んだために、一時的な平穏が約束されたのである。
そして王都レイト。美麗な王城がそびえ立ち、華やかな発展をし続ける、ヴァレンティアの中枢。
その街で今、奇妙な事件が発生していた―――
「ではこれより!騎士認定試験を執り行う!」
歓声が鳴り響くコロセウム。観客席には民衆がひしめき、試験の開始を待ちわびていた。
騎士試験。それは国王を守る剣を選ぶ大切な儀であり、この街の名物の一つでもある。
この試験内容は至ってシンプルであり、難関。
色々と制約はあるが、端的に言うと現役の騎士に対し決闘を挑み、勝たなければならないのである。
「団長、今年は有望なのはいるかね?」
「さぁ、どうでしょうね。面白そうな者はいましたが」
「あぁ、もしかしてあの女騎士殿かな?確かに珍しいし、あの発言には少し……驚いたよ」
「私もです。
あぁ、今からみたいですよ。ほら―――」
「第一士、シェイド・リアリム!前へ!」
件の少女、影の名の示す通り、黒髪黒目の騎士志望者が、今コロセウムに立った所だった。
「冷やかしなら止めといた方がいいぜお嬢さん。俺ぁ他の奴らみたく手加減しないクチだからな」
「お気遣いありがとうございます騎士様。そして典型的なやられ役のセリフありがとうございます騎士様」
「……あんだと?」
「いや~、なんかですね?あまりにもモブ臭が凄いので。いやホント、踏み台になって下さりありがとーございます!」
「このアマ……殺すぞ?」
「きゃーこわーいー。ハゲでムキムキのおっさんが襲ってくるー。誰かー消臭スプレー持ってきてー」
「このっ……!」
さんざバカにされたゴルタス――相手役の騎士――は、スキンヘッドの頭に青筋をたてて一閃、小生意気な小娘をたたき伏せようと大剣を振るった。
この試験の参加者は真剣な者もいるし、祭の出し物感覚な者もいる。
いや、実際祭なのだ。様々な参加者と騎士が闘い、罵りあい、笑いあい、合否を決する。民と騎士が親睦を深め、新しき騎士の実力をその目に見せつけると言う目的もある。
さて、シェイドと名乗る少女。彼女は傍目からみれば明確におふざけの参加者だった。
皮鎧に安い鉄の剣。皮のブーツに纏めた長髪。騎士の真似事をした美しい少女。そんな貧相な装備で高らかに騎士をバカにしたのである。民衆も大笑いで、観戦する騎士達すら苦笑い。祭の余興、劇か何かにしか見えなかったのである。
当然ゴルタスも本気ではない。その余興にのり、悪役を勤めているだけ。このままだったなら少女は善戦し、ギリギリでゴルタスを倒すだろう。大仰な演技と共に。
そう、このままだったなら。
「……かっ……」
一瞬の交錯。ゴルタスは倒れ、黒髪が揺れる。
「早すぎるぞゴルタスーーー!」
「自慢の大剣術はどうしたーーー!」
「ひさびさの女で高ぶって落ちやがったのかーーー!」
一斉にブーイングする観客達。劇にしても余興にしても、早すぎる。そしてゴルタスが起き上がるのは―――遅過ぎる。
「―――おい」
「見えたよ。あの子、強いね」
「……審判官様」
「……なんだ?」
「なんか弱すぎてアレなので……もう一戦しませんか?」
小首を傾げる仕草と共に放った言葉がコロセウムにいた者全てを唖然とさせたのは、言うまでもないことである。