拝啓、勇者御一行様。
試し投稿。この先投稿するか未定なのでご了承下さい<(_ _)>
「人類の敵め!覚悟しろ!」
黄金色の鎧を纏った青年は宣言した。後ろに控える若草色のローブの女性と黒くて大きな帽子が特徴的な女性も、各々が臨戦態勢に。
弓矢一閃、首を捻って避ける。後ろに生えたであろうアンテナを見もせず。
俺は、目の前の男を睥睨した。
「勇者様、ここは私が!
切り裂け!『ウインドカッター』!」
所謂魔女帽子の少女が杖を横薙に振るう。ブオン、と不自然に響いた風鳴りとともに、淡い緑のナニカが俺に向かって飛来する。
「シェイ」
「は~い!『マジックキャンセル』!」
「……え?」
ナニカは俺に届かない。代わりに表れたのは、黒髪の少女。
レザーメイルにレザーブーツ、レザーグローブ等、初心者装備の彼女は、耳の炎のイヤリングを煌めかせ、俺にニコリと笑みを向ける。
「カミサマ、久々だねぇ!元気だった~?」
「ぶっちゃけ来たくない。むしろ帰宅したい」
「ちょ~暗い、暗いよ!気合い入れていこ~!」
「くっ……マリッサ!」
「承知!」
不意に飛び出した黒服のアサシン。小太刀とクナイを携え、一直線に俺達に向かって特攻する。
「『ファイヤエンチャント』!」
「『ブラッディスラッシュ』!」
クナイが燃え上がり、赤黒い軌跡を残して黒髪の少女――シェイに向かっていく。勢いをそのままに、アサシンは俺に肉迫し、
「なぁ、バイト代とかねぇの?」
「う~ん……私の身体?」
「要らない。切実に」
「ちょ、それは言い過ぎ!謝罪を要求する!」
「ま、マリッサぁぁぁぁぁぁぁあ!」
ローブの女性が叫ぶ。アサシンはピクリとも動かない。シェイはクナイを手の中で弄びながら、きゃいきゃいと華やかに笑う。
「メリア、落ち着いて!早く治療を!」
「で、でも」
「早く!まだ間に合うわ!」
「っ!……『ヒール』!」
「『マジックキャンセル』」
「ま、また!」
「神聖魔法すら消すの!?」
「勇者様!早くしなければマリッサが!」
「も~カミサマのいけず~ホントは欲しいクセに~」
「出来れば現金欲しい。十万くらい」
「ツッコミ放棄しないで頼むから!ねぇ!」
「よし、任せろ!ユリ、メリア!支援頼む!」
「どうか……間に合って!」
金色の男はこれまた金色の剣を抜刀する。目一杯の自信と誇りをもって勇ましく、仲間を救うために。正義の為に。
「――顔がニヤけちゃってるのが残念だな」
「どっからどうみてもゲス男ですねありがとうございます」
「くらえ!『スラッシュライトニ「『マジックキャンセル』」
「うわ、ゲス。お前の方がゲス」
「だって面倒くさいんだモン!」
「可愛いこぶるな、なんかコワい。何かがコワい」
「どういう意味ですか!」
「くっ!『グラビディク「『マジックキャンセル』」
「『ナイツト「『マジックキャンセル』!」
「『タイガーフィ「『マジックキャンセル』!」
「……『メラゾー「『マジックキャンセル』ぅぅぅぅぅぅう!」
「うん、最後のは妨害して正解」
「てへ?」
「くっそチートかよ!じゃあ女から!」
「きゃーこわーい」
「おんなのこをおそうなんて、なんてくずなんだ!」
「こわいわこわいわかみさま、どうかおたすけくださいまし!」
「十万ください」
「ちょwwwww」
「マリッサから離れろぉぉぉぉ!」
「「だが断る」」
「ハモってんじゃねぇぇぇぇえ!」
叫ぶ“勇者”は、シェイを切り刻まんと目に痛い金色の大剣を振るう。しかしシェイは武器も抜かず、踊るようにしながら笑う。
「うっわイケメン!でもチャラチャラしてる!」
「お手本みたい過ぎてなんかあれだな、キメェ」
「でもちょっとあれだわ、うん、なんだっけ」
「リア充?」
「「爆発せよ」」
「お前ら何だ!?日本人か!?いや日本人だろ絶対!?」
「「ナ、ナンダッテー!」」
「だからハモってんじゃねぇぇぇぇえ!」
「てか実際どうなの?素手の女の子に剣振るう気分って。興奮する?」
「うるせぇ!」
「成る程、こんな絶壁は女の子じゃないと……」
「生爪剥がすぞ」
「ゴメンナサイ」
「……なんなんだよ……なんなんだよ!真面目にやれよお前ら!敵だろ!」
勇者は怒鳴った。後衛の二人は最早見守ることしか出来ず、なんとなく弛緩した空気が漂っていた。が、
「……え?いいの?」
急激に緊張感が場を満たす。相変わらず俺とシェイは抜刀しない。しかし、シェイの無邪気な問い返しに含まれるのはただ、威圧。
「カミサマ、どうします?先方はそう言ってますよ?」
「ん。じゃ、やりますかね」
抜刀。西洋剣でなく日本刀。青黒く波打つ刃紋、刃先に沿って走る赤い刻。
友人に向かっていく際のように、無造作に歩みよる。勇者は金色の剣を構えるが、動かない。
いや、否。
「あ、あ……」
動けない。足は小鹿のようだ。顎はせわしなくカチカチ鳴る。しかし視線は俺の刀から離れない。
「ぶ、『ブレイブハー「『マジックキャンセル』」
魔術師の魔法は無効。
「『聖なる障「『マジックキャンセル』」
神官の保護も無効。
「ほ、ほほほ『ホーリースラ「『マジックキャンセル』」
自身の特技も無効。
「くそ、なんなんだよ!ズルだろそんなの!」
物理攻撃。
「じゃあ普通に攻撃したらいいじゃねぇか」
「言われなくてもっ……!」
オリハルコンの剣破壊。
「へ?」
オリハルコンの鎧破壊。
「ちょっ、まっ……」
ドラゴンスレイヤー破壊。
オリハルコンのレギンス破壊。
知恵の加護破壊。
右目破壊。
勇者の証破壊。
インベントリ破壊。
神の加護破壊。
左手破壊。
メニュー破壊。
魔術師『ユリ』破壊。
神官『メリア』破壊。
アサシン『アリッサ』破壊。
ゴールド破壊。
右腕破壊。
臀部破壊。
肋骨破壊。
左足破壊。
右肺破壊。
背骨破壊。
肝臓破壊。
右脳破壊。
左足親指破壊。
頭蓋骨破壊。
勇者『伊藤斗真』――――破壊。
勢いでやった、後悔はちょっとある。