5.劇的アフター
井橋先生が認識されたわけでなく・・・コーディネート効果です(苦笑)
ああ、ヒドイ目にあった。あの後、俺は3時間ほど着せ替え人形のように服をとっかえひっかえされ・・・ヨロヨロになったところで解放された。
結局、おねにーさんの推すコーディネート一式と久馬の推すコーディネート一式、両方を購入した。うん、決められなかったんです。
でも、結構値引きしてくれたんだよなー。今後ともご贔屓に~ってことで。まぁ、服は当分買わなくていいかと思ったけど・・・美容室だけでもってことでメンバーズカードも作った。
―――っていうか、作らされた・・・。押し強いよ、おねにーさん・・・。
そして、今日はおねにーさんのコーディネートで全身を包んで出勤した。だって、そうしろって久馬が言うから・・・。う、俺って、押しに弱いよなぁ・・・。
「おはようございます・・・」
ガラリ、といつものように職員室のドアを開けると、いつもと違ってものすごい視線を感じた。
え?・・・ええ??
な、なんかガン見されてる!?
「おはようございます・・・新しく来られた先生ですか?申し訳ありませんが、理事長や校長からはなにも聞いておりませんで・・・」
なんて、声をかけて来たのは淋代園教頭。・・・そう、名字でお分かりいただけるだろうが、養護教諭の淋代園先生の旦那様だ。
っていうか、新しく来られた先生って・・・俺だって認識されてない!?
「あ・・・あの・・・」
「アナタ、何言ってんのよ。井橋先生じゃないの」
あ、奥さん登場・・・こっちは俺だって気付いたみたいだ。まぁ、結構お世話になってるもんなぁ・・・。そもそもイメチェンも奥さんの提案だし・・・。
「は!?・・・い、井橋先生?」
あー、イメチェンしたんですねー、じゃなくて。別人にとられるとは・・・俺ってどんだけ影薄いんだろうか・・・。
「はい、井橋です・・・その・・・そんなに別人に、見えますか?」
「あ、いえ、よく見れば井橋先生だ・・・いやぁ、服装もちょっと垢抜けましたし、髪型も少しさっぱりしていたので、気付きませんでしたよ・・・申し訳ありませんでしたね」
今までとは全く違う意味で気付かれなかったらしい。うーん、ちょっとしたイメチェンのつもりが・・・わ、悪目立ちしてしまった・・・がっくし。
「あ・・・いえ、自分でもそこまで変わっているとは思っていなかったんですが・・・今までが今までなので・・・」
存在を認識されないよりはマシ!そう思うことにしよう・・・。
「まぁ、似合ってるわよ」
「確かに、井橋先生にはこういう格好の方が似合いますよ」
あー、やっぱり今までのはダメだったのか・・・。いくら認識されないからって手を抜き過ぎだったのかなぁ・・・それで余計に認識されなかったとか?うわー・・・悪循環・・・。
「あ、はは・・・これからは頑張ります・・・」
やっぱり、おねにーさんに普段着とかも相談しよう・・・なんか、もう、クローゼットのものを全部入れ替えるくらいの気持ちじゃないと、ダメかもしんない。
そのうち、服装の効果だけじゃなくて認識されるように頑張らなきゃ・・・!
「じゃあ、朝の打ち合わせ始まりますから」
「あ、そうですね。もう8時だ・・・」
教頭に言われて俺は自分の席に着く。ちらっと御門先生の方へ視線を向けてみると、呆けた様子でこちらを見ていた。―――だ、大丈夫かな?打ち合わせ、始まるんだけどな・・・?
8時を知らせるチャイムが鳴り始め、先生方が立って朝の挨拶をすると、御門先生はようやく我に返って遅れて立ち上がって挨拶をしていた。
具合でも悪いのかな?・・・でも、俺には声をかける勇気が、まだ、ない。