22.同じ苗字になったら
本日一気に最終話までUPです。21話からお読みください。
なんとか完結までこぎつけました。ここまでお付き合いくださいましてありがとうございます。
その後、店を出た後にふとブティックのイケメンオネェ店長さんが言っていた言葉を思い出して、隣を歩く井橋先生の裾をちょん、と引っ張った。
「あの・・・井橋先生?」
「・・・っ、あ、はい、何ですか?」
ん?井橋先生の顔が赤い?なんで?
私が首を傾げると、井橋先生は口元に手をやって私から視線を逸らした。
「・・・御門先生、それ、素でやってますよね?」
「・・・はい?」
「・・・いえ、裾を引っ張ったり、上目づかいで首傾げたり・・・」
「――ふぉあ!!?」
我ながらあざとい!あざとすぎる!!何、フツーにそんなコトやってんのぉおお!?
キツめの顔の私がやっても似合わないってー!!
「ふふ・・・で、何か質問があったんですよね?すみません、話の腰を折ってしまって」
「い、いいぇええ・・・あの、今の、忘れて・・・」
「すみません。心のフォトブックに記録しました」
ぎゃああああ!!何ソレ!何ソレぇ!!
「あ、あああ、あの・・・」
「ああ、イタリア人の友人が、恋人にそう言うと喜ぶって・・・あれ?違うんでしょうか?」
い、イタリア・・・!一気に国際色豊かに!!
っていうか井橋先生、それは騙されて・・・っていうか、面白がられてるんじゃ・・・!?
「無茶苦茶キザですよ・・・それ」
「ええ、バックパッカー時代の友人なんですが・・・とってもキザなんです。女の子と見ればすぐに手を握って口説いて・・・」
そう言う井橋先生の視線が遠くを見つめ始めたので、私はもう一度、今度は裾じゃなくて手を引っ張った。
「い、井橋先生」
「あ、ああ、すみません・・・つい。で、何か、聞きたかったんです、よね?」
そう確認してくる井橋先生の視線が微妙に下を向いていて・・・って!そうだ!手を繋ぎっぱなし!!
慌てて放そうとすると、逆に握り込まれる。
「あの・・・」
「お、お付き合い、してるんですし・・・」
「・・・あ、そ、そうです、ね」
は、恥ずかしすぎる!!
「で?」
「あ、あのですね、イケ、て、店長さんが言ってた、必要に迫られてって・・・あれ、どういう意味なんですか?私、未だにわかってなくて・・・」
危ない危ない。イケメンオネェって言いそうになっちゃった。
「あ・・・えと、それは・・・」
言いよどんで、ボッと瞬間湯沸かし器のごとく湯気が出そうなほど真っ赤になる井橋先生。
ええっ、そ、そんなにすごいこと言われた様には思えなかったんだけど・・・?
「それは・・・?」
ごくり、と息を呑みこんで、私は次の衝撃に備えた。
「苗字呼びに不都合ができたら・・・ってことです・・・」
「苗字呼びに・・・不都合・・・?」
ごめんなさい、井橋先生・・・全くわからない!!
私がまだ意味を捉え兼ねているのに気づいた井橋先生はフゥと息を吐く。
うう、呆れられちゃったかしら?
「・・・コレ言うの、心の準備がいるんですけど・・・」
「え、ええっ?」
な、何?何なの?心の準備?
「・・・だからですね、その、お、同じ苗字になったら・・・呼ぶのにこ、困るじゃないですか・・・」
・・・お、同じ苗字・・・!!!
今わかった。ものすごくわかった。重いって思われたくなくて、無意識にそっち方面を考えないようにしてたから・・・まったく念頭になかった!!!
「こ、困り、ますね・・・お、同じ苗字になったら・・・」
「そうなったら・・・な、名前で呼んで良いですか?」
そうなったらって・・・そうなったらって!!!
「あ、えと・・・」
「――あ、すみません。やり直します。こんな道端でする話じゃないですよね」
私の照れからくる戸惑いをためらいと勘違いしたのか、井橋先生が慌てて撤回した。それを残念だと思う自分がいる。でも。どうせなら。
「そのイタリア人のご友人に、やり方、きいてみたらどうですか?・・・私、結構キザなの好きですよ」
なにせ、暗黒同好会曰く『白馬に乗った王子様募集中』だし。
「――!あ、が、頑張ります!!」
が、頑張られちゃうらしい。どんなイタリア仕込みの突拍子もないプロポーズが来るかちょっと今から楽しみかもしれない。
そして、同じ苗字になったら。その時は、お互いに名前で呼び合おう。
それまでは苗字呼びなままで良い。それが私達らしさだと思うから。




