2.影の薄い男
カロリー学院・養護教諭3名出そろいました。
第一保健室→福園美都(看護師免許有・養護教諭)
第二保健室→淋代園貴香子(医師免許有[耳鼻咽喉科・内科]・養護教諭)
第三保健室→参之瀬毅(医師免許有[外科]・養護教諭)
保健の先生は、サポートキャラです。
――side 景之
俺は影が薄い。・・・どれくらい薄いかっていうと、廊下ですれ違っても認識されないくらい薄い。・・・いや、生徒の何人かは気付いてくれるし、先生方もよくよく気をつけてくれていて、大切な会議とかには出欠をちゃんととってくれている。
俺の担当教科は地理だから旅行も好きだし、現地の人々と直接ふれあいたいから語学も身につけて、大体の主用語は通訳なしで話せる。
そして猫が好きだ。ついでに植物を育てるのも好きだ。だから園芸部顧問なんていうのも引きうけている。・・・まぁ、俺に気付いてくれる生徒は園芸部の中でもほんの数人なんだけど。
とまぁ、自己紹介はこれくらいにしておいて・・・俺には最近、気になる人がいる。数学科の御門先生だ。
明るくて、美人で・・・生徒達からも懐かれていて。ちょっと猪突猛進なところはあるけど、そこが可愛いというか・・・。
俺のことはどう思っているのかわからない。席が近いから職員室でもすれ違ったりするんだけど、意識してないと気付かないみたいだし・・・やっぱり、どうでも良いってことなんだろうか。
思い切って話しかけてみようか。・・・でも、気付かれなかったらショックで立ち直れないかもしれない・・・。
御門先生が気になるようになったきっかけは、たまたま家庭部が活動している調理室を通りかかった時のことだった。
――回想――
「しーちゃんさぁ、最近よく来るよねー・・・婚活?」
「その通りよ。“主夫”を育成するなら“主婦”も育成できるでしょ?」
そんな話し声に、つい足を止めた。
そういえばこの間、最首先生の女子力?にダウンしていた気がする。だからか、と少し興味がわいて見ていたら、御門先生と話していた羽部がとんでもないことを言い出した。
「それならさー、いっそのこと最首せんせーと結婚しちゃえばー?すでに主夫だし」
その言葉を聞いた瞬間、ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚がして、苦しくなった。
「なっ・・・何をいきなりっ・・・」
ああ、御門先生もまんざらでもないのか、なんて思ったら、喉の奥が熱くなって・・・。
でも。
「何を言う!!俺が結婚したら、誰が冬芽の面倒をみるんだよ!!」
「え!そっち優先!?」
羽部、同意見だよ。そっち優先なの!?最首先生!恋愛より男の友情をとるの!?・・・ある意味すごいけど、それって在原先生がいつまでも自立できなくて、良くないんじゃ・・・。
とか考えながらも、どこかホッとしている自分がいて。
もしかしてと思うまでもなく、俺は御門先生が気になっているんだ、と自覚した。
――回想終了――
始めから気になっていたわけじゃないとは思う。席が近いから視界に入るし、気の強そうな感じとか、裏表の少ない所とか・・・たぶん、俺の好みのタイプなんだろう。だからつい目で追ってしまっていたんだ。
そして、今日はまだ御門先生を職員室でしか見ていない。まぁ、担当学年は一緒だけど、教科が違うし、あんまり関わりがないし。こっちは影薄いし。う・・・自分で言ってて傷ついたかも・・・。
なんてうだうだ考えながら第一保健室の前を通りかかった時だった。
「くっ・・・なんで女子大なんて選んだのよ!私!こうなったら合コンかお見合いパーティーに行くしかないわ!!」
その叫びは凄まじい言葉の刃となって、俺の胸を貫いた。
え、え?・・・い、今のって御門先生の声・・・?っていうか、合コン!?お見合い!?
その後も何か話しているようなんだけど、どうも聞き取れないくらいの声で話している。どうしよう、すっごく気になるんだけど!!
またも、つい、俺はドアが開きっぱなしの第一保健室の出入口(裏手)から中の様子を窺っ――た瞬間、福園美都先生と視線がバッチリ合ってしまった。・・・あ、御門先生は背中がこっちを向いてるから気付いてないみたいだ。
「あー・・・そうねぇ・・・せめて視界には入れてあげて・・・本当に」
え、視界って・・・え、もしかして、俺の話???
「わざとじゃないのよ!ただ、こう、視界に入ってこないっていうか、影薄いっていうか・・・」
ドスゥッ!!
うう、視界に入ってないって・・・やっぱり、俺の話だよね・・・?む、胸が痛い・・・。
「詩織先生・・・少し猪突猛進なところがあるし、もう少しゆっくりと周りを見てみて?素敵な出会いがあるかもしれないわよ?」
福園先生・・・懸命なフォロー、ありがとうございます・・・っていうか、ちらちらこっちを見ないでください・・・今、撃沈中なんで、御門先生に気付かれたくないです・・・。
「んー・・・そうしてみる。あ、お仕事中にごめんなさい」
あぁ、御門先生が帰るのか・・・っていうか、福園先生がうまく誘導して俺がいる反対側の出入り口から出て行った。
ちょっと、立ち直るのに時間がかかりそう・・・。
「井橋先生・・・」
福園先生が苦笑しつつ俺の傍にしゃがみこんだ。
「あ、あれ・・・俺の話、してました、か?」
「そうですね・・・すみません。ほら、正神君のTシャツの」
「ああ・・・あれですか・・・いや、まさに的確なツッコミで・・・」
“俺はここにいます…”とか、ホント、的確で・・・ぐすん。
「い、井橋先生、そんなに落ち込まずに・・・ね?ほら、詩織先生だって全く気付いてないわけじゃないですから!」
「・・・そう、ですね・・・ハ、ハハハ・・・」
俺を認識できている人達の間では、俺が御門先生のことを熱い視線で見ているっていうのがバレバレだそうで・・・。
この間は、品川翼先生――体育科・生徒指導の先生で俺の猫友――にも、ものすっごい同情したような顔で、ポンって肩叩かれた・・・。
あぁ、どうしたら良いのかな・・・このままじゃ、御門先生、合コンとかお見合いパーティーとか行って、素敵な人とか見つけちゃうのかな・・・?
「あ、井橋先生?・・・大丈夫、顔色悪いわ?」
「大丈夫です・・・あの、ホント、平気なんで・・・」
どんよりとしたまま俺は職員室に帰ることにする。・・・ああ、なんで俺ってこう・・・どんどんネガティブな思考になってきている。
きっと、マンガやアニメならきのこでも生えそうな勢いでジメジメしてたと思う。
だからだろうか。いつになく俺には存在感があったらしい。いつもはろくに認識すらしてくれない人が、俺のことを呼び止めた。
「―――ん、井橋先生じゃない?めっずらしい、存在感があるわよ?」
―――淋代園先生・・・今、残り少ないHPがガリガリと削られた感じです・・・。