18.怒涛(どとう)の告白
――side 詩織
私、また意地を張ってしまった。言った瞬間に後悔して、チラリと井橋先生を見れば、諦めたような表情で苦笑いをうかべている。
その瞬間に思ったのは、あんな顔をさせたままじゃダメだってこと。
だって、井橋先生は何も悪くないのに、私がいつまでも意地を張って答えを出さないままでいるなんて、あんまりにも失礼だ。
「私、井橋先生の顔、好きです!」
「えっ!?」
「性格も優しくて好きです!好きなブランド一緒です!バックパッカーだったなんて、一緒に旅行する時頼りになりそうだなって妄想しました!!!」
「え、ええっ!?」
「突然男らしいのも結構好きです!猫好きなのも、園芸部で活動してる時の真剣な表情も好きです!!背が高いのも好きです!スタイル良くて、カッコいい洋服とか着せがいがありそうで好きです!!」
「うぇええ!?」
ああ、こう挙げてみると、私って本当に井橋先生が好きなんだ。同情とかじゃない・・・バッチリ、私の好み。
ほんっとに、何を悩んでたんだろう?好きなら好きで良いじゃないか。
「私・・・井橋先生が、好きです・・・」
「・・・・・・あ、はい・・・俺も、御門先生が好きです。お付き合いしてください」
「はいっ・・・はいっ!!」
井橋先生がもう一度告白をしてくれて、私は勢いよく、何度も首を縦に振った。
「おー・・・やっとまとまった。・・・マジ、面倒な人達だなぁ・・・」
「「!?」」
井橋先生の背後――おっきくて私からは見えないのよ~!――から、久馬くんの声が聞こえて・・・。
って、いやぁあああ!!私のこっ恥ずかしい告白がっ、生徒にっ、き、ききき、聞かれた!?
「きゅ、久馬?!」
井橋先生の声もひっくり返ってる。当たり前だ!なんで当然のようにそこにいて、私達がくっついた感想なんぞ述べてんだ!!
「はーい、毎度どーも。お2人のキューピッドの久馬でーす。とりあえずー・・・報告の義務があるのでー、一部始終聞かせてもらいましたー」
報告!!?
「どこに!?」
「つか、誰によ!!?」
久馬くんの聞き捨てならないセリフに、井橋先生と2人でツッコミを入れる。
「えー、貴華子先生とー・・・理事長」
「はぁっ!?・・・理事長!?なんで!?どうして!!?」
「えー、結人から聞いたんじゃん?面白いことになってる、とかなんとか」
結人って・・・正神結人かっ!!暗黒皇帝め!大人しくしてるかと思ったら、叔父にネタ提供とか!!信じらんないっ!
いや、職場恋愛禁止じゃないし、知らされても良いけどさ!あの愉快犯な理事長に知られたら、何を言われるか!!
「正神かぁ・・・だったらしょうがないのかなぁ・・・」
「ちょ、井橋先生?!」
「いや・・・聞いた話じゃ、俺、学校内で居場所把握されちゃってるんですよ。携帯の電波を拾うとか何とか・・・カロリー暗黒のメンバーは皆持ってるみたいですよ」
「うっそ・・・信じらんないっ」
「あー、うんうん、それ、ホント。ついでに、生徒会も持ってるよ。智宏に聞いたもん」
「ああ・・・生徒会長と幼馴染だもんねぇ・・・って、生徒会も!?」
「しーちゃん、芸人並の反応ありがとー。ちょー面白い」
あはは、と笑う久馬くんが恨めしい!!
「暗黒は何となくわかるんだけど・・・生徒会も?」
井橋先生がすごく不思議そうに首を傾げる。
そうよねー、生徒会はイイ子達ばっかりだもん。クセはあるけど。
「うん、だって、ほら・・・この学校広いじゃん?」
ああ、なんとなくわかった・・・ほら、放送が届かないトコまで敷地だから・・・。
生徒会顧問の久馬先生なんてヘルシーに行ってることもあるし・・・爆発音がヘルシーから聞こえてきた日には確実にあっちに行ってる。
「あ、言っとくけど、壮輔兄ィの捜索の為だけじゃないから。校内の治安維持に役立ててるんだって。風紀委員っていうのないからね、うち」
そうなのよねー・・・他の学校には生活委員とか風紀委員とか何らかの委員があるはずなのに、うちの学校ってその仕事は全部生徒会の仕事なのよねぇ・・・。
「作れば良いのに・・・」
ポツリと私がもらすと、久馬くんが苦笑いした。
「暗黒が公然と学校を牛耳ってんのに、風紀がまともに活動できると?」
考えること数秒。
「すみませんでした・・・風紀、無理ッ・・・!」
そうだよ、風紀無理だよ!暗黒に潰されるっっ!!
「っていうか、暗黒が風紀委員みたいなものだと思うんだけど・・・」
「―――井橋先生って、大物だよね・・・」
ああ、久馬くんが本気で呆れてる。
うん、大物だよ、井橋先生・・・暗黒が風紀委員って・・・まぁ、余所の勢力から攻撃を受けたら暗黒が護ってくれるらしいけど、それって風紀を守るため・・・とは言い難いと思うし。
「そーかなぁ・・・?」
そんな無自覚天然なトコも好きだなぁ・・・。
はっ!なんか、恋愛脳になってる?!ちょ、井橋先生がキラキラしてるように見えるとか、末期か!?
ガッと頭を抱えてウンウンと唸り始めた私を心配してオロオロする井橋先生。
そして、なんとなく事情を察したらしく冷やかに見つめてくる久馬くん。
どうしよう!今更ながらに恥ずかしくなってきたんだけど!何、あの告白!恥ずかしすぎて井橋先生の顔を見られないよぅっ!!




