表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

15.後押し


――side 詩織


 翌日の早朝、私は1人で中庭のベンチに座って昨日のことを思い返していた。


 だって、眠れないし、早く起きちゃうしで・・・寮だと目敏(めざと)い女性職員にバレちゃいそうだったんだもん。


「―――ど、どうしよう・・・」


 初めて告白された。すごく嬉しい。それに、私の好みバッチリで、性格だってちょっとネガティブな所はあるけど優しい。


 井橋先生じゃなかったら、考えさせてくれなんて言わずに即OKって言ってた。


 別に井橋先生が嫌なわけじゃない。むしろ、ここ最近に限っては雲の上の人のような状態で・・・認識する努力すら放棄(ほうき)していた私で良いのかと思ってしまう。


 でも、井橋先生が好きなのは私で・・・。


「うわぁ~・・・」


 思わず頭を抱えた時、背中をポン、と叩かれた。


「1人で賑やかだねー、しーちゃん。さっきから百面相で何してんのー?」


 ニッコリと笑ってそう訊いてきたのは、2年の久馬くんだった。


「あ、や・・・コレはね、その」


「うん、井橋先生に告白されて大混乱中なんだよね?」


 な・ぜ・し・っ・て・い・る!?


「きゅ、久馬くん・・・!?」


「えへ?」


 笑って誤魔化すつもりだろうが、そうはいかない。


「―――吐きなさい、誰から聞いたの!?」


「チッ―――あんま動揺しないんだ。からかいがいがないなぁ・・・」


 し、舌打ちした・・・良家のおぼっちゃまが!!舌打ち!!―――ドSな浮気性とか言われる久馬くんらしいけど・・・。


 まぁ、本人(いわ)く、浮気性じゃなくて運命の相手を探していたんだとか。


 確かに今は彼女1人しか相手はいないみたいだし、大事にしているようだけど。


「からかわれるのは本意じゃないの、ホントに誰に聞いたのよ」


「えー、貴華子(たかこ)先生」


 な、淋代園(りんだいえん)先生!?・・・まさかの人物なんですけど!!


 確かにあの時、告白される直前まではいたけど・・・でも、さっそうとどっかに行ってたよね!?なんで知ってるの?!まさか、見られてた?


「どうして、淋代園先生が・・・」


「井橋先生のことすっごく心配してたんだよー。“鬱陶しいから”なんて言ってたけど、影は薄いわ、好きな人には存在すら認識されてないわで、井橋先生ってば結構落ち込んでたし、メンタル面の管理も養護教諭のお仕事だからねー」


 落ち込んでた・・・やっぱり、そうなんだ・・・私、徹底的に無視してたような状態じゃない・・・酷いよねその扱い。私が同じ立場だったらすごい嫌だ。


「そう・・・」


 どうしよう。でも、そんな理由でお断りするのも酷くない?だって、それでも好きって言ってくれてるのに。


 井橋先生のことは好きになれると思う。でも罪悪感の方が強くて・・・そんなお付き合いでも、本当に良いのかなって悩むのだ。


「あのさー、何かごちゃごちゃ考えてるみたいだけど、井橋先生が嫌いなの?」


「そんなわけないでしょ!もろ、私の好みのタイプよ!・・・だから悩んでるんじゃないの!!」


「じゃあ、たなぼたラッキーって思って付き合っちゃいなよ、その方がお互いに幸せだと思う。2人とも色々考えすぎ、好きなら好き。それでいいじゃん」


 ぐぅ、至言(しげん)ね。―――生徒に説教されるとか・・・今までまともに恋愛してこなかったツケがこんなところで・・・。


 まぁ、恋愛なんて単純明快に好きか嫌いかでするもんだもんね・・・中には違う人もいるみたいだけど・・・そんなのは特殊な例だ。


 いつか、この罪悪感も消えるはず。なら、好きだと思える人とお付き合いする分には、何の問題もない―――たぶん。


 しかし―――。


「他人事なのにそんなに熱心になって・・・久馬くんって、恋のキューピッドでも目指してるの?」


「井橋先生にも言ったけど違うってば!!!ただ単に、井橋先生がこれ以上落ち込むのは嫌なの!猫友だし!!―――俺は友達を大切にしたい(たち)なの!!」


「そ、そう、ご、ごめん・・・」


 年齢とか立場とか関係なく、友達って思ってるのね―・・・なんかすごいわ。友達を大切にするとか・・・見習わなくちゃ。


「第一、このままごねてると、井橋先生を気に入ってる暗黒の面々が動くかもよ?・・・そうなっても、俺知らないからね!」


「ええ!ソレは嫌!!」


 あ、暗黒に動かれたら、なんか、とんでもない方向に行きそう!


「だったら、さっさとOKの返事してきなよ?じゃないと、俺、暗黒に動くように言っちゃうかも・・・」


 (なか)(おど)されるようにして私は頷いた。


「わ、わかったわよ・・・」


 でも、なんで早朝に久馬くんは中庭にいたんだろ?そう訊ねる前に、答えは判明した。


「にゃーん・・・」


「おー、サニー。おはよ~」


「あ、猫・・・?」


「うん、最近、学院内に出没しててさ・・・クラブハウスの方に連れて行こうと思って人気のないこの時間に来て餌付けしてんの。やっと慣れてきたんだよねー」


 そう言って餌の煮干しで誘って、ひょいっと猫を捕まえる久馬くん。・・・すでに餌付けは成功しているらしい。


「サニーっていうの?その猫」


「うん。正式名はまだ決まってないから、仮称だけど・・・目玉焼きみたいじゃない?この柄」


 白地の背中にワンポイントオレンジっぽい黄色の斑。確かに目玉焼きだ・・・。


「・・・それでサニー・・・」


「単純だけどねー、井橋先生がここで見つけたんだよ」


「あ、そっか・・・ここって園芸部の」


「そ、活動場所だから。・・・しーちゃんがいるとは思わなかったけど・・・ねぇ、井橋先生のこと、よろしくね?」


「う・・・うん」


 久馬くんって・・・井橋先生の保護者みたい・・・って、フツー逆じゃない!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ