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12.きっかけのスライディング

いつもありがとうございまーす


――side 景之(かげゆき)



「はぁあああ・・・・」


 周りを取り囲むにゃんこ達に(いや)されつつ、ふか~い溜息を吐く。


 もう、なんて言ったら良いんだろう。180度環境が変わった?いや、環境というか、自分が変わったから周りも変わった・・・。


 俺、自分の影の薄さはもうどうしようもないって思っていて、すっかり諦めていた。


 人は変われる。努力次第で。・・・とはいえ、周りの変化について行くのでやっとやっとな俺は、御門先生とすれ違いまくっていた。


「・・・やっと認識されたと思ったのに、話しかける時間がないとか・・・」


 生徒達が、先生方が、やっと認識できるようになったと喜んでくれているのは嬉しい。でも・・・俺がイメチェンをしようと思ったのは。


「しーちゃんって、あんなに鈍感だったかなぁ・・・」


「久馬・・・」


「普通気付くもんじゃない?影の薄かった頃と違って、ここまで存在感が出た井橋先生に見つめられてたら」


「う・・・」


 それはそうなんだけど、つまりは興味がないってことなんじゃないかな、と思うんだけど。


「ほら、先生、落ち込まない!藤吾(とうご)先生も言ってたっしょ?しーちゃんの好みのタイプは先生みたいな人だって」


「みたいな人、であって・・・俺じゃなくても・・・」


「うあー、ネガティブ来た~・・・ダメ!ネガティブ禁止!はい、この子抱いて!」


 ぐい、と久馬に押しつけられたのは茶トラの仔猫。里親募集中のため名前はまだない。


 その柔らかくて温かな感触にほんわかとした気分になる。あー・・・可愛い・・・。


 ふにゃり、と表情が緩むと久馬が苦笑する。


「え、なに?」


「いつも困ったような顔してるから、さ・・・そんなに気張らなくても、誰も先生のこといじめたりしないよ?」


 ああ、そう見えるのか。


 ここ最近、急に自分が変わったことによる周りの目がすごく気になる。常に緊張していて気が休まらない。つまり、全く余裕がない状態が続いてる。


「いじめられるとか思ってるわけじゃないんだけど・・・でも、まぁ・・・緊張はしてたかな・・・」


「まぁ、いきなり注目されたもんねー」


 認識はされたいけど、注目されたいわけじゃないからなぁ。


「だからと言って、前のように存在感を消したいわけじゃないんだろう?」


 傍で大人にゃんこをブラッシングしていた品川先生がふと顔をあげて訊いてくる。


「うー・・・うん、まぁ、そうだね」


 そこまで極端にしたいわけじゃない。それは確かだ。


「僕は・・・今の井橋先生で良いと思うなー・・・正直言って探すの楽だし」


 そんな感想を言ってくれたのは正神弟。そうか、探すの大変だったんだな、今まで。―――うん、ごめん。


洸平(こうへい)はGPS持ってるらしいけどね。井橋先生用の」


 久馬、洸平って誰・・・あ、千田(ちだ)か!暗黒の!・・・って、GPS!?俺用の!!?


「ど・・・どうやって・・・」


「携帯の電波で。番号さえ分かれば居場所がわかるみたいだよ?・・・あ、暗黒だけで利用して悪用はしてないから大丈夫だと思うけど」


「な、なんで・・・」


「え、居場所特定できないからでしょ?ほら、暗黒ってこの学校全部を掌握(しょうあく)してるし、プライドが許さない、とか?」


「え、ええ?」


 俺の居場所ってそんなに重要なコト??―――っていうか、久馬って暗黒とも仲が良いのか。


「まぁ、あくまでも掌握してるのは学校内での行動だけだよ。だからダイジョウブ!」


 グッと親指を立ててみせる久馬。だけどね、学校内の行動が一番挙動不審なんだよ、俺・・・全然だいじょばない・・・。


「あー・・・そういえば、兄ちゃんも持ってたなぁ・・・」


 ―――正神弟、そこでダメ押ししないで・・・。



***



 にゃん国の活動を終えて、とぼとぼと学年室に戻る。


 この数日で俺の想いは周囲にバレバレだってことがよくわかったけど、肝心の御門先生に全然伝わってないっていうのが、堪えるなぁ・・・。


 とはいえ、面と向かって言う勇気はない。だって、断られるのが怖い。だってこれから先もこの職場で働くのに、顔を合わせ辛くなってお互いに良くないと思う・・・。


 あ、そういう時はヘルシーに転属願いでも出そうかな・・・。


 って、ネガティブ禁止だったよな・・・あー、ダメだ、1人になるとこうしてじめじめ考えちゃうんだよな・・・。


「ちょっと!そこのどんよりとした空気まとってるの!」


「うぇ!?・・・あ、淋代園(りんだいえん)先生・・・」


 もちろん、奥さんの方の。


「まったく、まだ行動できてないみたいね!もどかしいったらありゃしない・・・大体ねぇ、男なら当たって(くだ)けてきなさいよ!」


「いや・・・砕けるのは、ちょっと・・・」


「!・・・ふぅん・・・そんな及び腰じゃいつまで経っても告白なんて無理ね。よぉし、そういうことなら私にだって考えがあるんだからね」


 り、淋代園先生・・・なんか、こ、怖いですよ・・・え、なんでそんな距離を取るんですか?


 ちょ、え?―――な、何、ナニナニ!?は、走ってくるんですけど!!


「え?ま・・・待ってください!!な、なんで走ってくるんですかぁ!?」


「じめじめじめじめ・・・あ゛~~~鬱陶(うっとう)しいっ!!とっとと(こく)ってこい!!!」


「ぎえっ!?」


 ああ、人はこれを飛び蹴りと言う・・・。


 逃げようとしたその背中に、淋代園先生の素晴らしい威力のキックが入り、俺は前のめりになってそのまま綺麗に廊下をスライディングする。―――うあぁ~、廊下って意外と汚いんだけど~。


「きゃっ」


 え・・・?きゃっ?


 俺が慌てて顔をあげると、そこには目を丸くしてこちらを見下ろしている―――御門先生が、いた。


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