そして停滞の時代にヒビが入る
2046年6月2日15時27分。
世界に穴が開いた。
場所はパリやアテネにニューヨークなど世界中に現れ、その数は50を越え、大きさは野球場一つ分程度だった。
日本にも大阪と北海道にこの現象は起こった。こちらもやはり原因は不明。というよりも調査していないの方がいくらか的を得ているだろう。
穴が開いた直後。大阪と北海道の、両方ですごい混乱だった。まあ、考えてみれば理由は簡単だ。つい一瞬前まではなかった穴が突然現れ、しかもその大きさがまた野球場一つ分程もある。我が目を疑うとはこの事だと思ったに違いない。
他にも偶然穴が開いた場所にいた人は、そのまま穴に飲まれてしまった。そしてそのまま二度と姿や形どころか声さえも聞いた人はいない。
以上のことから誰も穴に近づくことはなかった。……ということも理由の一つではあるだろうが、それで全てではない。いや、上の二つよりもこちらの方が重大だった。
なんとこの穴……
魔界に繋がっていたのだ。
その証拠に次の日にはこの穴から数々の怪物が出てきたという目撃証言もある。
例えばそれは吸血鬼だったり、金棒を持った鬼だったり、コウモリの様な羽を持ったガーゴイルだったりだ。
だが最初の方はその話を信じる者はいなかった。まあ、考えてみれば当たり前だ。科学の発展した当時の社会においてそんな話を信じろという方が無理がある。
しかしすぐに異変は現れた。穴が開いてから3日ほど経つと、大阪にいる人間に連絡がつかなくなったのだ。北海道の方は穴が開いたのが田舎の山の中だったのでまだ大丈夫だった。しかしそれも10日を過ぎる頃には連絡がつかなくなった。しかもその頃には関西はもう全滅していた。
これにより人間は、自らの危機を自覚した。
ここから始まった時代を「闘争の10年」と呼んだ。
武器を持ち悪魔たちに対抗した時代だ。中には核兵器を使ったこともあったらしいのだから、戦いの激しさは想像を絶すると言っても過言ではないだろう。
次に来たのが「白紙の5年」。
この5年間はなんと一切資料が見つかっていない。諸説あるがここで紹介するのはやめておこう。
次に来たのは「停滞の100年」。
この頃には人口は100万人ほどしか生き残ってはいなかった。2046年当時1億人以上いたので、実に1%程度だった。
その100万人の人類が関東地方全域を囲むようにできた『ホリニウムドーム』に引きこもった。それが「停滞の200年」である。
2156年。
「停滞の100年」の終わりまで残り5年に迫った年だ。しかしこの時代に生きている人間はもちろんそんなことを知っている訳もなく、これからもずっと平和という名の停滞が続くと信じて疑わない。
そんな中で一つの事件が起きた。普段は開くはずのないホロニウムドームから外に出るためのゲートがなんの手違いか開いてしまったのだ。
門番をしていた自衛隊の5人は焦りに焦ったが幸いなことにゲートを閉めるまでに悪魔たちが入ってくるという最悪のケースは訪れず、それどころか悪魔一匹視界に入れることなくゲートを閉じることができた。
しかし市街地の方から走ってきた女の一言に目を見開いたのだった。
「ハァ……ハァ……この辺りで10歳くらいの男の子を見ませんでしたか?」