No.1
酷く乱筆なので注意してください。
徐々に目の前が暗くなってゆく。今朝食べたリンゴの味が、微かに口の中に残っている事に気がついた。ここ数日はまともな物をないな…こう云う時に限ってどうでもいい事を思い出す。だが、直ぐにその味も消えた。体中を電気が走り巡ったような感覚、痺れが四肢の感覚を消し去ってゆく。良く解らないが、自分を担いでいる男の声が聴こえてくる。何か、叫んでいるようだが…
瞼が何時もの何倍も重い。このまま閉じてしまっていいのだろうか……。まばたきをした筈だった。案の定、瞼は閉じられたままになる。体の感覚が無くなる―意識が…体から抜け落ちたようだ。
淡い光が瞼を透して広がる。
深淵から意識が上がってきて、一瞬痙攣し、皮膚感覚が戻った。
目に映る景色はさっきまでとは一転していた。驚くべきことなのだが、そうする前に一つ、
「あんた、誰」
と、言ってしまった。
やはり、考えてしまう。本当に、コイツは何なのだろうか。ただのおっさんにしか見えないのだが、その姿からは何故か圧倒的なプレッシャーを感じる。
“コレ”は危ない。ほとんど反射的に、僅かに痺れが残る体を起こした。
「うおっ、いつ間に……とにかく、危ないところだった…あれは…」
男はそう言うと、俺の右手を見た。
「それ、放した方がいいぞ。と言っても、もう手遅れか…」
手遅れ…言っていることの意味が解らない。とにかく、ここにはもう用がないのだ、さっさと逃げなくては。
「意味が解らないんだが…そんなことより俺、早くここを出たいんで。」
「ここを出るのはいいが、今、外なんて行ってみろ、十秒で凍死だぞ?」
凍死……そんな大袈裟な。この程度の雪で、それに、そこまで寒くもないし、むしろここは不自然な位あたたかいのだ。
…いや、あり得ない。こんな事は……。まず始めに、自分の神経を疑った。まだ、あの薬の作用か何かが残っているのかもしれない。そう考えるのが適当だ。
「あ、不思議だよね?周りはこんなに寒そうなのに、ココは暖かい。実は俺たちの居るココは…簡単に言うとだな、“今”じゃない。」
「今…じゃない?」
「ああ、今じゃない。」
「さっきから意味がわからないことばっかり……あんた、一体何者?」