2−1=1人ぼっち
「でもま、良いとこで良かったじゃないか」
日本酒を注いだコップに口を付け、部屋を見回しながら言う彼方。
「広い部屋三つもあるし、エアコンも付いてるし、必要な物があれば何でも買ってくれんだろ?愛されてるねぇ〜」
それを聞き鼻で笑う僕。そんな僕の態度に不満を覚えたのか、彼方が続ける。
「いや冗談抜きにしても、真理ちゃんは良い母親だと思うぞ?」
「良い母親が、息子に対して『彼が子供嫌いだから出て行け』なんて言うのか?」
「それは真理ちゃんだからしょうがない」
彼方はそう言うと、日本酒をぐいっと飲み干す。
まぁ、それを言われちゃぐうの音もでない。
今までの母の奇行を考えれば『あの人だから仕方がない』で片付けられるのだ。
小さい頃など『彼が来るから』と言う理由で、よく彼方の家に預けられていた。
まぁ、それを受け入れる彼方の両親も変わり者だと思うが。
そんな益体のない話を続け、窓から見える景色が夜に染まり始めた頃には、一升瓶も空になっていた。
「んじゃ、そろそろ帰るわ」
そう言いながら立ち上がる彼方。
「ん?泊まっていくんじゃないのか?」
酒なんか持って来るから、てっきり泊まっていくと思っていた。
「いや、これから彼女と待ち合わせなんだ」
これから?
こんな時間から何をするのかとも思ったが、敢えて聞かない事にする。
なんか悔しいから……。
「酒飲んでるんだから気を付けろよ」
「ばーか、こんぐらいの量じゃ水飲んだのと変わんねーっての」
確かに彼方は酒に強い。僕より飲んでた癖に、全然素面だ。
でもまぁ、高校生の台詞ではないと思うが。
「んじゃま、また来る」
そう言って、彼方は部屋から出て行った。
広々とした部屋に静寂が戻る。
家……今では実家と言うべきだろうか?
ともかく母と暮らしていた時は、母が騒がしかったため、こういった静けさは少し寂しくなる。
…いや、こんな事を考えるのは酔ってる所為だ。
僕は頭を軽く振り、酔い覚ましに散歩をしようと、玄関から外に出た。