2−1+1=賑やかな二人
「ふぅ……」
新しく住む部屋を整理し終え、フローリングの床に寝転がる。
蝉がはしゃぐ程の暑さの中、日陰に位置する床は、ひんやりとしていて気持ちが良い。
結局、僕は家を出て行く事に同意した。
最初は、それが親の言う事か?などと思ったが、母の言葉の解釈の仕方を変えてみた。
つまり、
「生活費は出してあげるから、一人暮らししてみなさい」
という事だ。
………そう言う事にしておこう。
そんな事を考え、少し落ち込み始める僕の耳に、来客を告げるチャイムの音が届いた。
しかしアパートへの来客など、勧誘やセールスの類がほとんどなので、いきなり玄関の扉を開けてはいけない。
そんな、雑誌で読んだ知識を思い出しながら、のそのそと体を起こし、玄関のインターホンに繋がるスピーカーをオンにする。
「どちらさまで?」
『あ〜、彼方だ。取りあえず開けてくれい』
僕を警戒させてくれた来客者は、友人兼幼なじみである彼方で、対セールスマン用話術を思い返していた僕は肩透かしをくらった。
一人暮らしの事はまだ話していないので不思議に思ったが、取りあえず彼方を部屋に通し、適当に座らせる。
「にしても、真理ちゃんも相変わらずだな」
と、苦笑気味に話し出す彼方。
ちなみに真理ちゃんとは、僕の母の事だ。
母は『おばさん』と呼ばれるのが嫌いで、彼方には小さい頃からそう呼ばせているのだ。
「って事は一人暮らしの事、母さんから聞いたのか?」
「ああ。いきなり携帯に電話してきて『優ちゃんには家を出てもらったから、面倒見てあげてね〜』だとよ」
と、今度は爆笑しながら話す彼方。
本当によく笑う奴だ。
「僕が家を追い出された理由は聞いたか?」
「んにゃ、聞いてないけど大体見当は付くよ。男関係だろ?」
さすが、長年一緒に居た奴はよくわかってらっしゃる。
「まぁそんなとこだ」
苦笑しながら答える僕に、彼方は『やれやれ』という風に肩を竦めると、テーブルの上に一升瓶を置いた。
「つーわけで、一人暮らしの御祝いに酒盛りでもしよーぜ」
これは御祝いでいいのか疑問に思ったが、酒盛りは嫌いじゃないので、二人で酒を注ぎ合い乾杯をした。