序章:デイドリーム
序章です。
バルハラ戦役――
かつて混沌と呼ばれし者達が世界を支配しようとしていた。
それに対抗するべく立ち上がった者―――剣士バルムンクと賢者オダイン。
彼らは数々の仲間達と共に混沌と戦った。
最初は混沌が圧倒的な戦力で暴虐の限りを尽くしていたが、バルムンク達は魔法という不思議な力を使い徐々に混沌を討ち滅ぼしていった。
しかし混沌の王であるマガツは魔法をものともせずバルムンク達に襲いかかった。
激戦の末、バルムンク達はマガツを封印する事に成功したが倒すには至らなかった…。
賢者オダインはまたマガツが復活するのを危惧して魔法を後の世に伝える事にした。
後世の人々はこれをバルハラ戦役と呼んだ…――――バルハラ戦役から千年がたった…。
世界にはオダインが伝えたとされた魔法があちこちに浸透していた。
ある家庭では火をつけるため。
また別の家庭では食材を冷やすため。
このように魔法は一般家庭にも深く根付いていた。
――シルリア皇国。
皇帝ゲーテが治める自然が豊かで住民も不自由なく暮らしている世界三大国の一つ。
そのシルリア皇国の最南端に位置するメルディウス霊山。
その麓にある山村、アーデル村では未だに魔法を使わずに暮らしている世界でも数少ない村である―――
「あーあ…なんか退屈だな。山にはメルディウス祝福祭の準備で入れないしな」
俺はセリオン・メルキウス。
今はアーデル村で毎年行われるメルディウス祝福祭っていう祭りの準備中なんだが…まぁとにかく面倒くさくて仕方がない。
「おいセリオン!サボってないで手伝わんか!」
「わかってるって!けど毎年思うんだけど御輿なんて毎回作り直す意味あんの?飽きちゃったんだけど」
「馬鹿者!霊山に祀られているバルムンク様に毎年同じ御輿を持って行くなんて罰当たりな事だ」
「ふーん…そういうもんなんだ」
俺の事を怒ってるのがテルモ爺ちゃん。
俺が小さい時に両親が亡くなったらしくて貰い手がいない俺を引き取ってくれた恩人だ。
まぁ、いっつも口うるさく言ってくるのは勘弁だけどな。
「おいセリオン。面倒くさいなら別の仕事をやる。サラちゃんのところにいって御輿に着ける御札を貰ってきてくれないか?」
「そうだな…いいよ!そっちのが楽だしな。じゃあ行ってくる!」
サラってのは俺の幼なじみで何かと世話になってる奴だ。
俺は急いでサラの家に向かうことにした―――
「ふぅ…あやつも現金な性格しおって」
「まぁまぁテルモさん。セリオン君はいい青年だよ。困っている村の者を良く助けているじゃないか」
「そうなんだがな…」
テルモはセリオンが去っていった方を困ったような表情で見た。
「最近、つまらなそうにしている事が多いからな…心配なんだ」
と誰にも聞こえないような声で呟いた―――
「おーっすサラ!御輿に使う御札をもらいにって…うぉっ!!どうしたその格好!」
俺の目の前には綺麗に着飾ったサラがいた。
「あっセリオン!こ、これ祝福祭の時に着る衣装なんだけどへ、変じゃないかな…?」
「変じゃないぞ。似合ってる似合ってる。一瞬、見違えたぜ」
「あ、ありがとう…」
……ってそうだ忘れてた。
御札をもらいに来たんだよな。
「サラ。御輿に着ける御札を貰いに来たんだけど…」
「それならお母さんに聞かないと…。お母さーん!」
少しすると奥からサラの母さんがやってきた。
「なんだい?ってセリオン!どうしたんだい?」
俺はおばさんに一通り説明した。
「まだ御札を教会まで取りにいってないんだよ。少し準備に手間取っちゃってねぇ」
「そうなんですか…じゃあ俺が行ってきます」
「本当かい?ありがとう!教会は村から東にあるからね。道中、魔物も出るから気をつけておくれよ?」
一度、家に帰って剣を取りに行かなきゃな。
こう見えても剣術には自信あるんだぜ!
「気をつけてねセリオン…」
「大丈夫だってサラ!狩りに行くのとそう変わんないよ」
そういって笑顔を見せてサラの家を出た。
さて一度、家に戻るか。
次は教会へ向かいます。