婚約破棄されたので自害したフリをしたら思った以上に厳格なお父様が泣き崩れた。どうしよう
レーリット公爵家当主は泣き崩れていた。
それをマリーリの母親は冷静に受け止めていた。
「そんなに泣くとは思いませんでしたよ。どうして愛していると一言言わなかったのです?」
涙と鼻水でくじゃくじゃになっている当主は厳格で、娘のマリーリに愛していると伝えたことがなかった。
「公爵家当主が感情を出すなんて、できなかったんだ! 愛している代わりが王太子との婚約だったんだぁ!」
その娘は婚約破棄され、ベッドの上で首を掻っ切っていた。
「あの子は最後まであなたに愛してもらいたかったのですよ」
「まさか卒業パーティーで婚約破棄されるとは思わなかった! あの子が自害するなんて思わなかった!」
「王太子はどうなりました?」
「廃嫡された。だが意味はない。あの子が死んでしまったんだから」
「あなたはどうする気です?」
見かねた母親が当主の鼻水をハンカチで拭う。
当主は膝と手を床につける。
「離れるに決まっている。元々は側室の母を持つ第一王子の足元を固めるための婚約だったのだから」
「その王子を惑わした毒婦はどうなりましたか?」
「修道院が侯爵家か選ばして、侯爵家を選んだ。だかその侯爵家は娼館を持っている。そこに入れられるだろう」
また当主は涙と鼻水を垂らす。
母親は呆れながら床に膝をついて当主の鼻水をハンカチで拭う。当主はポロポロと涙を流す。
「娘の死を利用して王宮に強い発言力を持てるのですよ? それをしないのですか?」
当主は目を見開く。
「愛していたんだ! マリーリを! 私は愛していたんだ!」
「一言言えばよろしかったのです。“愛している”と。あの子はそれだけでよかったのですから」
当主は床を叩いた。
「言えなかった!」
また叩く。
「そう教育されていた! 父上が悪い! 公爵家が悪い! 王太子が悪い! そして私が悪いんだ!」
当主は手で顔を覆った。
「愛していたんだ。心から愛していたんだ。その代わりに王太子妃にしようとしたんだ。愛していると伝える代わりに」
当主は泣き崩れた。
母親はそんな当主から顔を上げて、ドアの隙間から覗くマリーリに、どうする気なのか、困った顔を浮かべた。
マリーリは厳格な父親が泣き崩れたことへの嬉しさ半分、残りの半分は泣き崩れたことへの困惑で、どうしよう、と呟くのだった。




