人が玩具に変わる村で、盲目の少女だけが“糸の音”を聞いていた――捨てられた王女は父を人形にする
村では、人が音もなく消える。
悲鳴はない。
争いもない。
ただ翌朝、家には玩具が置かれている。
瞬きもせず、笑いもせず、
けれど確かに、昨日まで“生きていた形”をしている玩具。
盲目の少女リナだけが気づいていた。
夜になると、天井の奥から細い音がする。
きし、きし、と。
糸が擦れる音。
ある夜、両親が消えた。
残されたのは、小さな木の人形。
触れた瞬間、リナは息を止める。
かすかな鼓動のような震え。
そして、微かな声。
「……助けて。」
リナは村を出る。
見えない代わりに、世界を聞く。
足音の重さ。
風の流れ。
そして、無数の糸が張り巡らされる音。
森の奥で出会ったのは、一体の踊り子の人形だった。
襲ってこない。
逃げもしない。
ただ、静かに立っている。
リナが衣装に触れると、かすかに震えた。
「……あなたは、怖がらないのね。」
踊り子は語る。
かつて王の娘だったと。
病弱で、理想に届かなかった。
父は言った。
「欠陥は排除する。」
そして禁じられた術に手を出した。
不要なものは、形を変えればいい。
それが、すべての始まりだった。
宮殿は糸の音で満ちていた。
無数の玩具が、ぎこちなく動く。
その中に、リナの両親もいる。
玉座の上で、王が笑う。
指先から無数の糸が伸びている。
「完璧な世界だ。
逆らう者も、弱い者も、すべて従う。」
踊り子は前へ出る。
「それでも……私はあなたの娘です。」
王は糸を引く。
両親が刃を持ち、リナへ向かう。
そのとき、リナが言った。
「あなたは……寂しいの?」
玉座の奥で、不安定な鼓動が震える。
誰にも触れられず。
誰も信じられず。
完璧だけを求めた孤独。
踊り子は目を閉じる。
「最後に、父を選びます。」
剣は振らない。
糸を掴み、自分の胸から王へと結び替える。
「あなたは私を玩具にしました。
だから今度は、あなたが座る番です。」
糸が逆流する。
王の腕が硬直する。
関節が軋む。
瞳が硝子へ変わる。
悲鳴は出なかった。
玉座に残ったのは、
精巧に作られた王の人形だった。
糸は消える。
村人たちは元に戻る。
両親は泣きながらリナを抱きしめる。
けれど。
踊り子は動かない。
糸はもう、彼女を離れない。
リナがそっと触れる。
冷たい。
「これで、やっと見てくれるね。お父様。」
村は静かになった。
本当に。
玉座の上では、
世界でいちばん孤独な玩具が、
永遠に座り続けている。
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