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第4話「読学」

 聖書騒動の日から、母は聖書を読み聞かせしてくれるようになった。


 それは寝る前でも、夕食の準備中でも、洗濯物を畳みながらでも、母の手にかかればいつでも読み聞かせタイムに大変身…。


 今日は寝かしつけの時だった。

 いつものように母は本を開く。

 俺を膝に乗せ、逃げ場を塞いでから。

 その微笑ましい光景を父は眺めている。

 いつもの光景だ。


「神様たちは、時と万の下に時の区切りを八つに隔て…“時間”にも終と始が生まれたの。それは、生月──風月──……」


 母はいつものように神の美しさとやらを説く。

 いや…説いているのは聖書であって母ではないのか…?


 母は一歳の赤子に内容が理解できるとでも思っているのだろうか。普通の赤子にとって聖書の内容なんか、理解不能な代物だろうし…。

 もしかすると、この世界はこういう教育が割と一般的なのかもしれない。

 だとしたら終わってるだろ。



 限られた時間のうちではあるものの、

 文字を理解するのには充分な教育材料だった。


 まだわからない単語も多い。

 日常に出てくる、ふとした単語の意味がわからないので、不便だ。言葉が話せても自然な年齢になって、早く覚えたいものだ。


 言葉も併せて教わっている。

 が、「もう喋れます」なんて言える訳もない。

 もし口を滑らせたら、今度こそ‘異端’認定だ。


 幼稚に喋って、教えてもらったことがある言葉しか繰り返さないようにすることで誤魔化している。

 この体だと自然に「らりるれろ」が怪しい口調になるから俺の大根演技もマシになっていると思う。


---


 窓から日が差している。

 その先には、本を読んでいる小さな子が。

 何やら意味のない言葉をブツブツと発しながら本を眺めている──


 俺です。

 ハイ。


 性懲りも無く本を盗み見ています。

 ハイ。


 うちにある本は聖書含め、全部で3冊。

 全て写本だった。

 紙はザラザラしていて、インクも滲んでいる。

 ところどころ文字が太っていて、紙の色も昔の古い地図みたいな見た目だから、素人の目でもそう察することができた。

 おそらく、印刷技術等が発展していないんだろう。


 冊子も木製で味があって、雰囲気が出ている。

 中世ヨーロッパでの写本は価値の高いものであったと聞くし、この世界においても本は贅沢品なんだろうな。


 本を開くと、独特の香りが鼻に伝わってくる。


 本をまた開いたのは、母の言っていた言葉と照らし合わせながら聖書の内容を読んで、再度まとめることにしたからだ。


 分かったことを下記に記す。

 長くなると思う。


 まず、聖書の構成はこうだ。


*「世界創生」

 これはありきたりな神話で、前世でも聞いたことあるような内容だった。


万物神(ラーディクス)の元に神が八柱作られて、神はそれぞれ

「空、時、生、死、土、水、火、風」を司り、

 それを元に世界は成り立った…とか。

 生まれた順番や性別等も決まっているっぽい。


 神それぞれについての説明が載っているが…

 神名が長くて読む気が失せたのと、わからない単語が多く補完して読むこともできなかったため、あとで読むことにした。


*「神世」

 神が居て、実際に人類を統治していたころの話。

 八章構成であり、章の名前は「空の章・時の章…」といった感じ。

 総じて、とにかく長かった。


 多くが抽象的な逸話で、神の遺した言葉では

暦、信条、倫理、人種…等

 常識的な話についても触れられていた。

 母の、神が時間を分けた云々…はここにあたる。


 神による「魔法」の説明や、祈りへの言及もあったので、後にまとめる。


*「黎明」

「神は去った。間違いなく」で始まる印象的な章。


 神が去ったことに関しての記述はないのに、

 「神が去った」と言い切っている。

 そのため判断のしようがなく、扱いに困る。

 完全にナニコレな章。


*「人類の章」


・王冠

「王都」とその王権は人間を「・──・─」により、「──・」であるらしい。


・人種

人種には、

「人間」「・─・─」「・──・」「─・」

「─・─」などがいて、それらは同じ神の下に生まれたため、平等であるんだとか。


…わからない単語。

 楽しい楽しい異文化学習も、興醒めだ。

 早く言葉がわかるようになって内容について、聞いてみたいものだ…。


 異世界だから、「獣人」とか、「エルフ」とかいたらいいなぁ。


・神の遺した恩恵たち

「魔法」「魔術」「魔素」「魔力」…

 それらの私生活における立場についての言及。


 面白そうなことがたくさん書いてあったので、これも後にまとめて記す。


・「赤の章」

 吸血鬼が覇権を握っていた怖ーい時代の伝説。

・「青の章」

 深い海の底の海の王の伝説。

 海の王は「・─・─」の祖…?であるらしい。

・「緑の章」

 森の奥の秘境の陸の王の伝説。

 陸の王は「・─・─」の親…?であるらしい。

・「剣の章」

「魔王」を退治した「勇者」の伝説。

 母が読み聞かせてくる御伽話だ。

 日常でも聞くような、独特な言い回しが多い。


 これによって「・───・・」は絶滅したんだとか。


・罪源

 罪と祖となる、「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲」への言及。

 前世でも聞いたことがある話だった。


「それは人間─のうえ・─我々に─・・罪」

「・──・に─した─・・を─・──とする」

 とのこと。

 何言ってんだか。


*禁目

 人類における禁忌への言及。

・「罪源」に身を沈めること

・「生命」への冒涜

・「人徳」に反すること

・「・─・・─・」を歪ませること

などなど。


*人類のこれから

「預言者テラーの提言」

「教皇のことば」

 主に、この聖典自体への言及と人類の未来とその形についての言及だった。


──ざっとこんな感じだ。


 「聖書」と聞いていたから、ぶっ飛んだ神々による、抽象的な物語なのかなと思っていたのだが…。

 そうではなかった。

 内容は多岐にわたっていて、特に「魔法」やその立ち位置なんかにも詳しく触れていた。

 しかし、内容も不明瞭な点が多かったので、これから何度も繰り返し読むことになるだろう。


 頭がショートしそうなくらいの情報量だった。

 この小さい頭に入り切るか心配だな…。


 しかし、そこにさらなる追い討ち。

 いよいよ「魔法について」の話。


 聖書では気難しい感じで語られていたのだが、

 要はこういうことだ。


①空気中には「魔素」という神々が遺したエネルギーが存在している。


 「魔素」というのは神の種類に対応して、存在するんだとか。

 エネルギーであるから、見えずトクシュな方法を使わないと見えないらしい。

 これは、世界に影響を与えているのだと言う。


 地球で言うと、原子とかに当たるのだろうか。

 気になる。


②人間には、それ(魔素)を「魔力」によってなんらかの作用に変換することができる。


 「魔力」が何を指すのかわからない。

 人間に初めから備わっているのだろうか。

 それとも、限られた人間にしか無い…とか。


③そのに「変換」を体系化したものが

 「魔術」と「魔法」である、ということ。


 …─────────────────…

 「空時生死」の魔素を扱うのが「魔法」で、

 「土水火風」の魔素を扱うのが「魔術」である。

 …─────────────────…

 と定義されていた。


 基本的に、「魔術」は訓練を受ければ誰でも使用可能であるらしく、日常に魔術はありふれたものなんだとか。

 しかし、「魔法」が難しく扱えるものが少ない。

 そのため重宝されるんだとか。


 驚いたのが、魔術と魔法は明確に定義が違うことだ。今度から、きちんと区別して使わなければ。

 しかし、魔法と魔術の総称がないらしい。

 いちいち「魔法と魔術」って言うのも面倒臭いだろうに。


④それを行う方法には「詠唱」と「・──」そして「無詠唱」の三つのパターンが存在すること。


 詠唱って言うのは、レイスがやっていた魔術の発動方法らしい。

「・──」ってのはおおかた魔法陣とかだろう。


⑤「詠唱」には「神祈法」なる物と「基礎法」なる物が存在すること。


 神に祈る方法である「神祈法」と「・──・・─」をして「─・」をする「基礎法」があるらしい。

 「神祈法」は神への信仰を重んじ、長い歴史で受け継がれてきた物なんだとか。


⑥「詠唱」は簡単じゃないんだぞ、ということ。


 言葉を言うだけで自動的に発動する。なんて事はなく、それには複雑な原理があるんだとか。

 特に、神祈法は特別ななんたらが無いとダメなんだって。


──ふぅ…。


 以上の解釈は、聖書に書かれていたことを踏まえ、わからない点は補完したうえで自分なりにまとめた物に過ぎないので、必ずしも合っているとも限らない。

 確証バイアスに頼り切らないで、常に懐疑的な視点を持つようにしよう。


 残念なことに、まほ…魔術はまだ使えないらしい。

 魔術と魔法の説明とかは載っていたが、肝心の

「詠唱」についてはのっていない。

 正直萎える。

 激萎えだ。


 どうにかして魔法が使いたい。

 でも、詠唱ってどこにあるんだよ…


 はぁ…

 


 明日からどうすればいいんだ…

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