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第3話 AI、集落を診る

 藍とGrailの視線の先に、小さな家がいくつも見えた。

 木と土で作られた家々が、ゆるやかな距離を保ちながら点在している。


「街だぁ! いや、あれは……村?」


 思わず声が弾む。


「いえ、あの規模は集落です。人口密度と建造物数から推定すると——」

「今はそれどころじゃないです!」


 藍は笑いながら、思わず駆け出した。

 人がいる。

 それだけで胸がいっぱいだった。

 後ろをGrailがせっせと走ってくる。


 集落の端、畑のそばで腰をかがめている人影があった。

 オレンジ色がかった頭巾を被った、小柄な老婆だ。


 藍は一歩前に出て、声をかけた。


「あの……すみません!」


 老婆は顔を上げ、藍とGrailを見るとにこりと笑った。


「神官様たちのお仲間さんかねぇ? ずいぶん綺麗なベベ着て」

「え? あ、私たち道に迷ってしまって……」

「そうでしたかい。ほんなら、オルム集落をご案内しますからね。他の神官様たちはこっちですよぉ」

「私たち、神官じゃないんですけど、大丈夫ですか……?」

 老婆は首を傾げ、すぐに頷いた。

「えぇ、えぇ。見習い神官様でも、ご案内しますぉ。このエンディーばあちゃんに、お任せくださいねぇ」


 おばあさんにはあまり話が通じなさそうだと藍は思った。

「椎名さん、着いていくことを推奨します」

 Grailに言われ、おばあさんの後を追う。

 ゆっくりゆっくりした足取りだった。


「ふぅ。集落から出した手紙の通りで、膝が痛いわ、胸がドーキドキするわでねぇ」

「大変ですねぇ」

 藍は相槌を打ち、集落の中の方へと向かった。


 進んでいくと、すぐに小さな広場があるのが見えた。


 そこでは、神官らしい格好をした者たちが数人、具合の悪そうな多くの村人と共にいた。

 村の人たちは、皆黄色やオレンジ色のフェミニンなエプロンや服を身に着けていた。

 神官は村の人、一人ずつの前に足を止めて、話を聞く。


 そして——紙に光る文字で魔法陣を書く。

 光は紙から飛び出し、魔法のように人に吸い込まれた。


「……え……」


 藍は思わず、声を漏らした。


 魔法にしか見えない。

 じっと見ていると、また紙に魔法陣を書き付ける。

 そして、魔法陣が光り、光は人に吸い込まれる。


「Grail、Grailすごいですよ」

「はい。驚嘆します」


 Grailも素直な返事をする。藍は目をきらきらさせてその光景を眺めていた。


 だが。


 一人、二人、三人——

 魔法を受けた村人たちは、礼を言い、広場を離れていく。


 が——誰も、目に見えて楽になった様子がない。


(うーん……?)


 藍は小さく首を傾げた。

 皆がやったーと腕を振って帰って行くのかと思ったというのに。


 腰をさすりながら去っていく人。

 肩を落としたまま歩く人。

 顔色の悪さも、表情も、ほとんど変わらない。


 神官たちも、それに気づいていたようだった。


「……おかしいな」

「効いていないわけではないはずなんだが」

「魔法は発動していますしねぇ……?」


 神官たちは困惑した顔で顔を見合わせる。


 少し離れたところで、藍も首を傾げる。

「本当は治るはずだったんですかね? どんな病気なんでしょう? それとも、呪い……?」

 RPGなら、これは呪いだろう。

 Grailはわずかに思考してから告げた。

「調査を開始しますか? 万が一、伝染病の場合、即時の出発を推奨します」

「調査なんてできるんです……?」

 静かに頷く。

 だが、藍は一つの懸念があった。

「あの……Grailの話し方、少し……変わってますし、警戒されちゃうかもしれません。あんまり自然な人間って感じが……少ないと言いますか……」

「分かりました。話し方の学習を更新していきます」

「え? できるんですか?」

 数秒を目閉じ、開いてから頷いた。


「えぇ、できますよ。では、調査に行ってきます」


 確かに少し自然になった。

 Grailは藍の横を静かに通り過ぎ、村人たちの方へ向かった。


「少し、お話を伺ってもよろしいですか」

「あぁ……神官様。よろしくお願いいたします」


 一人、また一人。

 Grailは年齢も性別も違う村人たちに、同じ調子で問いかけていく。


 いつから具合が悪いのか。

 どんな症状か。

 良くなる時間はあるか。


 藍は少し離れたところで、その様子を見ていた。


(診察……)


 Grailはメモを取ることもなく、ただ淡々と話を聞いていく。

「——それで、皆調子が悪くてなんとなくイライラしてましてねぇ……。私もこの間孫が泣き止まないなんて些細なことで怒鳴りましたよ……」

「それはとても嫌な体験でしたね。しかし、体調が不良の際には誰もが心を弱くします。あなたは怒鳴ってしまったかもしれませんが、後悔しています。もう繰り返しません。私には分かります」

 AIらしい、受け止めと整理だった。


「……ありがとうございます」

「いえ、水でも飲んで少し楽にしていてください」

 Grailが話を聞いていたおばさんは少し楽になったような表情をした。

「良かったら神官様方も飲んでくださいね」

 水差しから水が注がれる。

 藍はそれを受け取ると、喜んで飲み干した。

 久しぶりの水。美味しかった。


 Grailはそれを見下ろし、飲むと広場の人々を見渡した。

「……黄色やオレンジ色のエプロン……」

「エプロンもねぇ。ちゃんと白く選択したはずが……皆夕陽色に変わってしまうんですよぉ。お茶も黒くなる……。今じゃ皆水しか飲まないのよねぇ……」

 おばさんが肩を落とす。

「皆イライラして……老人も足が痛くなって……夕陽病って呼んでますよ」

 いよいよもって呪いの気配がした。


 Grailが礼を言っておばさんから離れると、藍も自然とその後に続いた。


「椎名さん」

「これ、呪いの気配しますよね……」

「いえ。症状の分布と経過から見て、鉄の過剰摂取に近い状態に見えます」


 藍は瞬きをした。


「……鉄? でも、それって……食べ物とか、サプリとか……口にするものじゃないですか?」

 藍は首を傾げる。

「こんなに集落全体で、みんな同じ感じになるの、変じゃないですか?」

「その通りです。個人の食習慣で、ここまで均一な症状は出ません。考えられるのは、全員が日常的に摂取しているものです」


 藍は一瞬考えて、はっとした。


「……水?」


 Grailは頷いた。


「はい。井戸水、あるいはそれに準ずる共有資源です」

「そんなことで……?」

「鉄は毒ではありません。必要な元素です。ただし——」

 Grailは静かに続ける。

「必要量を超えると、体に蓄積します」


 藍は広場を見渡した。

 ここにいる人たちは、皆この集落で生まれ、同じ水を飲み、同じ作物を食べてきたのだ。

「何より、村の人々の服が錆色になっています。水の後味も重い」


 Grailは広場の真ん中にある井戸へ行くと、中を見下ろした。


 その時、近くを年高の神官が通った。


「——お待たせしました。あなたも治癒を必要としますか?」

「あ、いえ……。私は元気なんです」

「そうでしたか。それは何よりです。あなたはいかがですか? どこか良くしたいところはありますか?」

 Grailは井戸にぽんと手を付いた。


「井戸水から、魔法で鉄を取り出せませんか?」


 神官は目をぱちくりさせた。

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