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強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


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第八十九話 選ばせる者の孤独


夜は、思考を増幅させる。


焚き火の火は小さく、風に揺れていた。

炎が揺れるたび、影も揺れる。

まるで迷いが形になったみたいだった。


悠一は、薪を足しながら黙っていた。


昼の戦闘――いや、衝突。

あれは勝ちでも負けでもない。

ただ、“拒否”しただけだ。


だが拒否には、必ず余白が生まれる。

そして余白は、人を不安にさせる。


「……なあ」


ミロが、ぽつりと口を開いた。


「今日のあれ」


「正直に言っていいか?」


悠一は、顔を上げずに答える。


「どうぞ」


ミロは少し迷ってから言った。


「怖かった」


ガルが意外そうに目を向ける。


「お前がか?」


「俺だけじゃねぇ」


ミロは、焚き火を見る。


「選べ、って言われた時の、あの村人たちの顔」


「責任を返された顔だ」


ニィが、静かに補足する。


「人は、選択よりも」


「“選択した後”を恐れる」


エルドが淡々と頷く。


「返品できないからな」


悠一は、薪を一本置いてから言った。


「……俺も、怖かった」


三人が、悠一を見る。


「赤を使えば、楽だった」


「青で抜ければ、早かった」


「でも」


悠一は、拳を握った。


「それをやったら」


「俺が“選ぶ側”になる」


「ラグスと、同じ場所に立つ」


ガルが低く唸る。


「それが、嫌だったってか」


「嫌だ」


悠一は、はっきり言った。


「俺は」


「誰かの未来を、縫い止めたくない」


沈黙が落ちる。


焚き火が、ぱちりと音を立てた。


その時、手首がわずかに締まった。


ツムギ。


だが、すぐに緩む。


(……見てる)


(それだけで、いい)



翌朝、街道に出ると異変はすぐ分かった。


人が、減っている。


昨日まであった足跡が、ない。

荷車の轍も消えている。


「……露骨だな」


ガルが吐き捨てる。


「避けられてる」


ニィが淡々と言う。


「昨日の“確認役”の報告が回った」


「選択肢は、危険だと」


ミロが肩を落とす。


「皮肉だな」


「縛らない方が、怖がられる」


悠一は、道端の草を見た。


踏み荒らされていない。

誰も通っていない証拠。


(……孤立)


ラグスの秩序は、直接攻撃しない。

ただ、人を“遠ざける”。


選択肢を提示する者を、

面倒な存在として扱わせる。


エルドが言う。


「商売人は、面倒を嫌う」


「選択肢は、コストだ」


悠一は、苦笑した。


「高くついたな」


「これから、もっと上がる」


「……ああ」



昼前、小さな祠の前で足を止めた。


石造りの古い祠。

旅人が安全を祈る場所。


だが、今日は違った。


祠の前に、一人の女が座り込んでいる。

年は若い。

手が、震えている。


「……大丈夫か」


悠一が声をかけると、女は顔を上げた。


「……あなたが」


「糸の人?」


一瞬、空気が固まる。


不屈三牙が、構える。


だが、女は泣きそうな顔で言った。


「助けてほしい」


「……何が」


「村を、追い出された」


悠一は、黙って続きを待つ。


「昨日」


「“通す”って言った」


「あなたを」


女の声が、震える。


「それで」


「危険思想だって……」


「居場所がなくなった」


ミロが、歯を食いしばる。


「……くそ」


ガルが、拳を握る。


「だから言っただろ……」


女は、すがるように言った。


「私が選んだ」


「でも、間違いだったの?」


悠一の胸が、強く締め付けられる。


(……これだ)


(これが、値段)


選ばせた結果。

その後を、生きる人間。


ツムギが、締まらない。


(……まだ、俺だ)


悠一は、女の前に膝をついた。


「間違いじゃない」


「……本当?」


「本当だ」


悠一は、ゆっくり言葉を選ぶ。


「選ぶってことは」


「守られる保証がないってことだ」


「でも」


「奪われるより、ずっとましだ」


女は、涙をこぼした。


「……怖い」


「怖くていい」


悠一は言った。


「怖いまま、選んだ」


「それが、あんたの強さだ」


女は、しばらく泣いてから、小さく頷いた。


「……ありがとう」


悠一は、糸を出した。


無色。

太さは、糸。


祠の柱に、そっと結ぶ。


「これは、目印だ」


「道を探す人が、迷わないように」


女が、目を見開く。


「……それだけ?」


「それだけだ」


「引っ張らない」


「縛らない」


「でも」


「ここに、選択肢があったって証になる」


女は、深く頭を下げた。



祠を離れた後、ミロが言った。


「……助けたのか?」


「助けてない」


悠一は答える。


「背中を、押しただけだ」


ニィが、静かに言う。


「それが、一番孤独だ」


ガルが、唸る。


「正直、俺は殴った方が楽だ」


エルドが淡々と結論を出す。


「殴ると、売れる」


「だが」


「長持ちはしない」


悠一は、空を見上げた。


雲が、流れていく。


(……俺は)


(どこまで行ける)


ツムギが、わずかに揺れた。


否定でも、肯定でもない。


ただ、そこにある。


それが、孤独を少しだけ軽くした。


選ばせる者は、孤独だ。

だが、その孤独を引き受けるからこそ、

縛らずにいられる。


悠一は、糸を指に巻いた。


無色。

細いまま。


それでも、切れない。


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