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強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


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第八十七話 選択肢を、置いていく


村を抜けて半刻。

街道は再び細くなり、左右に低い林が迫ってきた。


足音は四つ。

悠一、不屈三牙、エルド――そして、もう一つはない。

それでも、視線は増えている。


(……見られてる)


悠一は糸を出さない。

張りも作らない。

ただ、歩調を一定に保つ。


「気配、三つ」


ニィが低く言う。


「木立の向こう」


ガルが舌打ちする。


「また“止め役”かよ」


ミロは肩をすくめた。


「違うな。今日は“試し役”だ」


「試し?」


「そう。俺たちが、どこまでやるかをな」


エルドが、淡々と付け足す。


「そして、どこで怒るか」


悠一は、頷いた。


(……ラグスの手札が増えてる)


昨日までは、道を塞ぐだけだった。

今日は違う。

反応を見る段階に入っている。


林の中から、三人が現れた。

軽装。

武器は短剣と棒。

表情は硬いが、殺気は薄い。


「止まってください」


先頭の男が言う。


「話がある」


ミロが即答する。


「話なら、立ち止まらなくてもできる」


男は、言葉に詰まった。


「……危険です」


「何が」


「あなた方が」


悠一は、一歩前に出た。


「理由を」


男は、胸元の紙を取り出す。


掲示文。

例の通達だ。


「これが回ってきた」


「あなたは、人の行動を変える」


「それは、制御できない」


悠一は、静かに聞いていた。


「……それで?」


「だから、確認する」


男は言った。


「あなたは、本当に危険なのか」


ガルが噴き出す。


「確認って……」


「素人かよ」


ニィが、冷静に言う。


「彼らは、選ばされた」


「“確認せよ”と」


悠一は、息を吐いた。


(……来たな)


ここで、どうするか。


殴れば、危険。

縛れば、支配。

無視すれば、追われる。


ツムギが、動かない。


(……まだ、俺だ)


悠一は、糸を出した。


無色。

太さは、糸。


だが、張らない。


ただ、指に巻く。


「質問がある」


悠一が言う。


「……何だ」


「お前たちは、俺に何をしてほしい」


男は、戸惑った。


「……何を?」


「危険なら、退け」


「安全なら、通せ」


「どっちだ」


沈黙。


三人が、顔を見合わせる。


彼らは“確認役”だ。

決定権はない。


「……それは」


男が言葉を探す。


悠一は、続けた。


「選べないなら」


「選択肢を、置いていく」


糸を、地面に落とす。


一本。


境界線でも、罠でもない。

ただの線。


「ここから先に来なければ」


「俺は何もしない」


「来るなら」


悠一は、指に巻いた糸を見せる。


「止める」


「縛らず、傷つけず」


「――動けなくするだけだ」


ガルが、低く笑う。


「……相変わらず、回りくどい」


ミロが頷く。


「だが、分かりやすい」


ニィが、短く言う。


「判断を、彼らに返した」


男たちは、固まった。


「……俺たちに、決めろって?」


「そうだ」


悠一は言う。


「確認したいなら、まず自分で決めろ」


「危険かどうかを」


風が、林を揺らす。


一人が、半歩前に出た。


「……来るな、って言われてる」


「だが」


「目の前のあんたは……」


言葉が、途切れる。


悠一は、待った。


ツムギが、締まらない。


(……まだ、見てる)


やがて、先頭の男が言った。


「……通ってくれ」


「俺たちは、見送る」


残り二人が、慌てて言う。


「いいのか!」


「後で、責められるぞ!」


男は、歯を食いしばった。


「責められるのは、俺だ」


「だが」


「俺は、今ここで見た」


悠一を、まっすぐ見る。


「縛られなかった」


「命令も、されなかった」


「だから」


「……危険じゃない」


悠一は、糸を拾った。


「ありがとう」


それだけ言って、歩き出す。


背後で、誰も追ってこない。


林を抜けると、ガルが言った。


「……これ、効いてるのか?」


「効いてる」


ミロが即答する。


「“危険かどうか”を、本人に決めさせた」


ニィが補足する。


「噂ではなく、体験だ」


エルドが、淡々と言う。


「安い恐れは、返品される」


悠一は、手首を見た。


ツムギが、ほんのわずかに揺れた。


(……今のは、正解か)


答えはない。


だが、助けは来なかった。

それが、答えだ。



夕刻。

遠くに、町の影が見え始めた。


だが、街道の脇に――別の影。


人影。

数は少ない。

だが、統率された立ち姿。


ミロが、低く言う。


「……来るぞ」


ガルが拳を鳴らす。


「今度は、確認じゃねぇな」


ニィが目を細める。


「“結果”を見に来た」


悠一は、足を止めた。


糸を、指に巻く。


無色。

太さは、縄。


張りを、薄く広げる。


ツムギが、わずかに締まった。


(……判断が、遅れるな)


悠一は、一歩前に出る。


林の向こうから、声。


「――選択は、終わったか」


聞き覚えのある、低い声。


ラグスではない。

だが、彼女の側の人間だ。


悠一は、静かに答えた。


「いや」


「今、始めたところだ」


糸が、夕日に光る。


無色のまま。

だが、確かに――強い。


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