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強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


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第八十五話 選ばない者が、選ばされる


夜明けは、容赦がなかった。


丘の野営地に、冷たい光が降りてくる。

焚き火はすでに消え、灰だけが残っている。


悠一は、眠っていなかった。


目を閉じても、赤の感触が消えない。

足と地面を結んだ、あの一瞬。

力としては微弱。

だが、意味としては重すぎた。


(……使った)


それだけで、世界が動いた。


集落から締め出され、

道は塞がれ、

噂ではなく「判断」が先回りする。


――ラグスのやり方だ。


「……起きてるな」


ミロが近づいてきた。


「顔に出てる」


「悪い癖だな」


悠一は、少し笑った。


「直す気はない」


ガルが大きく伸びをする。


「今日は、どうする」


ニィが即座に答えた。


「進むしかない」


「戻れば、同じことが起きる」


エルドは、荷を背負いながら淡々と言う。


「今日は、避けられない」


「……何が」


「選択だ」


悠一は、ゆっくり立ち上がった。


糸は出していない。

だが、張りは強い。


(……来る)


確信があった。



街道を進んで一刻も経たないうちに、

それは現れた。


道の中央。

簡易な陣。

人影は――十数人。


昨日までの“避ける”動きとは違う。

止めに来ている。


「止まれ」


声は落ち着いている。

前に立つのは、見覚えのある男。


谷の関所で会った、あの指揮役。


「……今日は、多いな」


ミロが低く言う。


「話で済ませる気、ねぇな」


ガルが拳を鳴らす。


ニィは、冷静に数を数える。


「前列六、後列七」


「指示系統は一つ」


悠一は、前に出た。


「何の用だ」


男は、即答した。


「選択だ」


「……選択?」


「ここを通すか」


「ここで止めるか」


「町々の代表から、判断が下った」


悠一の胸に、冷たいものが落ちる。


「……誰が決めた」


男は、わずかに間を置いた。


「秩序を守る者だ」


その言葉で、十分だった。


ラグス本人はいない。

だが、彼女の思想が、完全に前に出ている。


「俺は、通る」


悠一は言った。


男は首を横に振る。


「通せない」


「理由は」


「お前は」


男は、はっきりと言った。


「選ばせすぎる」


空気が、凍る。


「町に判断を返す」


「責任を分散させる」


「それは、一見正しい」


「だが――」


男は続ける。


「迷いが増える」


「迷った者は、弱い」


「弱い者は、暴走する」


「だから」


「選択肢は、管理されるべきだ」


ミロが声を荒げる。


「それを決めるのが、お前らか!」


男は、迷わず答えた。


「そうだ」


「秩序のために」


ガルが歯を食いしばる。


「……ふざけやがって」


ニィが、低く言う。


「来る」


男が、手を上げた。


「抵抗するなら」


「排除する」


その瞬間、糸が震えた。


悠一は、深く息を吸う。


(……選ばされたな)


選ばない。

決めない。

それが、自分の立場だった。


だが今、

通るか、排されるか。


選ばされている。


「……分かった」


悠一は、静かに言った。


「なら」


糸を、縄ほどの太さに変える。


無色。


「通る」


一斉に、敵が動いた。


「来るぞ!」


不屈三牙が散開――しない。

三人で一つのまま、前に出る。


ガルが突進を止め、

ミロが牽制し、

ニィが動きを読む。


悠一は、糸を張る。


青。


引き寄せ。


敵の踏み込みを、半歩だけ早める。


「っ!」


前列の一人が、体勢を崩す。


ガルの拳が入る。


だが、後列が即座に動いた。


「囲め!」


判断が早い。


(……統率が取れている)


悠一は歯を食いしばる。


ここで赤を使えば、終わる。

縁を結び、動きを止めればいい。


だが、それは――

ラグスの正義を肯定する。


「ミロ!」


「分かってる!」


ミロが、わざと大きく動く。


敵の視線が集まる。


その隙に、悠一は糸を綱ほどに変える。


無色のまま。


地面に張り、

動線を潰す。


「……何だ、これ!」


敵の動きが鈍る。


殺さない。

縛らない。


だが、進めない。


男が叫ぶ。


「やはり危険だ!」


「見ろ、制圧している!」


悠一は、叫び返す。


「制圧じゃない!」


「止まっているのは、お前たちの判断だ!」


その瞬間だった。


後方から、強い気配。


空気が、張り詰める。


「……そこまでだ」


低い声。


全員が、動きを止めた。


道の脇。

岩陰から、一人の女が現れる。


黒い外套。

冷静な目。


ラグス。


「……本人か」


ミロが息を呑む。


ラグスは、悠一を見る。


「初接触以来だな」


「……ああ」


「よくやっている」


「褒め言葉か?」


「評価だ」


ラグスは、周囲を見回す。


「無色」


「太さの操作」


「引き寄せ」


「だが、縛らない」


「……まだ、選ばせたいか」


悠一は、糸を下ろした。


「強制はしない」


ラグスは、静かに首を振る。


「それが、限界だ」


一歩、前に出る。


「お前は、すでに選ばせている」


「“通すか、排するか”」


「それを、相手に委ねている」


「だが」


ラグスは、はっきりと言った。


「人は、委ねられるほど強くない」


「だから」


「私が選ぶ」


空気が、完全に凍る。


悠一は、静かに答えた。


「……それは、支配だ」


「違う」


ラグスは言い切る。


「救済だ」


二人の間で、糸が張り詰める。


赤でも、青でもない。


だが、

次は確実に、戦う。


ラグスは、踵を返した。


「今日は、ここまでだ」


「次は」


振り返り、告げる。


「お前が“選ばざるを得ない場所”で」


「決着をつける」


ラグスは去った。


残された者たちは、動けない。


やがて、男が叫んだ。


「……退け!」


陣が、崩れる。


戦闘は、終わった。


だが――

勝敗は、ついていない。


不屈三牙が、悠一の元に戻る。


ミロ「……完全に、指名だな」


ガル「逃げられねぇ」


ニィ「次は、本気だ」


エルドが、低く言った。


「選ばされたな」


悠一は、空を見上げた。


「……ああ」


「でも」


糸を、強く握る。


「それでも、選ばせる」


赤を使った代償は、もう払った。

次は――

その先だ。


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