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強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


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第七十九話 評価は、外から届く


朝の空気は、冷えていた。


町の集会が終わった翌朝。

人々の顔には疲れが残っている。

だが、逃げ切った疲れではない。

考え切った後の疲れだ。


悠一は宿の外で伸びをし、静かに息を吐いた。


(……今日は、来る)


理由はない。

だが、糸がそう告げている。


色は無色。

細く、だが広く張り巡らされている感覚。


「顔色悪いな」


ミロが言う。


「寝てないだろ」


ガルが腕を組む。


「夜通し会議なんて、町の連中も大変だ」


ニィが淡々と続ける。


「だが、必要な工程だった」


エルドは少し離れた位置で、荷を確認している。

相変わらず、こちらを見ない。


「……来る」


悠一が言った瞬間だった。


町の門の方が、ざわつく。


「馬だ」


「数人、武装してる」


「――役人か?」


視線が、一斉に集まる。


やがて、門をくぐってきたのは三人。

揃いの外套。

腰に剣。

背筋が、やけに真っ直ぐだ。


(……国だな)


町の人々が、自然と道を開ける。


先頭の男が、代表の前で止まった。


「視察に来た」


淡々とした声。


「この町で起きた件について」


代表が、深く一礼する。


「……ご足労を」


男は、視線を巡らせた。


「噂は、聞いている」


「糸を使う旅人」


「夜の混乱」


「倉庫の件」


一つ一つが、正確だ。


「処理は?」


「町で、行いました」


代表は答える。


「公開し、話し合い、修正しました」


男は頷いた。


「記録と一致する」


「……記録?」


ミロが小声で呟く。


ニィが即座に答える。


「外からの観測だ」


男は、悠一に視線を向けた。


「君が、糸の使い手か」


悠一は、頷くだけ。


「力を使ったか」


「使っていない」


即答。


男は眉を動かさない。


「使えなかったのか」


「使わなかった」


一瞬、沈黙。


男の隣にいた女が、口を開いた。


「それが、記録と違う」


「……どう違う」


「噂では」


「“糸で制圧した”とある」


悠一は、ため息をついた。


(……出たな)


「噂だ」


「町で訂正した」


男は、町の代表を見る。


「事実か」


代表は、迷わず頷いた。


「事実です」


「制圧はしていません」


「判断を、町に返しました」


男は、少し考える。


「……珍しい」


「何が」


「力を持つ者が、責任を拒否する例は少ない」


エルドが、低く言った。


「合理的だ」


男が、ちらりとエルドを見る。


「……商人か」


「名は要らない」


エルドは答えた。


男は、わずかに口角を上げた。


「記録通りだ」


ミロが小さく呟く。


「外から、見られてるな」


ガルが歯を鳴らす。


「嫌な感じだ」


ニィが即座に言う。


「評価だ」


男は、再び悠一を見る。


「力を示せ」


場の空気が、一気に張り詰めた。


町の人々が、息を止める。


悠一は、首を横に振った。


「断る」


「理由は」


「ここは、町だ」


「……視察だ」


「視察なら、結果を見ろ」


男は、一拍置いた。


「結果とは」


「割れていない」


「死人も出ていない」


「混乱は、収束している」


「それが、結果だ」


沈黙。


女が、男に小声で何かを伝える。


男は、少しだけ眉を寄せた。


「……確かに、数値上は安定している」


「だが、潜在的危険は――」


「消えない」


悠一は遮る。


「だから、管理しない」


「管理すれば、依存が生まれる」


「依存は、破綻を呼ぶ」


男は、じっと悠一を見る。


「……君は、国に来ないか」


ざわり。


ミロが声を上げそうになり、ガルが止める。


ニィの目が、細くなる。


「招致だ」


エルドが、低く言う。


「高くつく」


悠一は、即答した。


「行かない」


男は驚かない。


「理由は」


「旅の途中だ」


「……それだけか」


「十分だ」


男は、しばらく黙った。


やがて、深く息を吐く。


「分かった」


「今回は、記録のみとする」


女が、手帳に何かを書き込む。


「評価は?」


代表が、恐る恐る聞く。


男は答える。


「保留だ」


ざわめき。


「危険でも、安全でもない」


「だが――」


視線が、悠一に戻る。


「“扱いにくい”」


悠一は、少しだけ笑った。


「よく言われる」


男は、踵を返す。


「この町の判断は、尊重する」


「だが」


「外は、いつまでも待たない」


そう言い残し、三人は去っていった。


門が閉まる。


空気が、ゆっくり戻る。


ミロが、息を吐く。


「……国に目をつけられたな」


ガルが肩を回す。


「面倒だ」


ニィが静かに言う。


「だが、敵対ではない」


エルドが、悠一を見る。


「売れなかったな」


「……何が」


「安全」


「高すぎたか」


悠一は、空を見上げる。


雲が、ゆっくり流れている。


「……いい」


「安売りする気はない」


糸の張りが、ほんの少しだけ強くなる。


赤も、青も、使っていない。

だが――

世界が、評価を始めた。


それは、祝福でも警告でもない。


ただの――

観測だ。


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