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強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


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第七十八話 責任は、名前を欲しがる


鐘の音は、昼より低く響いた。


夕刻。

人の集まりは広場に向かう。

それは、昨日の「判断」と同じ形だ。

だが、空気は違う。


(……集められてる)


悠一は、通りを歩きながら感じ取った。

糸は出していない。

それでも、張りが一点に寄る感覚がある。


不屈三牙は、自然と歩調を合わせる。


ミロが言う。


「今日は、視線が逃げないな」


ガルが低く唸る。


「見られてるってより……数えられてる」


ニィが即座に補足する。


「責任の所在を、測っている」


エルドは、少し後ろで歩く。

視線は前。

声はまだ出ない。


広場には、すでに人が集まっていた。


商人、職人、宿屋、倉庫番。

そして――昨日、倉庫の前にいた男。


中央に立つのは、別の人物だった。

町の“代表”として名前が通る者。

穏やかな顔。

だが、目は冷たい。


「……集まってもらった」


その一言で、ざわめきが止む。


「昨夜、町の判断が揺れた」


「倉庫の件だ」


視線が、一斉に悠一へ向かう。


(……来たな)


男は続ける。


「結果として、人は解放された」


「混乱は、最小限で済んだ」


「だが――」


一拍。


「誰の判断だったのか」


沈黙。


誰かが、小さく言った。


「……糸の人だ」


別の声。


「止めたのは、あの人だ」


「じゃあ、責任も――」


言葉が、途中で止まる。


エルドが、低く言った。


「来たな」


ミロが歯を食いしばる。


「背負わせる気だ」


ガルが一歩前に出かけ、ニィが止める。


「……まだだ」


代表の男が、悠一を見る。


「君が、止めた」


「事実だ」


悠一は頷いた。


「ならば」


男は、穏やかな声で言う。


「今後、この町で起きる噂の管理を」


「君に任せたい」


ざわり。


ミロが思わず声を上げる。


「は?」


ガルが睨む。


「丸投げかよ」


ニィが、冷静に言う。


「責任の集中」


悠一は、ゆっくりと息を吐いた。


「断る」


即答。


代表の男は、眉をひそめた。


「……なぜだ」


「それは、町の仕事だ」


「君は、止められた」


「止めただけだ」


悠一は言う。


「管理は、続ける行為だ」


「続けるなら、仕組みが要る」


「俺は、その仕組みじゃない」


男は、少しだけ声を強める。


「だが、力がある」


「あるからこそ、責任が――」


「違う」


悠一は、言葉を切った。


「力がある者が、管理するなら」


「町は、学ばない」


ざわめき。


「だが――」


男は食い下がる。


「町が割れるよりは、いい」


その瞬間、糸の張りが一段、強くなる。


悠一は、糸を出さない。

だが、声は低くなる。


「町が割れないために」


「誰かを縛るなら」


「それは、昨日の倉庫と同じだ」


空気が、凍る。


代表の男が、言葉を失う。


エルドが、一歩前に出た。


「計算が違う」


「……何の」


「責任の置き場だ」


「力のある者に置けば、短期的には安定する」


「だが――」


エルドは、淡々と言う。


「その町は、二度と自分で決められない」


「……商人の意見か」


「現実の意見だ」


ミロが、代表の男を見る。


「昨日、町は選んだ」


「受け入れる、とな」


ガルが続ける。


「排する、じゃねぇ」


ニィが締める。


「管理を押し付けるのは、排除に近い」


代表の男は、深く息を吐いた。


「……なら、どうしろと言う」


悠一は、少し考えた。


(……ここだ)


「公開する」


「何を」


「昨夜の判断の経緯を」


「誰が、何を恐れ」


「誰が、どこで間違え」


「どう修正したか」


「……それで?」


「責任を、分散させる」


「町全体で、背負う」


ざわめきが、大きくなる。


「無理だ」


「揉める」


「収拾がつかない」


悠一は、頷いた。


「その通りだ」


「だが」


「揉めない町は、学ばない」


代表の男は、しばらく黙った。


そして、言った。


「……君は、町を壊す気か」


悠一は、静かに答える。


「壊さない」


「育てる」


沈黙。


やがて、代表の男は、苦笑した。


「……厄介な客だ」


「自覚はある」


悠一は答えた。


エルドが、低く言う。


「だが、正しい」


代表の男は、頷いた。


「……分かった」


「今夜、集会を開く」


「全て、話す」


「その上で、町で決める」


悠一は、一礼した。


「それでいい」



夜。


再び、集会所。


人は多い。

だが、怒号はない。


昨夜の倉庫の件。

恐れ。

誤った判断。

修正。


全てが、語られた。


重い。

だが、逃げない。


悠一は、後ろで立っているだけだ。

糸も、出さない。


終わり際、誰かが言った。


「……じゃあ、誰が責任を取る」


沈黙。


その時、前に出たのは――倉庫の男だった。


「……俺だ」


ざわめき。


「だが」


男は続ける。


「一人じゃない」


「恐れたのは、俺だけじゃない」


「だから」


「町で、次を決めよう」


空気が、動いた。


ミロが、小さく言う。


「……やったな」


ガルが頷く。


「背負わせなかった」


ニィが静かに言う。


「名指しを、避けた」


エルドが、悠一を見る。


「売れなかったな」


「……何が」


「責任」


「高すぎるからな」


悠一は、少しだけ笑った。


糸の張りが、わずかに緩む。


赤も、青も、使っていない。

だが――

町は、一歩進んだ。


次に来るのは、

町の外からの評価だ。

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