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強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


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第七十四話 意志は、値札を破る


昼の町は、朝よりも騒がしかった。


露店が並び、人の流れが太くなる。

だが、その賑わいはどこか歪んでいる。

笑い声の裏に、ひそひそとした囁きが重なっていた。


「……完全に“見られてる”な」


ミロが低く言う。


ガルは肩を回す。


「見られるだけなら、殴れねぇ」


ニィが補足する。


「殴れば、正当化される」


悠一は歩きながら、糸の張りを確かめた。

無色。細い。

だが、町全体に薄く広がっている感触がある。


(……噂が網になってる)


エルドは一歩後ろで歩いている。

視線は前。

口は閉じたまま。


「今日は、露店が多いな」


悠一が言うと、エルドは短く答えた。


「増えた」


「理由は」


「人が集まると、売り手も集まる」


「……噂目当て?」


「半分はな」


半分。

残りの半分は――様子見だ。


通りの角で、声が飛んだ。


「糸の人だ!」


「本当に来てる!」


人だかりができる。

期待と不安が混じった目。


悠一は足を止めない。

止まれば、中心になる。


「通してくれ」


低く言うだけで、人は割れた。

恐れではない。

判断を委ねた目だった。


(……良くない)


委ねられると、縛られる。


路地に入ると、空気が変わった。

ざわめきが遠のき、足音が響く。


「……来る」


ニィが言った。


ミロが頷く。


「数は少ない」


ガルが歯を鳴らす。


「なら、話だな」


奥から、三人。

朝の仲介とは違う。

装備も、目つきも。


「糸の使い手」


先頭の男が言う。


「“お願い”だ」


悠一は止まる。


「依頼は断った」


「知っている」


男は頷いた。


「だから、お願いだ」


言葉は柔らかい。

だが、退路を塞ぐ位置取り。


エルドが、低く言う。


「値段は?」


男は一瞬だけ、目を細めた。


「値段の話じゃない」


「なら、取引じゃない」


「……意志の話だ」


その言葉に、空気が締まる。


悠一は、糸を出さない。


「俺の?」


「町の」


男は続ける。


「お前がここにいるだけで、町が揺れる」


「揺れは、割れに繋がる」


「だから――去ってほしい」


ガルが一歩前に出る。


「それが“お願い”か」


ニィが冷静に言う。


「去れ、は命令に近い」


ミロが悠一を見る。


「判断は、あんたにある」


悠一は、少し考えた。


去る。

それは簡単だ。

だが、逃げたという噂が残る。


「断る」


悠一は言った。


男は、ため息をつく。


「……なら、条件を」


「条件はいらない」


「聞け」


男の声が、少し強くなる。


「町は、噂で回っている」


「噂を壊す者は、町を壊す」


「お前は、壊しかねない」


悠一は、静かに答えた。


「壊す気はない」


「だが、縛られる気もない」


男は、仲間を見る。


「……選択は一つだ」


その瞬間、糸が震えた。


青でも、赤でもない。


張りが、太くなる。


糸は、縄ほどの太さに変わった。


色は無色。

ただ、強度。


「近づくな」


悠一の声は低い。


男たちは、足を止めた。


殴られていない。

引き寄せられていない。

結ばれてもいない。


それでも、進めない。


「……威圧か」


男が言う。


エルドが淡々と答えた。


「事実だ」


「事実?」


「近づけば、危険だ」


「だから、止まった」


「判断は、正しい」


男は歯を食いしばる。


「……これ以上は、引けない」


「引け」


悠一は言った。


「噂は、町が選んだ」


「なら、町が処理する」


「俺に投げるな」


男は、しばらく沈黙し、やがて言った。


「……分かった」


一歩、下がる。


「だが、忠告はする」


「噂は、意志を持つ」


「意志を持った噂は、止まらない」


「誰かが――刃になる」


悠一は頷いた。


「分かってる」


「だから、ここにいる」


男たちは去った。


路地に、静寂。


不屈三牙が、同時に息を吐く。


ミロが言う。


「……完全に、次の段階だな」


ガルが拳を握る。


「殴らずに、止めた」


ニィが分析する。


「使わない選択が、最も強い」


エルドが言う。


「だが、期限ができた」


「……いつまで」


「町が噂を“処理”できるまで」


「できなければ?」


エルドは淡々と答えた。


「命令になる」


悠一は、空を見る。


雲が、少し厚い。


「……なら」


悠一は言った。


「町が選ぶ前に、俺が選ぶ」


「何を」


「姿勢だ」


「隠れない」


「煽らない」


「使わない」


「だが――」


糸を、ゆっくりと指に巻く。


「張る」


エルドが、小さく頷いた。


「売れる」


「何が」


「時間が」


不屈三牙が、並ぶ。


ミロが言う。


「俺たちも、張る」


ガルが続ける。


「三人でな」


ニィが締める。


「噂に飲まれないために」


町は、動いている。


噂は、形を持ち、

依頼になり、

意志になった。


次は――

衝突だ。


第74話は、そこで終わる。


糸は切れない。

縁は結ばれない。


だが、

値札は、もう破られた。


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