第五十四話 一人になった時に残るもの
日が落ちるのは、早かった。
昼間の出来事が嘘のように、街道は静まり返っている。
人の気配も、獣の声も遠い。
悠一は、焚き火を起こさず、月明かりだけを頼りに腰を下ろした。
(……少し、疲れたな)
身体ではない。
心の方だ。
不屈三牙との一件。
盗賊の怯えた目。
自分が糸を出した、あの一瞬。
(……やりすぎてはいない)
そう思いたい。
だが、
正しかったかどうかは、別だ。
ツムギは、肩口で静かに揺れている。
介入も、反応もない。
(……お前は、何も言わないな)
当然だ。
ツムギは、判断しない。
判断するのは、いつも自分だ。
悠一は、糸を一本、指先で弄んだ。
無色。
細い。
「……結んだ、か?」
誰に向けた言葉でもない。
不屈三牙と。
あの盗賊と。
町の空気と。
(……結んだな)
縛ったわけじゃない。
導いたつもりもない。
だが、
影響は残った。
それが、少し怖い。
⸻
眠れずに、空を見上げる。
雲が流れ、月が出たり隠れたりする。
(……俺は、どこまでやるんだろうな)
助ける。
守る。
結ぶ。
それは、簡単だ。
だが、
結んだ先の責任は、重い。
「……選んだのは、俺だ」
小さく、そう呟く。
ツムギが、ほんのわずかに揺れた。
介入ではない。
同意でもない。
ただ、
聞いているだけ。
「……それでいい」
悠一は、そう言った。
「お前が、何も言わないのは」
「……俺が、考え続けるためだ」
糸を巻き、袋に戻す。
今日は、もう何もしない。
何かを結ぶのは、明日でいい。
⸻
遠くで、犬が鳴いた。
人の暮らしが、まだ続いている証拠だ。
(……世界は、変わってない)
(……でも)
自分だけは、
確実に一歩、進んでいる。
それが正しいかどうかは、
まだ分からない。
だが――
立ち止まってはいない。
悠一は、目を閉じた。
次に目を開けた時、
また歩くために。
ツムギは、動かない。
その静けさが、
今は、ありがたかった。




