第五十二話 やってみたら、違った
「よし、確認するぞ」
ミロが、指を一本立てた。
場所は、町外れの倉庫跡。
人もいない。
声を出しても問題ない。
「人質がいる想定だ」
「周囲に人も多い、って設定な」
ガルが腕を回しながら言う。
「で、糸は使えない」
「そもそも俺たち、糸ないしな」
「そこは気にするな」
ミロが即座に突っ込む。
ニィは、少し離れた位置で地面を見ていた。
「……前提、もう一つ」
「相手は、焦ってる」
「計画的じゃない」
「つまり――」
「予測が、ズレる」
ミロとガルが顔を見合わせる。
「……難しくないか?」
「難しい」
ニィは、即答した。
⸻
「じゃあ、行くぞ!」
ミロの合図で、想定開始。
ガルが“犯人役”、
ミロが“突入役”、
ニィが“周囲確認”。
「動くな!」
ガルが、適当に叫ぶ。
その瞬間――
「今だ!」
ミロが飛び出す。
早い。
勢いもある。
「おおっ、いける――」
ガルが言い終わる前に、
ミロの足が瓦礫に引っかかった。
「うおっ!?」
盛大に転ぶ。
「……はい、止め」
ニィが即座に言った。
「転んだ時点で終わり」
「え、今のなしで」
「なしにできるなら、人質事件は起きない」
ミロが黙る。
ガルが、腕を組んだ。
「……じゃあ俺が行く」
次は、ガルが突入役。
ミロが犯人役。
「来るなって言ってんだ!」
ミロが叫ぶ。
ガルは、真正面から突っ込んだ。
「力で制圧!」
「――遅い」
ニィの声と同時に、
ミロの腕が“人質役”に伸びる想定。
「……アウトだな」
ガルは、歯を食いしばる。
「くそ……」
⸻
三人は、地面に座り込んだ。
「……全然ダメだな」
ミロが言う。
「考えたのに」
「考えた“つもり”だ」
ニィは、淡々としている。
「現場は、思ったより狭い」
「人は、思ったより動く」
「相手は、思ったより揺れる」
「……じゃあ、どうすりゃいい」
ガルが聞く。
ニィは、少し考えた。
「多分」
「俺たち、全員が同時に正解を出そうとしてる」
ミロが、首を傾げる。
「それ、ダメなのか?」
「ダメ」
ニィは頷く。
「一人が“決める”」
「残りは、従う」
「……リーダーってやつか」
ミロが苦笑する。
「……俺?」
「今のところは」
ニィは、否定しなかった。
ガルが、にやりと笑う。
「じゃあ、次はミロの判断を信じる」
「ミロが突っ込めって言ったら、突っ込む」
「止まれって言ったら、止まる」
ミロは、少し驚いた顔をした。
「……いいのか?」
「失敗しても」
ガルは、肩をすくめる。
「その失敗、俺たちで背負う」
ニィも、静かに頷く。
「それが、チームだ」
⸻
もう一度、立ち上がる。
今度は、動きが遅い。
慎重すぎるくらい。
「……まだ足りないな」
ミロが言う。
「でも」
ガルが笑った。
「前より、マシだ」
ニィは、遠くを見る。
「……あの人なら」
「この状況でも、迷わない」
「だが」
一拍。
「俺たちは、俺たちのやり方を作るしかない」
夕暮れが、倉庫跡を染める。
不屈三牙は、まだ未熟だ。
だが――
立ち止まってはいない。
次に同じ場面が来た時。
今度は、
少しだけ違う動きができるはずだった。




