第五十一話 使わなかった、という衝撃
町外れの空き地。
不屈三牙は、円になって座っていた。
「……聞いたか」
ミロが、腕を組んだまま言う。
「聞いた」
ニィが即答する。
「聞いたに決まってるだろ」
ガルは地面に寝転び、空を見上げていた。
三人の間に、微妙な沈黙が落ちる。
「……糸、使わなかったらしい」
ミロの声が、どこか重い。
「使えなかった、じゃない」
ニィが訂正する。
「使わなかった」
「そこだよな……」
ガルが起き上がり、頭を掻いた。
「縄にもできるんだろ?」
「綱だっていけるって噂だ」
「なのに、使わなかった」
「人質だったからだ」
ニィは淡々と続ける。
「人が多かった」
「選択肢が多すぎた」
「だから――」
「だから“話した”」
ミロが、ぽつりと呟く。
三人、同時に黙る。
⸻
「……俺なら」
ガルが言った。
「糸で腕ごと引っ張る」
「早いし、強い」
「でも――」
ニィが言葉を継ぐ。
「刃が動く可能性がある」
「子どもが怪我する」
「……ああ」
ガルは唸る。
「じゃあ、俺は?」
ミロが言う。
「後ろに回って、殴る」
「……距離が足りない」
ニィは即座に否定する。
「一歩遅れたら、終わり」
「……くそ」
ミロは、地面を叩いた。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
「正解は一つじゃない」
ニィは言う。
「でも――」
一拍。
「あの人は、力を使わない選択をした」
「それが、一番安全だった」
「……安全、か」
ガルが腕を組む。
「俺たち、いつも逆だな」
「力を使える時ほど、使う」
「使えない時は、突っ込む」
「だから、負ける」
ミロが苦笑する。
「……はっきり言うな」
「事実だ」
ニィは容赦しない。
⸻
しばらくして。
ガルが、ふと呟いた。
「……悔しいな」
「何が?」
ミロが聞く。
「勝てねえのは、まあいい」
「でもよ」
ガルは、拳を握る。
「俺たち、あの場にいたら“助けられなかった”」
その言葉に、空気が変わった。
ニィが、ゆっくりと頷く。
「……そう」
「強さじゃない」
「判断だ」
ミロは、立ち上がった。
「じゃあさ」
「俺たち、どうする?」
ニィは、少し考えてから答える。
「次に同じ場面が来たら」
「迷わないための準備をする」
「……具体的には?」
ガルが聞く。
「役割を、決める」
ニィは指を立てる。
「人質がいる時」
「人が多い時」
「糸が使えない時」
「それぞれ、“誰が何をするか”」
ミロは、にやりと笑った。
「……いいな」
「不屈三牙、頭脳派になるか?」
「無理だろ」
ガルが即座に突っ込む。
「俺は力だ」
「ミロは勢いだ」
「お前は……まあ、考える係だ」
「自覚はある」
ニィは平然としている。
⸻
しばらくして。
ミロが、空を見上げた。
「……あの人さ」
「糸を使わなかったって話」
「それでも、勝ったんだよな」
「勝った、というより」
ニィは言い直す。
「守った」
「……ああ」
ガルは頷いた。
「俺たちも、いつか」
「同じ場面に立つかもしれない」
「その時」
ミロは拳を握る。
「負けねえ」
「今度は、強さじゃなくて」
「選び方で」
三人は、顔を見合わせる。
そして――
同時に笑った。
「……遠いな」
「遠い」
「でも」
ニィが、静かに言った。
「追いかける背中としては、悪くない」
不屈三牙は、立ち上がる。
次は、どう動くか。
それを考えながら。
彼らもまた――
結ばれつつあった。




