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強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


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第三十九話 結び目の重さ


雨は、いつの間にか止んでいた。


だが、空は晴れない。

雲は低く垂れ、森の色を鈍くしている。


悠一は街道を歩きながら、

何度目か分からない深呼吸をした。


(……重い)


身体ではない。

傷でも、疲労でもない。


判断の奥が、重い。


赤を使った直後から、

頭の中に、微かな引っ掛かりが残っていた。


(……反動、か)


真化の力は、代償を要求する。


鹿は、何も言わなかった。

だが――

「軽く使えるものではない」

それだけは、はっきり伝わっていた。


ツムギは肩口。


揺れない。

だが、いつもより“近い”。


(……使ったのは、俺だ)


だから、

守りも、介入もない。


悠一は、歩調を落とした。


視界の端で、糸が見える。


普段なら、気にならない量だ。

だが今は――

多すぎる。


人と人。

人と場所。

出来事と出来事。


無数の細い縁が、

視界に滲むように重なっている。


「……見えすぎるな」


呟く。


赤を使った影響だ。


結んだ縁は、ほどけた。

だが、“結んだという事実”は残る。


(……これが、責任か)


悠一は、無意識に糸を引き出しかけ、

すぐに止めた。


(……使うな)


今は、使わない。


使えば、

この重さを誤魔化すことになる。



昼前、街道沿いの小さな休憩所に着いた。


旅人が数人。

商人らしき男もいる。


悠一は、水を買い、隅に座った。


会話が、耳に入る。


「……聞いたか?」


「赤い糸の話だろ?」


(……来たか)


胸が、僅かに沈む。


「盗賊を操ったって」


「逆らえなくしたらしい」


「人を縛る魔法だとか」


悠一は、黙って水を飲んだ。


(……歪むな)


事実は、違う。


だが、

噂は、事実より速い。


「剣も魔法も使わないらしい」


「糸だけで、だとよ」


「……気味悪いな」


言葉は、刃のように軽い。


悠一は、立ち上がった。


ここにいても、

訂正はできない。


(……いや)


(……する必要もない)


自分が選んだ。

それでいい。



その頃――

別の街道。


三人が、歩いていた。


先頭を行くのは、背の低い男――ミロ。

歩幅は小さいが、視線は鋭い。


その後ろ、

腕を組んで歩く大柄な男――ガル。


最後に、

周囲を見渡しながら歩く女――ニィ。


「……噂、増えてるね」


ニィが言った。


「赤い糸で人を縛るって」


「縛ってねえだろ」


ガルが鼻を鳴らす。


「話盛りすぎだ」


ミロは、黙ったまま歩いていた。


「……でもさ」


ニィが続ける。


「赤い糸って、聞き捨てならない」


「“縁”に触る力だよ」


ガルが足を止める。


「……面倒な相手だな」


ミロが、ようやく口を開いた。


「だから、会う」


二人が、ミロを見る。


「噂が本当かどうか」


「縛るのか、戻すのか」


「……それを、自分たちの目で確かめる」


ニィが、わずかに笑った。


「なるほど。倒す前提じゃないんだ」


「まだ、だ」


ミロは前を見たまま言う。


「俺たちは、不屈三牙だ」


「――簡単に諦めない」



夕方。


悠一は、森を抜けた先の丘に立っていた。


遠くに、街が見える。


(……噂、来てるな)


それでも、足は止まらない。


止まれば、

考えなくなる。


(……重いのは、当然だ)


赤を使った。


選択に、触れた。


それは、

覚悟がなければ、使えない力だ。


「……ツムギ」


小さく呼ぶ。


ツムギは、揺れた。


介入はない。


だが――

見ている揺れだった。


悠一は、歩き出す。


重さを、抱えたまま。


噂も、視線も、

避けずに進む。


知らない誰かが、

こちらを見ている。


その中に――

試そうとする視線が混じっていることを、

悠一は、まだ知らない。


だが――

物語は、確かに次へ進んでいた。


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