表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/61

第三十七話 結ばなかった縁


街道を離れ、低い丘を越えた先に、小さな村があった。


柵はあるが、簡素だ。

見張りもいない。


(……守る力が足りてない)


悠一は、そう判断した。


だが、村は静かだった。

悲鳴も、争う気配もない。


「旅の人か?」


声をかけてきたのは、年配の男だった。

農具を肩に担ぎ、こちらを警戒している。


「通りすがりです」


悠一は、正直に答えた。


男は少し迷った後、村の中へ案内した。



村の中央。

数人が集まっている。


空気が、張っていた。


「……昨夜も、だ」


若い男が言う。


「盗賊だよ。姿は見せないが、畑を荒らしていく」


「追えば逃げる。だが、必ず戻ってくる」


悠一は、話を聞きながら周囲を見る。


恐怖。

怒り。

疲労。


(……縁が、見える)


真化してから、分かるようになった。


人と人の間に、

薄く、無数の糸がある。


絡まり、解けかけ、

切れそうなものもある。


(……赤を使えば)


盗賊の“次の動き”を、

縁として結び直せる。


逃げる未来を、

来ない未来に変えることができる。


(……できる)


それは、確信だった。


だが――

悠一は、動かなかった。


「……俺が見回ります」


そう言った。


村人たちは、驚いた顔をする。


「一人でか?」


「危ないぞ」


「分かってます」


悠一は、糸を指で軽く弾いた。


「でも、追い払うくらいなら、できます」


嘘ではない。

だが、全力でもない。



夜。


畑の端で、悠一は息を潜めていた。


月は、雲に隠れている。


(……来る)


気配が、二つ。


盗賊だ。


慎重だが、慣れている。


(……今なら)


赤を使えば、

彼らは必ず、こちらへ来る。


逃げる未来を、結び直せる。


(……簡単だ)


だが、その「簡単さ」が、

胸に引っかかった。


(……それは、選ばせないってことだ)


相手の未来を、

こちらの都合で縛る。


それは――

戦いじゃない。


悠一は、青を使った。


糸が淡く青く染まり、

一人の盗賊が、想定より前に出る。


「……?」


距離が、ずれた。


悠一は姿を見せ、

糸を地面に張る。


「ここまでだ」


盗賊は舌打ちし、退く。


もう一人も、すぐに後退する。


逃げる。

想定通りだ。


(……結ばなかった)


胸の奥が、少し痛んだ。


(……これで、いい)


盗賊たちは去った。


だが、

完全な解決ではない。



翌朝。


村人たちは礼を言った。


「助かった」


「しばらくは来ないだろう」


悠一は、頷くだけだった。


(……“しばらく”だ)


赤を使えば、

“二度と”にできた。


それでも――

使わなかった。


丘を越え、村を離れる。


ツムギは、肩口にある。


揺れない。


「……なあ」


悠一は、歩きながら呟く。


「俺、間違ってないよな」


答えはない。


だが、

介入もない。


それが、答えだった。


(……結ばなかった縁も、縁だ)


選ばなかったこと。

縛らなかったこと。


それもまた、

紡いだ結果なのだと――

そう、思えた。


悠一は、前を見る。


赤い糸は、まだ使わない。


使う日が来るとしたら――

それは、

相手が選ぶ未来を、守るためだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ