表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強くならない俺が、糸で異世界を生きている。  作者: 優未緋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/31

第十二話 町の手前で、糸を張る


町は、もう見えていた。


石で組まれた外壁が、遠くに横一線で伸びている。陽光を受けて白く輝き、門の影が小さく揺れていた。人の往来も増え、道には馬車の轍が何本も重なっている。


ここまで来れば、安全――

普通なら、そう思う場所だ。


「……普通なら、な」


悠一は歩みを緩め、独り言を落とした。


町の直前。

人が安心し、気が緩む場所。

そして、逃げ場が一気に減る場所。


盗賊にとっては、これ以上ない狩場だ。


「俺が盗賊なら、ここで張る」


嫌な想像ほど、当たるものだと分かっている。


悠一は、道の端へ寄り、足を止めた。

糸を指に巻き、ほどき、感触を確かめる。


「……張るか」


町が近いからこそ、慎重になる。

派手なことはできない。

だが、何もせずに進むのも愚かだ。


悠一は、草の影に糸を低く張った。


一本。

二本。

三本。


高さは、くるぶしほど。

間隔は不均等。

見た目には、何もない。


(……これで引っかかるのは、俺か相手か)


そんなことを考えながら、岩陰に身を寄せた。



来た。


最初に感じたのは、音ではない。

糸の震えだった。


一本目。

ごく、微か。


「……やっぱりな」


悠一は、ため息をつきそうになるのをこらえた。


草を踏み分け、三つの影が現れる。

装備は軽く、動きは静か。

無駄がない。


(……今までの連中より、慣れてる)


囲むでもなく、突っ込むでもない。

距離を保ち、こちらの反応を見る立ち回りだ。


「おい」


中央の男が声をかけてきた。


「町に行くのか?」


「……そうですけど」


悠一は正直に答えた。


嘘をつく意味がない。

ここで疑われる方が、面倒だ。


「一人か」


「見ての通りです」


男たちは視線を交わす。

その仕草だけで、会話が成立しているのが分かる。


(……連携、いいな)


感心している場合ではないが、事実だ。


「通してもらえると助かるんですが」


悠一は、できるだけ穏やかに言った。


男の一人が、鼻で笑う。


「そう簡単にはいかねぇ」


「でしょうね」


即答した。


「……ちなみに聞きますけど」


悠一は、糸を指で軽く弾いた。


「俺を倒して、得することあります?」


一瞬、間が空いた。


「金」


「持ってなさそうだが?」


「……正解です」


「武器」


「これですか?」


悠一は糸を軽く掲げた。


男たちの顔に、困惑が浮かぶ。


「……糸?」


「糸です」


(自分で言ってて、だいぶ情けないな)


内心で自虐しつつ、表情は崩さない。


「殺す気はない」


中央の男が言った。


「だが、通すかどうかは別だ」


「ですよね」


悠一は糸を張り替えた。


一本、切る。

別の位置に張る。


男たちは即座に気づく。


「足元だ」


「見えないが、ある」


「踏むな」


(……学習能力、高いな)


悠一は内心で評価を更新した。


ここで逃げることはできる。

だが、町の手前でそれをやれば、また追われる。


「……よし」


悠一は、一歩前に出た。


「通してもらえないなら、

 通れる道を作るだけです」


糸を一斉に張り直す。


包囲ではない。

拘束でもない。


ただ、動くと面倒になる配置。


男たちは、動けなくなった。


「……チッ」


「面倒な手だ」


「だが、切れないわけじゃない」


「切れますよ」


悠一は、即答した。


「無理に引けば。

 ただ――」


糸を、一本だけ切った。


男たちの背後。

“帰れる道”。


「……追いません」


悠一は静かに言った。


「俺も、町に入りたいだけです」


沈黙。


風が、糸を揺らす。


「……今日は、引く」


中央の男が言った。


「だが、覚えた」


「俺もです」


悠一は苦笑した。


「覚えられるの、正直困ります」


男たちは、それ以上何も言わず、後退した。



静かになった道で、悠一は大きく息を吐いた。


「……やっぱり、町の前は危ないな」


誰に言うでもなく呟く。


糸を回収し、指に巻く。

感触が、少しだけ変わっていた。


「……増えた、な」


倒していない。

勝ってもいない。


だが、通った。


悠一は町の門を見上げる。


人の世界。

ルールの違う場所。


「……さて」


糸と針を確かめ、歩き出す。


ここから先は、

逃げるだけでは、生きられない。


だが――

糸を張る理由は、もうはっきりしている。


進むためだ。


悠一は、町へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ